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【第277話】陽花と穂乃花ちゃんのコスプレ

『今から、来れませんか?』


 学校の図書館から借りてきたプログラミングの本を読んでいると、陽花がスマホから呼び出してきた。


 どっちだろう?


 いや、待て。まだ陽花のサイズの服は無いはずだ。となると――


 麗香さんがコスプレしてるに決まってる。


「遠慮しとく」


 まあ、麗香さんも自分で豪語するくらいスタイルは良いんだけど、やっぱりあのメガネがな……


『どうしてですか! 私です! せっかく私が着替えたのに!』


 ……勉強してたんだけどな。


 卒論にプログラム入れないといけないから。


「行ってあげなさいよ、こんなに見てもらいたがってるんだから」


 三千花が見兼ねて言った。


 うーん、やっぱり陽花には甘いな。


「えー、コスプレ? 面白そう! 一緒に行っても良い?」


 穂乃花ちゃんが喰い付いてきた。


『穂乃花さんも来ていただいて大丈夫ですよ、涼也さんを連れて来てください』


 夕花が学校行っちゃってるからな、退屈なのは分かる。


「じゃあ、行こうか……三千花は?」


「私は荷物の整理してるから、二人で行ってらっしゃい」


 うーん、陽花のコスプレとはいえ、俺がそういうの見に行ってもなんとも思わないのだろうか……


 まあ、あれもダメ、これもダメって束縛されるよりは良いんだけど、信頼されてるというか、放って置かれているというか……


 もうちょっと、「私だけを見て」みたいなのがあると嬉しいんだけど……


 とはいえ、見に行かないと延々と呼び出されそうなので、さっさと行くことにした。


* * *


「ピンポーン」


 一応、鍵はまだ持ってるんだけど、着替え中とかだったらいやなので、インターホンを押す。


 しかし、今まで自分の部屋だったのにインターホン押さなきゃいけないって何か変な感じだな。


「はい、お待たせしました」


 ドアを開けて現れたのは……


「えっ?」


 思わず声が出た。


「本物?」


 ――エルフの姿をした陽花だった。


* * *


 どこからどうみても、耳が本物だし……


 なんだコレ、コスプレっていうレベルじゃなくてエルフが生きて動いてるんだけど……


「驚いたか、その耳は陽花の皮膚の素材を使わせてもらって作ったんだ。まるで本物みたいだろ」


 本物を見たことが無いから分からないけど、本物ですって言われたら、そうなのかと納得してしまうだろう。


 白い布を幾重にも巻き付けたような衣装、そして、そこから伸びる白い腕と長い脚……


「うわー、コスプレって、こんなに凄いんだ……本当に物語から抜け出して来たみたい」


 穂乃花ちゃんが、陽花が見て(ほう)けてる。


 いや、どんなにクオリティ高いコスプレだって、さすがにここまでは無いだろ。


 この格好でコスプレ会場とかに行ったら、みんな「コスプレイヤーの人が来た」っていうより、「エルフが見に来た!」って騒ぎになると思うんだけど……


「どうですか? この衣装ならサイズは関係ありませんから着てみました」


「え、えーっと……は、陽花だよな……」


「何を言ってるんですか! 涼也さんが私のことを見間違えるわけ無いですよね?」


 そうなんだけど、しゃべり方も陽花なんだけど、細かく編み込まれた銀色の髪の毛もウィッグだって分かってるんだけど……


 どう考えてもエルフのお姉さんに話しかけられてるようにしか思えない。


 なんか脳がバグってきたみたいだ……


「もしかして、エルフはお嫌いでしたか?」


「い、いや、嫌いな訳じゃないんだけど、なんだろう、むしろエルフ過ぎて困るというか……」


 もう、どう接したら良いか分からない。


「私も何かやりたいな……」


 穂乃花ちゃんがうらやましそうに言う。


 こういうのって、自分からやりたいと思うのか……まあ、このクオリティを見ると、自分もこんな風になれるのかなと思っても不思議じゃないけど。


「おお、それなら、別の衣装があるから、それを着てみるか?」


「えっ、良いんですか? 着てみたいです!」


 と、穂乃花ちゃんも着替えることになり、部屋に行ってしまった。


 陽花と二人で残されてしまったが、どうしよう、あいにくエルフのお姉さんと会話するスキルを持ち合わせていない。


「どうしたんですか涼也さん? せっかくコスプレしたんですから、写真を撮っても良いですよ」


 うん、まあ、中身は陽花だし、写真撮るか……人に見せたら絶対にAIで生成した画像だと思うだろうな……まさか、AIがコスプレしてる写真だとは思うまい。


「じゃあ、後で三千花にも見せたいから撮っとくか」


「後で涼也さんが堪能してくださっても良いんですよ」


 今まさに世界観に没入してるから、後で写真みてもそこまで堪能できないと思うけど……


 しかし、思いっきり中身は陽花だな……まあ、コスプレなんだから中身まで変わるわけ無いか。


「ちょっと、呪文でも詠唱してみて」


「呪文ですね、では、こんなのはどうですか?」


「ᚨᚾᛞ ᚱᚨᚲᚾᚨ ᛋᛁᚾᚷᚢᛚ ᚠᛖᚱᚨ ᛟᚱᛏᚺ……」


 ……おいおい、呪文まで本物っぽいの出してきたな。


「ホントに魔法発動しそうだからやめて、そこまでするの……」


「なんでですか! 召喚魔法っぽくしてみましたが、お気に召しませんでしたか?」


 いや、リアル過ぎるだろ……本当に何か召喚されたらどうするんだ。


 と、思っていると……


 ガラガラと引き戸が開いたと思ったら、穂乃花ちゃんが出てきて、ちょっとビックリした。


「どうですかお兄さん! アイドルですよ!」


 フリフリのアイドルコスに身を包んだ穂乃花ちゃん……


 頭には大きなリボン、そして幾重にもフリルのついたスカート。


「なぜ、エルフとアイドル?」


「仕方ないだろ、今依頼が来てるのがその2件なんだから」


 ……めちゃくちゃ業務的な理由だった。


 そりゃそうか、麗香さんはコスプレを趣味でやってるんじゃなくて、フィギュア原型師の仕事なんだから、当たり前か。


「最近は、依頼のとき一緒に衣装が送られてくるようになっだんだが……さすがに、これを着るのには抵抗があったから助かったな……じゃあ、決めポーズをしてくれ」


「えっ、決めポーズ!? じゃあ、こんな感じで!」


 左手を腰に当てて、右手は目の高さで横ピース、そのまま一歩踏み出して、片足立ちになったところで満面の笑みを浮かべる穂乃花ちゃん。


「おっ、中々だな、そのままじっとしておいてくれ」


 ……そのまま静止するにはつらそうな体制だけど。


 もはや、バランスを取ろうとして左手が泳いでる。


 しかし、必死でその体制を維持しようとする穂乃花ちゃん……中々のプロ根性だ。


「いや、随分無理がある体制だけど、何分くらいこのままにしとくんですか?」


 穂乃花ちゃんが可哀想なのできいてみると……


「一時間くらい、そのままにできるか?」


「えーっ、無理です!」


 ぺたりと床に座り込む穂乃花ちゃん。


 絶対、それ、そのまま制作に入るやつだな……だいたい一人でやってるときもそんなにじっとしてられないだろ。


「おお、そのポーズも良いな……」


 座り込んだ姿勢もお気に召したようだ。


 結局、二人のコスプレは、カメラに収めて、お開きとなった。


 アイドルをカメラで撮影するエルフという、レアな光景も見られたが……


 ――その後、部屋に戻って三千花に写真を見せると……


「えっ、凄い……本物?……ちょっと見たかったかも……穂乃花も可愛いわね」


 と、陽花と穂乃花ちゃんのコスプレ姿を見てうらやましそうに言った。


 来ればよかったのに……そしたら、三千花のコスプレも……


 って、さすがにそれは無いか。


 まあ、依頼された作品が出来上がるまでに、何回かこの格好するだろうから、そのときまた見せてもらえば良いんじゃないかな。


 出来上がった作品にも、二人の姿が投影されてると思うし……


 こうして、すっかり麗香さんの助手にさせられている陽花と穂乃花ちゃんだった。

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