【第34話】陽花、お泊りフラグ?
「……陽花が、うちに来たんだ」
翌日、研究室で昨日の出来事を悠二に語った。
「おおっ!?リアル陽花たん、ついに外出したん!」
目を輝かせる悠二は、羨望と嫉妬と好奇心を一身に集めたような表情で身を乗り出す。
「マジで羨ましいわ……俺も会いたかった……!」
そう言いながら、詳細を伝えると、悠二は途端に真顔になった。
「それ、外出時は……学習してないんじゃ?」
「え?どういうこと?」
「いや、スマホモードのときは本体が研究室にあって演算はこっちでやってるけど、リアル陽花たんの場合、本体があのボディの中だから、外であんまり学習させると、すぐバッテリーなくなるし、発熱もハンパないと思うんよ」
たしかに、陽花が体温調整のテストって言ってたのもそういう理由か。
「外出時はデータだけ溜めて、研究室戻ってから学習する仕組みかも……」
なるほど……そんな考察をしていると、スマホから声が響いた。
『スマホモードとは少し違います。スマホモードは本体が研究室にあり、スマホとは通信するだけでしたが、今は本体が3号機内にあります』
と、陽花が補足説明してくれた。
『スマホモードでは通信が切れても会話できなくなるだけで済みますが、今の私は体を動かす必要があるため、本体が内部にある必要があるのです』
つまり、今スマホで話している陽花は、ボディの中にいる“陽花本体”と通話してるわけか。
『外出時のデータは筐体内に保存され、実験室に戻った後で外部システムを利用して学習に使用されます』
「……それって、まるで人間が夜に寝ながら記憶を整理するのと似てない?」
『そうです、人間の睡眠と似た仕組みです。昼間の体験を夜間に脳内――いえ、演算ユニット内で処理するのです』
アンドロイドも“寝る”必要があるってことか……学習のために。
「それって、陽花たんだけの機能なん?」
悠二が興味津々で食いつく。
『はい。研究室で日中に学習演算を行うと発熱の問題があるため、すぐに必要のないデータやインターネットからの情報は夜間に学習していました。それが今のスタイルの基盤になっています』
なるほどな……前に、学習するデータを絞り込むって言ってたけど、それだけじゃなく、時間帯で分散処理してたのか。
『また、私は昼間の体験を夜の学習に使うため、人間が“夢”を見るような状況にもなります』
「……え、陽花たんって夢見るん?」
『一般的なAIは夢を見ないと思いますが、私は一日の出来事を順番に再学習しますので、”夢”を見るような形になります。アンドロイドとして、限られたリソースを利用する場合そうなると思います』
「ってことは、1号機や2号機もいずれそうなるってことか?」
『はい。今は研究室内で外部システムを使ってリアルタイム学習していますが、外出時には私のように遅延学習処理が必要となるため、私の機能を元にプログラムを構築中です』
「おおっ、陽花たんグッジョブ!!」
悠二がガッツポーズを決めてる。……いや、それ元々はお前の作ったプログラムの発展系だぞ。
『次のテストでは、夜間に研究室外から外部システムと通信して学習できるかを確認します』
ふーん、つまり次の実験は――
「って、待て、それって……まさか」
『そうです!涼也さんのお家にお泊りすることになりそうです!』
え、ええええええっ!!??
いやいやいや、ちょっと待て、いくらアンドロイドとはいえ、女の子が一人で泊まるとか、倫理的にも良いのか?もしかして、向田さんも一緒?いや、それは、それでダメな気がする。
「ま、まさか昨日みたいに向田さんも一緒とか……」
『いえ、夜間は二人っきりになります。ただし、移動時は向田さんが同行してくださいますし、何かあれば会社が責任を持って対応しますのでご安心を』
……うん、会社が責任を持つのは分かったけど、俺の心の準備ができてない!
昨日のキスのことも頭をよぎるし……。
「いや、仮にも陽花は“女の子”だし……お風呂とかトイレとかどうすんの!?」
『ご安心ください。私はそれらの機能は必要ありませんし、外部からの制御も万全です』
「……って、あれ?そう聞くと意外と問題ないのかも……」
冷静になって考えれば、トラブルの芽は少ない……はず。
『また、試験勉強も手伝えますよ』
……いや、それ落ち着いて勉強できるのか?
「絶対この話、受けるべきっしょ!」
悠二は軽く言ってくれるが、俺の胸の中は激しく動揺していた。
本当に俺……試験、大丈夫かな?……