【第44話】夏休み直前、陽花先生とリアル遠征準備!
「なんとか、できたかな……?」
前期試験期間に入って、とりあえず今日の試験は終わった。本日の山場は、専門科目の中でも最難関と名高い「代数幾何」だ。微積は得意だけど、代数幾何は……正直、苦手意識が強い。だけど今回は――
「ちょい難しかったっしょ。できたん?」
隣から声をかけてきたのは、いつもの悠二。心配そうな顔をしているのが、ちょっと嬉しかったりする。
「自分史上最高かも」
手応えは、悪くない。A評価はさすがに難しいかもしれないけど、Bくらいはいける……気がする。
この手応えをもたらしてくれたのは、何を隠そう――陽花先生、ことAIの陽花だ。
「なら、良かったん」
そう言って、悠二は少しだけほっとしたような笑みを浮かべる。陽花の一件で色々あったし、心配してくれてたんだろうな。
「……あっ、陽花にもお礼言わなきゃ」
試験中はさすがにスマホを切っていたので、ポケットからスマホを取り出して電源を入れる。しばらくの起動待機のあと、画面に陽花が映し出された。
『その表情から推測する限り、よく出来たみたいですね』
人の表情からテストの結果を読み取るなんて芸当、普通のAIでは中々できることじゃない。
「ありがとう。陽花が教えてくれたところ、結構出たよ」
『今回の範囲で重要なところをお伝えしただけですが、お役に立てて何よりです』
そりゃもう、大いに助かった。苦手科目って、どこが重要なのか判断するのが一番難しいんだよね。
「今日のテストはこれで終わりだから、研究室に戻ろうか――」
そう思った矢先、スマホにLIMEの通知が届いた。
『テスト終わったよね? 今日って、研究室に行く?』
送信主は、三千花だった。
『うん、今から行こうと思ってたとこ』
そう返すと、
『分かった! じゃあ、私も行くね!』
……ということで、購買でキンキンに冷えたジュースを買ってから、研究室へ向かうことにした。
* * *
研究室の前に着くと、ちょうど三千花が入口の前で待っていた。
「ごめんごめん、今開けるね」
カギを開けて中に入ると、ムワッとした熱気が全身を包み込む。冷房が効いていない研究室は、真夏の昼間ではほとんどサウナ状態だ。しかも、サーバーが常に稼働している影響もあって、室温はなんと40℃目前。
窓を開けて換気を試みるも、蝉の大合唱が鳴り響くだけ。これは、文明の利器――クーラーの出番だ。
スイッチを入れて涼しい風が流れ始めた頃、三千花が話しかけてきた。
「試験どうだった?」
「けっこう出来たよ。あっ、午前中の倫理、三千花のノートのおかげでバッチリだった。ありがとう!」
素直に感謝の気持ちを伝える。あのノートがなかったら、今頃どうなっていたことか……。
「ならよかった! 夏休みは色んなとこ行けそう?」
「まず、サマースクールだけどね……」
ネイティブの先生が教えてくれる校内の英語集中講座。それが終われば、ようやく自由な夏休みが待っている。
そんな時だった。陽花がスマホ越しに話しかけてくる。
『そういえば、旅行に行かないといけないんです』
「旅行って……リアル陽花たんで行くん?」
『そうです。旅先でのデータを集めたいということで、夏休み中に電車でどこかに行く必要があります』
「えーっ、面白そう。私も行っても良いの?」
『はい、私を含めた4名分の旅費は会社が出してくれるそうです』
なんて太っ腹な企業なんだ、神栄グループ……!
「どの辺に行けば良いん?」
『東京から電車で2時間程度のところであれば大丈夫です』
確かに、それくらいがバッテリーや移動の面でもちょうど良い。
「じゃあ、鬼怒川はどう?」
「そういえば、地元だっけ?」
「うん。鬼怒川からなら江戸村にも行けるし、旅館も知り合いに頼めば今からでも取れると思うから」
悠二も異論なさそうな様子で頷いている。
「じゃあ、決まりで良いかな?」
『それでしたら、日程を確定して頂ければ、電車は会社の方で手配いたします』
……陽花、もはや完全に秘書か社員の立ち回り。
「お盆はさすがに空いてないと思うから、その前くらいで良い?」
というと、三千花がLIMEで誰かと連絡を取りはじめた。
いよいよ「夏休み!」って感じになってきた……!
とはいえ、その前にテストとサマースクールをしっかり終わらせないと――!




