【第16話】陽花を連れて文化祭 その3
文化祭の屋台ゾーンを、ぐるりと一周した。
焼きそばに唐揚げ、ベビーカステラ。どこも活気があって、にぎやかだった。
そして――
最後はクレープとタピオカミルクティーを買って、校舎脇のベンチに腰を下ろす。
午後の日差しはやわらかく、タピオカの甘さがじんわりと染みる。
「それにしてもさ……ほとんどの屋台、茜ちゃん監修だったよね?」
ふと思って口にすると、隣でストローをちゅっと吸っていた茜ちゃんが、静かにうなずいた。
「味のバランスとか……提供時間とか……、ちょっとだけお手伝いしました」
「将来は、管理栄養士さんとか、料理研究家とか、目指してるの?」
そんな風に聞いてみると――
茜ちゃんはクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、ちょこんと首をかしげてこう言った。
「お嫁さんです」
……ベタだ。でも、なんか破壊力あるな、この子。
「スポーツ選手の奥さんとかかな?」
ふとそんな想像が浮かぶ。栄養バランスを完璧に考えた朝食を作って、笑顔で送り出す茜ちゃん……。うん、絵になる。
でも――
悠二は……見た目に反して、スポーツはまったくダメなんだよな……
悠二が遠い目をしてタピオカを吸っている。でも、その悠二をじっと見つめている茜ちゃん。ん……もしかして、もしかするかも。
「そういえばそのイヤホン……悠二さんと通信してるんですか?」
と、天音ちゃんが目ざとく指摘してきた。さすが洞察力高い。
「これ?違うよ。これは研究室のAIとスマホをネットで繋いでて……」
そう言いながらBluetoothをオフにし、スピーカーに切り替える。
『――初めまして、陽花と申します。いつも涼也がお世話になっております』
お母さんか。
とツッコミたくなるくらいの、しっかりした挨拶が響く。
「すごい……!最近のAIって、ちゃんとしてるんですね……こちらこそ、いつもお世話になってます!天野天音です!」
天音ちゃんが感心したように自己紹介すると、茜ちゃんもお辞儀しながら、
「私は赤城茜です。よろしくお願いします」
いや、これどういう空気?
「悠二がプログラムを作ったんだよ」
「えっ、すごっ!」
二人の目が一気にキラキラし始める。
「涼也はハードウェアとOS担当してるん」
悠二がフォローしてくれるが、最近はもっぱら、おしゃべり担当な気がする。
『ここまで育てて頂いたのは、ひとえに涼也さんの献身的な努力のたまものです』
なんか持ち上げられてるけど、いやいや、俺、個人情報献上したくらいだよね?
「言うなれば、悠二さんが産みのお父さん、涼也さんが育てのお父さんです」
「いやいや、そこはお父さんじゃなくてお母さんでしょ?いや、良いのか!?」
「さっ……最近のAIはユニークですね……!」
「ところで、もうそろそろ戻らないといけないので、連絡先を交換しましょう!」
天音ちゃんが強引に話を切り替える。さすが仕切り屋のスキルが高い。
QRコードを読み込んで、俺のスマホにも女子高生の連絡先が2つ入った。人生ってこんなこともあるんだな……
隣では、悠二と茜ちゃんが……
お互いに照れながら、スマホの画面を覗き込んでいる。
……うん、尊い。
なんか報われた感じするな、悠二。いつも頑張ってるもんな。
あとは、茜ちゃんに食生活改善して欲しいな。
「じゃあ、私たちはこれで戻りますね!」
「うん、俺たちもそろそろ帰ろうかな」
「じゃあ、またバイト先で!」
ヒラヒラと手を振る天音ちゃん。
その後ろで、クマを抱えたままぺこぺこと頭を下げる茜ちゃん。
夕日が、制服のリボンをきらりと照らしていた。
「……良い文化祭だったなぁ」
しみじみとつぶやく俺の耳元で、イヤホンから声がした。
『なるほど……女子高生というものが少し分かった気がします。私も、頑張らねば』
――いや、お前は何を目指しているんだ。
そんなツッコミを心の中に浮かべながら、
俺は少しだけ、スマホの画面を見つめて笑った。