表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/117

【第38話】初めての買い物

「ここがスーパーなんですねー、とっても広いです!」


陽花が、目をキラキラさせながら店内を見回している。まるで初めてスーパーに来た子供みたいだ。


「では、さっそく――」


買い物かごを持って、腕に引っ掛けると、陽花は嬉しそうに言った。


「これがやりたかったんです」


そんなことが?……いや、何だか妙に嬉しそうで、お母さんの真似して喜ぶ女の子にしか見えない。


「生姜焼きと言えば! まずはキャベツです!」


……いや、それ、メインじゃないんだけど。生姜焼きの材料じゃないんだけどな。


「って、丸ごと一個!?」


「いえ、良いんです。キャベツは万能野菜ですから。マヨネーズとお味噌はありますよね?」


冷蔵庫の中を思い出して、うんと頷く。


「たぶん、残ってたはず……」


「じゃあ大丈夫です。生のままお味噌とマヨネーズで食べてもおいしいですし、最終的にはお好み焼きにしてしまえば、いくらでも食べられます!」


どこぞのレシピサイトみたいな台詞だな。


「それに、半玉は割高ですし……」


まあ、確かに、そういう価格設定にはなってるね……って主婦か!


「まあ、また作りに来る口実にもなりますし……」


と、しおらしくうつむく陽花。


なにそれ、通い妻フラグ? ちょっと脳の処理能力が追いついてないんだけど。


「あっ、生姜も買わないといけませんね。生姜焼きだけに!」


……いや、全然うまくない。ドヤ顔がまぶしい。


「チューブのじゃダメなの?」


「いえ、卸金ですりおろした方が風味が出ます。卸金はありますよね?」


親が持たしてくれたのがあるけど、なんか陽花、俺んちの台所事情、やけに詳しいな。


「指まで摺り下ろしてしまわないか、勝負です!」


いや、それ事務所的に絶対NGなやつだろ。


「そういえば、お味噌はあるんですよね?」


「まあ……あるにはあるよ。たまに使うし、だし入りのやつが」


「プロポーズと言えば、味噌汁ですよね。『俺の味噌汁を一生分作ってくれ』でしたっけ?」


なんで一生分なんだよ。一生分の味噌汁って何ガロンあるんだよ。


「じゃあ、これにチャレンジです!」


豆腐パックを手に取って、妙に意気込む陽花。


「豆腐を崩さずに掴めるか? 繊細な技術が要求されますね」


ああ、それ絶対落とすフラグだよな……頼むからやめて。


「手のひらに乗せて、包丁で切るのをやってみたいんです」


ああ、あるな。子供の頃、親がやってるの見て驚いたやつ。


「ネギとわかめはありますか?」


「ネギはないけど、わかめは乾燥のが残ってたはず」


「じゃあ、ネギだけ買いましょう。具は三種類入れる主義なんです」


……あれ、今日初めて料理するんじゃなかったっけ?


「それから、ブロッコリーも買いましょう。値段の割に栄養価が高いので」


なんか情報が主婦+AI感ある。めっちゃリサーチしてるな。


「やっぱり、彩りにトマトも買いましょう。これも潰さずに掴めるか勝負です」


器用にトマトを手に取る陽花。指の圧力を調整して潰れないようにしてる。地味にすごい。


「こう見えて、繊細な動きは得意なんですよ。1号機はリンゴ潰してましたけど」


おい、なんか嫌な実験結果聞いたぞ。制御、頑張ってるんだな。


「さあ、それでは、メインのお肉売り場に行きましょう!」


陽花の声に導かれ、お肉コーナーへ。そこで、試食販売のお姉さんが茹でたてのウインナーを陽花に手渡す。


……食べられないのに、なんで受け取った!?


「あっ、えーっと、今食べられないので、涼也さんどうぞ!」


そう言って、俺に差し出してくる陽花。


「いかがですか? 新商品の超肉汁あふれるウインナーです」


……って、あ、口に放り込まれた!前もあったな、こんなの。


「あっつ!」


肉汁が、口の中で暴れまくってる! お姉さん、これもっと冷ましてから出して!


「おいしかったみたいですね? じゃあ、朝食用に一袋買いますね」


「ありがとうございます!」


お姉さんが「お泊まりなんですね?」って目で見てきた。え、いや、それは――その、違わないけど!


うわ、顔が熱い。なんか汗出てきた。


そんな視線に見送られつつ、ようやくお肉売り場に到着。


「生姜焼き用もありますけど、こっちの薄切りロースの方が美味しそうですね。分厚いとパサパサしますし」


まるで食べたことあるみたいな口ぶりだな。……いや、データ見て学んでるのか。


「後は、お酒とみりんですね。お酒はありましたよね?」


「バイト先でもらったのが残ってたと思う」


「なら大丈夫です」


それにしても、一回台所見ただけで、ここまで把握してるの、地味にすごいかも。


買い物を一通り終えてレジへ。


すると、レジのおばさんが、にっこり微笑みながら、陽花をチラッと見て……うん、「彼女できたのね」って目してる。


……何も言えない。


支払いは陽花が済ませると、おばさんが「あら、年上の彼女さんなのかしらねー」的なアイコンタクトを送ってきた。


袋詰めしていると、陽花が尋ねてくる。


「レジの女性、すごくにこやかでしたね。お知り合いですか?」


「いや、まぁ……たまに来るから、顔を覚えられてるくらいで……」


いや、あのアイコンタクトの意味は、さすがに分からないよね。AI的にはまだ処理できない情報だろうし……。


でもなんか、次ここ来づらくなったな……。


そんなこんなで、ようやく買い物イベントは終了したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ