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【第54話】水着と夏休みの始まり

「ワタシもミズギ買いにイキマス」


……うん、完全にやらかした。


言葉のチョイスを誤ったせいで、サマンサ先生がまさかの買い物同行メンバーに加わることになってしまったのだ。


「先輩、やりますね」


親指を立てながら笑う高木さんが、「失礼しまーす」と颯爽と姿を消す。どうやら俺が策士的手法でサマンサ先生を口説き落としたと誤解しているようだ。違う、そうじゃない。


「イマ、ニモツとってキマス」


そう言い残して控え室に消えていったサマンサを見送りながら、俺は自分の説明力のなさを呪った。


『いっそ、プールにも誘ってみますか?』


スマホ越しに陽花の声。……いや、マジで言ってんのか?


『どうせ今日会うことになりますし、正体を知らずにどこまでバレないのか、ちょっとした実験ですね』


チャレンジャーだな、おい。


とはいえ、今日サマンサが同行することは避けられない。バレないようにする努力は必要ってことか。


***


校門で悠二と合流すると、何とも言えない視線をこちらに向けてきた。


「ヨロシクおねがいシマス」


そうサマンサが挨拶すると、悠二は俺に「勇者を見る目」で視線を送ってくる。ちがう、断じて違うんだ。今日に限っては水着姿を見たかったとかじゃなく、誤解から生まれた同伴であって――何を言ってもただの言い訳だな。


そのまま、俺と悠二、そしてサマンサの三人は、最寄りの大きな駅へと向かった。


高身長で日本人離れした顔の悠二に外国人女性のサマンサが並ぶと、完全に外国人カップルを案内している日本人学生の構図になってしまっていて、何とも言えない気分になる。


そして、待ち合わせ場所の駅に着くと、真っ先に現れたのは三千花だった。


「お待たせしましたー……って、えっ? サマンサ先生!?」


明らかに驚いた様子で、俺の脇腹を小突いてくる。


「なんでサマンサ先生が居るのよ」と無言の詰問。


「いや、説明が難しいんだけど、流れで……」


小声で耳打ちすると、ジト目で「サイテー」と吐き捨てられる。いやいや、断じて水着目当てとかじゃないからな! 違うんだって!


「ニホンで買い物、楽しみデス」


……そんなこんなで時間になる頃、陽花、向田さん、そしてなぜか麗香さんまでが合流した。


「なぜ私が一緒かって? こんな可愛い子たちが水着選びするのに、私が来ないわけがないじゃないか!」


なぜか逆ギレ調で開き直られる。たしかにそうだけど、いや、絶対プールまで来る気でしょこの人。


「君だって、すごい隠し玉を連れてきているじゃないか」


人聞きの悪いことを言わないで欲しい。傍から見ると、外国人巨乳美女を連れ回してるスケコマシ野郎に見えるのだろうか……やってることは同じだが……


「みんな揃ったようなので、買い物に行きましょう♪」


一人テンション高めの陽花が、すっかり仕切り役だ。


道中、向田さんと麗香さんにはサマンサのことを「サマースクールの講師」と紹介。麗香さんと向田さんは陽花の知り合い、ということで話を通しておく。


「ハルカさん、まるでテンシのヨウデス!」


初めて、実物の陽花を見たサマンサは目を輝かせて、英語で何やら話している。いつの間にかインターナショナルな集まりになったなと、ひとりごちていると、三千花が説明しなさいよと寄ってくる。


「いや、今日は買い物に行くからと遠回しにパソコンを教えられないことを伝えようと思ったんだけど」


「……思ったんだけど?」


「何を買いに行くのかと聞かれて、水着ですと答えたら」


「……答えたら?」


「日本の水着見てみたいです。私も一緒に行きますと言い出して」


「……言い出して?」


「今に、至ります」


はあー、と溜め息をついて、上手いことやったわね。という評価を頂く。巨乳好きスケコマシ野郎認定である。


――売り場に着くと、色とりどりの水着が並んでいて、メンズの水着コーナもあるものの、俺と悠二は完全に場違いな空間だ。


「コレなんかドウデスカ?」


と面積の小さな水着を持ってくるサマンサ。いや、こんなのプールに着ていったら、絶対にこぼれちゃうでしょ……良いから試着させてみろという視線を送るのはやめてください麗香さん。ん?麗香さんも水着選んでるってことは、プールも来るの?


「アニメで見て、憧れていたんデス」


とサマンサがつぶやく。ああ、やっぱりそっち系の知識だったんですね。どおりで強引に着いてくると思った。でも、まあ、陽花がアンドロイドだとはバレてなくて良かった……いや、普通に考えて、「この人、アンドロイドかしら?」とは思わないか……


「見られてはマズイひとがアラワレテ、一緒にシチャクシツにカクレルノデス」


いや、それ絶対、今の日本では発生しないイベントだから! アニメの中だけですよ!


「これどうでしょうか?」


さっそく試着をした陽花が、俺に見せてくる。あまり紫外線を浴びたくないと言っていたとおり、セパレートタイプのノースリーブのトップスと、下はミニスカートタイプという組み合わせだ。水着としては露出が少ないが、プール以外で見ると、おへそが見える超ミニスカートの服に見えて、これはこれで目のやり場に困るな。「大丈夫ですよ、下は水着です」とスカートをめくって見せるのはやめて欲しい。


「ちょっと、これとこれ、どっちが良い?」


三千花が、暖色系と、ブルー系の水着を持ってくる。どちらもビキニタイプでパレオが付いている系だ。どっちも似合いそうだが、実際に着てるところを見ないと判断が難しい。


「いや、着てるの見ないと……」


そう言った瞬間、三千花の目が細くなる。


「……なるほど。つまり両方着ろってことね」


完全に誤解された。違う、そうじゃない。


***


「これはどうだろうか?」


試着室から出てきた麗香さんは、ストライプのシンプルなビキニだが、予想外にスタイルが良いので、めちゃくちゃ似合ってる。ただ、ぐるぐるメガネとギャップがありすぎるが……


「造形の参考にするので、スタイルは維持しているのだ」


なるほど、それでか。「すごく似合ってます」と伝えると、「そうだろう、だが奇抜さが足りないな」などと言っている。独自性を追求するデザイナーあるあるだと思うが、ここでは奇抜さは必要ないと思います。


「私は、これで」


と、ワンピースタイプの大人っぽい水着で試着室のカーテンを開く向田さん。いや、意外と胸が大きい……ではなく、大人の女性という雰囲気を醸し出している。しゃべらなければ、優秀美人秘書って感じだ。これはまったく異論ありません。


「コンナノはドウデスカ?」


試着室から出てきたサマンサ。さっきよりしっかり胸をホールドできるビキニだが、いかんせん、大きすぎてこれでも溢れそうだ。「サイズが合わないデス」と、選べるサイズがほとんど無いそうだ。まあ、海外ならサマンサのサイズのもたくさん売ってるかもしれないけど、日本でこのサイズをたくさん揃えても売れないよね……


「ちょっとこっちきて」


と、三千花に手招きをされて、試着室のカーテンのスキマから、暖色系の水着に着替えた三千花を見る。いや、みんなに見られるの恥ずかしいのかもしれないけど、脱いだ服とか置いてあって、これって結構、理性削られるパターンだ。いや、水着はとっても似合ってるし、パレオのスキマから少しだけのぞく水着も妙に刺激的だ。


「どう?この色」


色だけで判定しないといけないのかな?


「うん、すごく似合ってる」


素直にそう答えると、「あっ、そう、ちょっと待って、もう一つの方も着るから」と少し頬を赤くしてカーテンを閉じた。今のを目に焼き付けておかないといけないってことかな。


***


「自分のも買わないと」


と、メンズ売り場にいくと、悠二がちょうど、試着してた。

普通のサーフパンツだけど、胸板がすごいな、なぜ、ポテチとかでこの体型維持できるんだ。テルマエロマエの続編とかあったら、出演できそうだ。


自分は、ラッシュガード付きの当たり障りのない水着を選んだ。Mサイズでぴったりなので、とくに試着もせず、カゴに入れた。


***


レディースの売り場に戻ると、三千花がちょいちょいと、試着室から呼んでる。カーテンから中をのぞくと、ブルーを基調とした水着だけど、三千花の落ち着いた雰囲気とちょっと透けたブルーのパレオがとってもマッチしている。「こっちが良いです」と即答すると、「あっ、そう、そうなのね、分かったわ」と、もじもじしてカーテンをしめた。みんなには見てもらわなかったけど、まあ、良いのか。


その後も、陽花とサマンサが超絶ビキニを着たり、ワンピースタイプを着たりと、ファッションショーを繰り広げて、麗香さんを楽しませていたが、何とか、選び終わって、お会計することになった。


「プールたのしみデス!」


……結局、サマンサも来ることになったのか。まあ、この流れならそうなるよな。


あとは、天音ちゃんと茜ちゃんにも場所と集合時間を連絡しておこう。たぶん、天音ちゃんは駅が同じだから、一緒に行く感じになるかな。


――いよいよ、夏休みイベントの始まりだ。


夏が、本格的に動き出す、気がした――。

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