表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/116

【第22話】姉去りて、陽花残りし静寂の朝

「そうなんだ、へー、涼也もやるわね」


……ん?


「……って、誰かと話してる?」


まぶたが重い。寝起き最初の感覚は、“とにかく疲れている”だった。


ああ、そうだ。

昨夜――姉貴が突如訪ねてきて、焼きそばを食い、風呂を使い、勝手に寝ていったんだった。


目をこすりながら、姉の方に目をやると、


「文化祭で、女の子とアドレス交換したんだー」


「そうです。とても嬉しそうにしていました」


……んんん!?

なに勝手にプライベート情報を陽花からリークされてるんですか!?


しかもなんで、こんな短時間で仲良くなってんの!?


「陽花ちゃんとおしゃべりしてたんだー。すごいわね、最近の会話アプリって……」


「お褒めいただき光栄です、お姉様。何なりとお申し付けください」


……陽花、おまえキャラ変わってない?

なんか忠誠心高い執事型AIみたいになってるんだが!?


「この本も、女の子に貸してもらったんだって? 孫を抱っこする日も近いのかしらねぇ」


いや、論理展開にバグがある!

「本を貸す」→「結婚」→「孫」って、飛び級しすぎだろ!?

それにあなたは、俺のお母さんじゃない。


「機械いじりばっかしてたから心配してたけど……そういえば、コーヒーあるけど飲む?」


えっ、うちにはコーヒーなんて無かったはず……


「涼也の働いてるコンビニで買ってきたのよ。朝から学生さんで一杯で、活気があって良いお店ね」


……見に来たんですか、俺のバイト先を。

スーツで来ないだけマシだけど、こうして勝手に生活をリサーチされると複雑だ。


「氷は入れないのよね?」


地味に俺の好みを完璧に把握してるあたり、姉貴力おそるべし。


「今日ね、帰ることにしたんだ」


……えっ。


えっっっ!?

喜びのあまり、コーヒー吹きそうになった。


「陽花ちゃんと話してたら、もう一回、聡の話も聞いてみようかって思ったの」


……陽花、グッジョブ!


「それに、その後輩の女と話すときは、陽花ちゃんも来てくれるって言うし」


……いや、それって俺のスマホにいる陽花なんだけど!?

AR越しの同席でいいのか?リアル空間に陽花いないんだが!?


「だから、涼也も一緒に来てね♪」


は?

なぜ俺が修羅場に同行決定なんですか?


「涼也と聡、仲いいから、その方がいいかなって」


いやいやいや!

本人たちの意思って知ってる?

その後輩の子、俺見た瞬間『誰ですか?』ってなるやつじゃない!?


「あと、このサンドイッチ食べていいわよ」


見ると、袋が開いて、すでに一切れずつ食べられたサンドイッチが三つ。


ま、迷惑料だと思っていただいておこう……


◆ ◆ ◆


朝食を終えて、布団を押し入れにしまった頃。


「じゃあ、色々ありがとね。ちゃんとご飯食べるのよ、彼女できたら教えなさいよ」


ドア前に立った姉貴は、相変わらず言いたい放題の圧力で別れの言葉を告げる。


「陽花ちゃんも、またね!」


「はい。またお会いできるのを楽しみにしております、お姉様」


……この二人、なんか妙に親近感あるな。


陽花にとって姉貴って“姉御的”何かなんだろうか。


「じゃあ、聡さんによろしくー!」


「うん、また連絡するね、バイバイ!」


そして、ドアが閉まった。

……驚くほど、部屋が静かだ。


「とても素敵なお姉さんですね。涼也さんがどうやって育ったか、分かった気がします」


……ああ、良くも悪くもあの活発な姉と育ったからこそ、今の俺があるのかもしれない。

別に恨んでない。

ただ――買ってきたアイス食われたときは一生恨むって思ったけど。


「さてと、学校行こうかな」


「そうですね。学校に行けば三千花さんと会えますし、今日はバイトもあるので、天音さんとも会えますね」


……陽花、おまえ。

俺の交友関係とスケジュール、完全に把握してるな?


もはや生活の一部すぎて、ツッコミの感情も薄れてきた。


けど、確かに――

嵐が去った後も、陽花がいてくれると、なんか心が落ち着く。


そんなわけで、今日もまた一日が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ