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【第40話】責任、取ってもらってもいいですか……?

「ごちそうさまでした」


一心不乱に平らげてしまったが、よく考えたら、もう少し感想とか言ったほうがよかったかもしれない。


でも——。


「おいしそうに食べて頂いて、作った甲斐がありました」


陽花が満面の笑みでそう言ってくれた。……どうやら、食レポは不要だったらしい。


「お皿片付けますね」


そう言って、お盆に食器をまとめて台所へ向かう陽花。


「……あっ、手伝おうか?」


料理も作ってもらったし、食器洗いくらいはと思って声をかけてみたが、


「大丈夫です。涼也さんはその布巾で食卓を拭いてください」


と、微笑みながら断られてしまった。


その間にも、陽花の手際は超高速。気づけばもう洗い物も終盤。思い返せば、料理中にちゃっかり包丁やまな板も洗っていた。無駄のない動き。どこで覚えたのか本気で気になる。


「今、お風呂を用意しますね」


「えっ、いいよそれは俺が——」


「大丈夫ですよー」


って、もう風呂場に移動してる!? 何と言うか、行動に躊躇がない。


しばらくして戻ってきた陽花がにっこりと。


「夏場なので、39度くらいで良いですよね?」


なんで分かるんだその適温……温度も測れるのか? 本当に何でもありか。


「それでは、勉強しましょうか?」


あっさりとスイッチを切り替えて勉強モードに入る陽花。今日やるのは専門科目。三千花の完璧ノートは使えない。しかたなく自分のなぐり書きのノートを広げる。


「こんな字で読めるの?」


「読めますよ。公式は記憶済みですので、100%補完可能です」


そっか。多少読みづらいところがあっても問題ないらしい。


「ここは、こういう風に覚えれば良いですよ」


まるでカリスマ予備校講師の個別授業。頭にスラスラ入ってくる……もっと早く陽花に教えてもらえてたら、違う大学に行ってたかも……ってそうしたら今の陽花はいない。やっぱり今の大学がベストということか……


「お風呂、溜まりましたね。止めてきます」


スッと立ち上がって風呂場へ。どうやって分かったんだ? 音か? それとも——お湯の量から計算した?


「丁度良い湯加減ですよ。お勉強は一旦ここまでにして、お風呂にしましょう」


「ありがとう」


素直に感謝して、着替えを手に風呂場へ向かおうとすると——


「お背中お流ししますね」


「いやいやいや、待って!!」


理性が崩壊しそうなワード、来た!!


「大丈夫ですよ。プライバシーは考慮して、映像は私が記憶した後で消去されます」


いやいや、しっかり記憶されるんだよね。駄目でしょ、それ。


「ひ、一人で入るから……陽花は待ってて」


渾身の力で制止すると、ようやく引き下がってくれた。


……と思ったのも束の間。


――湯船に浸かってから、頭と体を洗い始めると、


「お背中流しに来ました!」


バン! と勢いよく風呂の扉が開いた。


「ええええっ!?」


慌てて振り返ると、そこにはなんと……


メイド服姿の陽花が立っていた。


「なっ……なんでメイド!?」


「殿方のお背中を流すといえば『メイド』と向田さんがおっしゃっていました」


あの人のせいか!! だから、あんなにバッグがパンパンだったのか……


「さあ、せっかくですから」と言って、俺の手からスポンジを取り上げ、手際よく背中を流し始める陽花。


「これでよろしいのでしょうか?」


「いや、そもそも日本ではメイドさんに背中流してもらう文化ないから正解分かんないって!」


「では、前も——」


「前は洗ったから!! もう充分です!!!」


慌てて止めて、なんとか終わらせる。……俺の精神がもたない。


「では、これで失礼しました」


さらっと言って風呂を後にする陽花。こちらも速攻で風呂からあがる。


――部屋に戻ると、なぜかメイド服のまま正座している陽花がそこにいた。


「いかがでしたか?」


「えーっと、湯加減は……ちょうどよかった」


背中の話にはあえて触れないスタイルで応戦。


「私も入っていいでしょうか?」


「えっ、陽花ってお風呂入らないんじゃ……?」


「湯船に浸かっても浸水しないか、テストしてみようと思いまして」


そういえば、お湯抜いてなかった……無意識に次がある前提だったのか俺!?


「では、すぐ済みますので」


風呂場へ向かう陽花。服を脱ぐような音がかすかに聞こえて——。


「ピーピーピーッ!」


……警告音?


「まさか……浸水!?」


慌てて風呂場の扉を開けると——。


湯船にまだ入っていない一矢まとわぬ姿の陽花が立っていた。


「ど、どうして……!?」


とっさにタオルで要所を隠しながら、恥ずかしそうに答える陽花。


「アラームが鳴るかテストしてから入ろうと思いまして……」


「……って、紛らわしいよ!!」


扉を閉めて部屋に戻る俺。今のは完全に早とちり。でもダメージでかい……ドキドキが止まらない。


――しばらくして。


「上がりましたー」


パジャマ姿で戻ってくる陽花。


「あっ……うん、おあがり……」


我ながら訳の分からない返事をしてしまった。


「見られてしまいましたね……」


「えっ、その……ほんの一瞬だけ……」


無意識のうちに罪を軽くしようとする俺……


「責任を取ってもらってもいいでしょうか?」


えっ……責任……って。


「一生、面倒を見させてもらっても?」


……え?


俺が面倒見るんじゃなくて、陽花が俺の面倒を見るの?


思考が追いつかないまま、静かに夜は更けていくのだった——。

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