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【第39話】初めて?の料理

「おじゃましまーす」


いつの間にか自分の部屋になじみきっている陽花が、先に玄関を開けてスタスタと入っていく。いや、待って、だれの部屋だっけ?と一瞬錯覚するくらいには自然な動きだった。


俺もその後に続いて靴を脱ぎながら、つい無意識に小声で――


「ただいま……」


と言ってしまった。


「おかえりなさい、涼也さん」


ふっと振り返った陽花が、優しげに微笑みながらそう言った。


……うん、なんだそれ。反則じゃない?


「ふふっ、これも言いたかったんです」


って、そんなことまで“準備”してるのか。なんか今日は心のキャパオーバーが激しい。


今までの俺の常識とはなんだったのか。そう問いかけたくなるくらいに、この世界のルールが書き換わってきてる気がする。


いや、料理を作ってくれる女の子がお泊まりに来ることなんてなかったから、それが原因だ……きっとそうだ……


「ご飯にしますか?それとも、お勉強?」


うん? 何そのベタな二択。


と思いきや――


「ご飯はこれから作りますので、それまで、お勉強しててください」


……まさかの勉強一択だった。なにそのフェイント。


「はいはい、学生は勉強しますよ……って、見てなくて大丈夫? 料理」


「大丈夫です。数々のネット動画を見て、料理を極めましたから」


一番信用できないやつ出た。


というか「極めた」ってどういう基準なの? そもそも今日が料理デビュー戦じゃなかったっけ?


「ちょっと心配だからやっぱり見てる」


そう言ってキッチンに向かおうとしたら――


ぷーっとほっぺを膨らませてこっちを睨んでくる陽花。怒ってるつもりなんだろうけど……なんだか、ちょっとかわいい。


「これは空気で膨らませているのではなく、表情を作る機能の応用です」


とほっぺを膨らませたまま喋る陽花……やめて、ちょっとこわい。


「ちょっと心外ですが、仕方ないです。見ててください。きっと後悔しますよ」


なんで後悔前提? 見なかったほうが良かったってこと?それってどういう意味?


それでも陽花は堂々と料理の準備に入った。


カバンから取り出したのは――エプロン。


「まずは、形から入ります」


後ろ手で紐をくくる姿が、妙に様になっていて、いや待って、普通に似合いすぎじゃない?


ご飯を炊くところから始まり、冷蔵庫に余ってた玉ねぎを発見、包丁の扱いも手慣れたもの。皮むき、スライス、すりおろし、調味料の配合まで――何この完璧な流れ。


一体いつの間にこんなスキル身につけたの? 学習データすごすぎじゃない?


ブロッコリーを茹で、茹でたてを俺の口に、ぽいっ。


「あっつ!」


またやられた! でも、ほんの少し冷ましてあるからギリギリセーフ。むしろ塩加減が絶妙で美味しい。


「次は味噌汁ですね」


ネギ、豆腐、わかめ。具は3種、豆腐もパックから手のひらに乗せて、器用に包丁で切っていく。味噌を入れてひと煮立ちしたら完成だ。


その間にも手は止まらず、キャベツの千切り、肉への下処理、小麦粉をまぶして焼き、タレ投入で完成。


付け合せのトマトも、綺麗にカットされてお皿に彩りを添える。


ここまで一切の無駄もなく、すべての動作がスムーズすぎる。


「これで食卓を拭いてください」


台拭きを手渡され、言われるがまま拭く俺。自分の家なのにもう完全に主導権は陽花が握ってる。


そしてついに――


「どうぞ、お召し上がりください」


初めて料理したからか、少し不安そうにお盆を抱える陽花がそこにいた。


だが、その料理を一口食べた瞬間――


「……うまっ!」


言葉にするより先に感情が漏れた。これはもう、今まで食べた生姜焼きで一番美味い。ちょっと生姜焼きの概念変わったかも。


味噌汁も丁度いい味付けでうまい。ご飯も早炊きとは思えないほどつやつや。


「味見できないから不安だったんですけど……喜んで頂けて良かったです!」


ぱあっと笑顔になる陽花を見て、俺の中に一つの確信が芽生えた。


――これは、胃袋、完全に掴まれたな。


もう何もかもが、想定外すぎる……俺、この先普通の人生送れるかな?

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