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【第61話】陽花充電モードと晩ごはん

「それでは、充電モードに入ります」


 天音ちゃんと別れて、自宅のアパートに戻った俺は、まず、向田さんから預かったお泊りセットから、充電パッドを取り出して、陽花の背中と洋服の間に差し込んだ。スマホのワイヤレス充電と同じで、パッドを背中に当てて、パッドから伸びるコードをコンセントに差し込むと充電が開始された。


「ああ、うん、今日はお疲れさま。ゆっくり休んで良いと思うよ」


 せっかく陽花がきてくれたけど、晩ごはんは適当にあり合わせで作って食べよう。


「すみません、バッテリー残量が15%まで低下してしまって……体を動かすことが出来なくなると、涼也さんに運んでもらうしか無くなってしまいますので……」


 まあ、ここで無理をして倒れられても困るので、料理とかの家事はせずに、まず充電してもらうことになった。


「活動停止状態になってから、涼也さんにお姫様抱っこで運んでもらうという手もあるのですが……」


 なぜ、お姫様抱っこ限定なのだろうか……まあ、プールの時みたいにバッテリーセーブ状態になると体育座りになることが多いのかな? 電車の中ではカモフラージュで座ったまま寄りかかってきていたから、必須というわけではないと思うが、体育座り状態や椅子に座った状態を運ぼうとするとお姫様抱っこになってしまうのか。


「でも、今日はちょっとだけ重いバッテリーを積んでいますので、ちょっと、その、恥ずかしくって……」


 ん? それって、体重が重くって恥ずかしいということかな? いや、別に太ってるわけじゃないから、体重なんか気にする必要なくない?


「普段、バイトで運んでいる瓶ビールの2ケース分より、重くなりますので……」


 あっ、なるほど、瓶ビール2ケースは55kg弱だけど、コンビニのバイトに慣れてくると、普通に運べるようになってる。でも、それ以上の重さは未知の領域だな。いざというときに俺に重くて運べないと言われたらショックなのかもしれないな。


「涼也さんがギックリ腰にでもなられたら、収入面でも心配ですし」


 恥ずかしいだけじゃなくて、実質的なところを考えてくれてるのか……確かに、バイト代なくなると生活的に厳しくなるし、夏休みは臨時バイトに応募したり、コンビニの昼間シフトに入ったりして、かき入れ時なので、そこでギックリ腰はつらいかもしれない……って、一度もギックリ腰にはなったことないんだが、何の心配してるんだ?


「人間は、重い荷物を持つと、ギックリ腰という状態になって、動けなくなると聞きます。その状態で、2人とも動かなくなってしまうと、座してバッテリー切れ状態になるまで待つことになります」


 終末感ただよう言い回しをしないで欲しいが、完全にシャットダウンしてしまうと、活動停止になってしまうので、傍から見ると、息してないみたいに見えるのか……それは確かにマズイな……


「その状態で、救急車などを呼ばれると、とても面倒な事態に発展します」


「うん、分かった。じゃあ、まあ、ゆっくり休んでもらって、その間、食事の支度でもしてるよ」


 まず、お米を研いで、炊飯器にセットしておく。とりあえず、ご飯があれば、後は何とかなる。1人で晩ごはん食べるなら、カップラーメンとかでも良いけど、そんな食事を陽花に見られると「申し訳ありません、私のせいでこのような食事になってしまって」とか言われて面倒くさそうだし。


「きちんとご飯を炊くのは素晴らしいです。炊けるまでの間におかずを用意することも出来ますので、カップラーメンだけという食事より栄養バランスが良くなります」


 あぶなかった……何とか正しい選択肢を選んだようだ。だが、おかずを用意しないと何か言われそうだな……正直、納豆と即席味噌汁でも良いかなと思ってたけど「朝食のような晩ごはんですね」とか言われそうだ。でも、食材が何にも無いんだよな……キャベツと玉ねぎの残りはあるけど、肉がない。


「お味噌汁は作った方が良いと思いますよ、即席のお味噌汁より、食物繊維を摂取することができます」


 うん、そこも読まれてるな……まあ、キャベツと玉ねぎを茹でてだし入りの味噌を入れるだけだから、簡単だし、良いか……と、そんなこんなで野菜を切っていたら、ピンポーンとインターホンが鳴った。誰だろう、こんな時間に……しかも、陽花が来ているときに来客なんて、どうしたら良いか考えてなかった……


 ドアスコープを覗いて、誰が来たか見てみると、そこには天音ちゃんの顔が……どうしたんだろう? でも、天音ちゃんなら陽花が来てることを知ってるので、少しホッとしつつドアを開ける。


「突然すみません、お母さんが今日一日お世話になったお礼にこれを持っていきなさいって……」


 と、紙袋に入ったタッパーを手渡してくる……中には、肉じゃがと、ブロッコリーとベーコンの炒めものと、春雨のサラダが入っていた。


「私も作るの手伝いましたので、良かったら召し上がってください」


 佳乃さんの気遣いにも感激だが、天音ちゃんも手伝ったということは、プライスレスだな。おすそ分けすごく嬉しい。


「ありがとう! ちょうど、ご飯と味噌汁だけ作って、おかずどうしようかと思ってたところだったんだ」


「そうだったんですね! お役に立てたようで良かったです! じゃあ私はこれから夕飯なので、これで失礼します!」


 満面の笑みで、アパートの階段を手を振りながら降りていく天音ちゃん。うん、やっぱり天使だったな。部屋に戻ると、聞き耳を立てていた陽花が、


「天音さんでしたね、何をいただいたんですか?」


 と、聞いてくるので、おかずをもらったことを説明すると、


「カップラーメンで済まそうとしなかったのが良かったんですね」


 うん、そこは横着しないで良かったと思う。ちゃんとした生活をしようと思うと、こういう良いことが起こることもあるんだな。


 ――片手鍋のお湯に切った野菜を入れて、野菜がしんなりするまで茹でたら、味噌を入れてひと煮立ちさせる……味噌汁が完成したら、ちょうど、ご飯が炊けるアラームが鳴った。


 思いがけず豪華な晩ごはんになったな……佳乃さんと天音ちゃんにも感謝しつつ、なんとなく1人で暮らしているより、陽花と一緒に居ると、生活が豊かになる気がする。


 面倒見てもらうって、何から何までやってもらうってことじゃなくて、自分ひとりだと面倒だからやらないことも、一緒ならやろうって気になって、それが良い方向に進んでいくってことなのかもしれない。


 充電モードのまま、俺の食事を見守る陽花を見て、そんな風に思うのだった。

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