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【第47話】 ――スカイツリーと夜空の記憶

「えーっ、すごい綺麗!」


夜空を彩る花火に目を輝かせて、三千花がぱちくりとまばたきをする。屋上から見上げる夜空。色とりどりの光が次々と弾ける様子に、隣で陽花も仰々しく感動の声を上げていた。


「本当に美しいですね。色とりどりの光が夜空を照らし出す様は圧巻です」


場所は押上。隅田川の花火大会を見るために、俺たちは都心から少し離れたこの場所に集まっていた。


――思えば、事の発端はその日の昼。


突然、LIMEにメッセージが届いたのだ。送信者は、陽花のデザイン担当の麗香さん。


『今日、うちに来ないか?』


いきなりの誘いに、俺は警戒心を抱かずにはいられなかった。1度会ったきりの彼女からの連絡。何とか体よく断れる返信を考えていると、間髪入れずに次のメッセージ。


『なぜ断ろうとするんだ、話を聞いてくれ』


いや、断るでしょ普通……っていうか、何で断られることが分かっててメッセージを送ってきた?


『うちのマンションの屋上から花火が見えるのだよ。陽花くんも連れてきたまえ』


──なんだ、花火大会の誘いか。


麗香さんが男嫌いなのは有名だったが、なぜか俺にだけは距離が近い。とはいえ、陽花のデザインをここまで完成度高く仕上げてくれたことには感謝している。……感謝しているんだが。


『他のメンバーも呼んで良いですか?』


『もちろんだよ、5〜6人なら全然問題ないぞ』


よし、そうなれば自然に集まれる。向田さんと陽花をセットで呼び、悠二と三千花にも声をかけよう。


『各自、自分が食べられる分の食料と飲み物を持参すること。余っても持って帰ってもらうからほどほどにな』


麗香さんらしい指示だ。


さっそく陽花に連絡を取ると、すぐに返事が返ってきた。


「はい、今日の夜はテレビで隅田川の花火大会を見る予定でしたので、実物を見に行くことになっても、全く問題ありません」


向田さんの予定も陽花が確認済みらしく、「小躍りして喜んでいます」とのこと。相変わらずの即応スピードだ。


続いて悠二に声をかけると、「やっと試験終わったから暇してた」と即OK。最後に、三千花に電話をかけた。


「もしもし、涼也だけど、今日って時間ある?花火見に行くんだけど」


「ほんと!行きたい!今からだと浴衣は無理だけど……」


そう言って少し残念そうにする三千花。まあ、急だからしょうがない。


「場所は押上なんだけど……」


「えっ、押上?両国じゃないの?」


「押上は第1会場と第2会場、両方見られるから良いと思うよ」


「そうなんだ……そういえば、涼也くん、地元だよね。じゃあ、ついて行きます」


妙に神妙な返事だが、気にせずメンバーの名前を伝えると……


「うん、楽しみ……」


少しトーンが下がった気がする。どうしたんだろう。麗香さんと初見だから、緊張するのかな?


「デザイナーさんは麗香さんっていう女性で、フランクな人だから緊張しなくても良いと思うよ」


「えっ?女性?……うん、分かった。押上に行けば良いのね?」


まあ、会えば大丈夫だと思うけど、とりあえず、全員来れるみたいで良かった。


―――


集合時間の15分前、俺が押上の改札に到着すると、悠二がすでに立っていた。


「麗香さんってフィギュア業界でけっこう有名なんよ。陽花の完成度見て気になって会いたかったん」


次にやってきたのは三千花だった。細身の襟付きワンピースに薄いブルーの生地。下ろした髪とマッチしていて、まさに“夏のお嬢さん”。


「ちょっと花火と合いそうな格好にしてみたけど、どうかな?」


「えっ、あっ、うん、すごく似合ってる」


思わず挙動不審になるほど、可愛かった。


「えっ、ありがとう。こういうんで良いんだ……」少し嬉しそうにうつむく姿が、更に良い感じだ。

悠二が目を細めて、俺達を見ている。いや、お父さんか!


「みんな集まっているか?」


そこへ麗香さんが迎えに来てくれた。悠二と三千花を紹介すると、麗香さんは目を輝かせる。


「あら!悠二くんワイルドねぇ。三千花ちゃんもなんて素敵なの、創作意欲が沸くわ!」


挨拶も無事済んだところで、最後に現れたのは向田さんと陽花。


「えっ、浴衣?」


なんと2人とも、見事に浴衣を着こなしている。


「私が、着付けをしてみたくって、向田さんに着ていただいたんです」


ん?陽花って着付けできるんだ……ネット知識かな?でも、ちゃんと着れてる向田さんが居るんだからできるってことか。


「私の浴衣も自分で着たんですよ、どうですか?」


金魚の柄が涼しげで、まるでお祭りの妖精のようだった。


「おおっ!何という眼福!」


と麗香さんが目を輝かせ、三千花も「陽花ちゃんかわいい」と高評価。


「うん、お祭りっぽくて良いと思うよ」と伝えると、


「もう少し、大人っぽい柄のほうが涼也さん好みでしたか……」


と小声で何か言っていた。……若干聞き取れたけど、スルーした。


麗香さんのマンションの屋上に着くと、目の前にはライトアップされたスカイツリー。そして始まる花火。


紫のスカイツリーと鮮やかな花火が織りなす幻想的な光景に、誰もが息を呑んだ。


「えーっ、すごい、こんなにちゃんとスカイツリー見たの初めてかも……」


「これが、自立式電波塔で世界一の高さを誇るスカイツリーなんですね」


ちょいちょい、うんちくを挟んでくる陽花、ガイドさんか!


……花火とスカイツリーにうっとりする三千花と初めてリアルタイムで花火を見て、興味津々の陽花。

なんか花火も良いけど2人を眺めてるのも飽きない……ふと、隣をみると、麗香さんも2人の表情を見つめていた。


「君とは趣味が合いそうだな」


と、ふと隣に立つ麗香さんが呟く。


「そういえば、麗香さんは男性が苦手なんじゃないですか?」


「いや、生物学的な男が苦手と言うか、君は小動物っぽいし、悠二くんは……ヒグマだね」


ヒグマ?小動物?男扱いされてないだけじゃなかった?……まあ、麗香さんに好意をもってもらえるならそれでもいいか。


その後、みんなで、買ってきたお弁当を食べながら、花火を楽しんだ。向田さん、ビール飲んじゃってるけど、仕事じゃないの?……心配だから後で陽花と会社まで送って行こう。


悠二は麗香さんの作品を褒めちぎって、あの麗香さんがちょっとたじろいでる。


三千花と陽花はハートマークとかスマイルマーク?の花火が上がるのを見て喜んでる。


「みんな、集まれてよかったな……」


その夜、花火とスカイツリーと、みんなの笑顔が交差する屋上で、夏の思い出がひとつ増えた。


まあ、突然だったけど――楽しい夏がはじまったのだった。

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