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【第15話】陽花を連れて文化祭 その2(出番少なっ)

「お待たせしました!」


教室の前で10分ほど待っていると、制服姿に着替えた天音ちゃんと茜ちゃんが姿を現した。

……ああ、やっぱり天音ちゃんは制服がよく似合う。さっきの妖怪姿(?)も良かったけど、やっぱり日常の天音ちゃんは破壊力がある。


「工藤 茜です。よろしくおねがいします」


横には茜ちゃん。身長は……悠二と50センチは差があるだろうな。ん……悠二の方ばっかり見てる……、って、ガン見してるのはクマのぬいぐるみか。クマを、というより……あれは狩る目だ。


「悠二さんも、ありがとうございます」


「ああ、こないだ会ったん」


うん、そういえばコンビニで鉢合わせしてた。

後日、天音ちゃんから「あの大きい人、誰ですか?」って聞かれて、「ああ、うちによく泊まりにくる友達」って答えたら、「……おっきい人ですね」ってだけ言われた。第一印象、やっぱりそれか。


ふと、天音ちゃんの視線が、俺の持ってるぬいぐるみにとまる。


「隣のクラスの射的でゲットしたんだ」


俺は、タコっぽいクラゲのぬいぐるみを見せると


「えっ、難しいって評判なのに……」

「良かったら、いる?」


そう言ってぬいぐるみを差し出すと、天音ちゃんの顔がパァッと明るくなる。


「いいんですか!?ありがとうございますっ!」


受け取るとすぐに、バッグにぶら下げながら、「名前は……クラリスにします!」と満面の笑顔で命名。惜しい、惜しいけど、なんか可愛い。


一方で、悠二が持っているクマのぬいぐるみに、茜ちゃんの眼光が突き刺さる。

もう……視線がクマを貫通しそうなんだけど。


「もしかして、クマ好きなん?」


悠二が尋ねると、茜ちゃんは無言でコクコクとうなずいた。正直でよろしい。

そして悠二は、それを当然のように差し出す。


「じゃあ……これ、どうぞ」


ぬいぐるみを受け取った茜ちゃんは、一瞬にして笑顔になり、その場でギュウゥっと抱きしめた。

ちょっと待って……めっちゃ良い笑顔じゃん……!

ていうか、あのクマ、羨ましすぎる。俺もクマになりたい。


そんな茜ちゃんを、目を細めて見つめる悠二……

って、どう見ても娘にぬいぐるみを買ってきたお父さんにしか見えない。


「茜は4月2日生まれで、こう見えて私より年上なんですよー」


「えっ」


思わず素で声が出た。え、年上?つまり18歳?これは、セーフなのか?いや、見た目でアウトでしょ……


「何か食べに行きましょう!お腹空きました!」


天音ちゃんが腕を引っ張ってくる。ふにふにしてて、柔らかい。

……よし、暗黒の男子クラス時代の記憶、これで完全消去っと。


振り返ると、クマに埋もれた茜ちゃんと、それを見守るようについてくるボディーガード風の男。ちょっと周りがザワついてる。


「先輩たち、何か食べましたか?」


「いや、コーヒーだけ」


「あっ、純喫茶ですね!あそこは委員長の優子ちゃんのお家が喫茶店で、そこから豆を取り寄せてるんですよ!」


「へぇ……おいしかったよ」


「ありがとうございますっ!優子に伝えておきますね!」


うーん、天音ちゃんの情報の引き出しがハンパない。


『私の出番がありませんね……』

Bluetoothイヤホン越しに、陽花が少し寂しそうな声を漏らす。


◇◇◇


「まずは、たこ焼きからですね!」


中庭の屋台ゾーンに着くと、さっそく元気な声が飛んできた。


「あっ、天音ー!来てくれたんだ!茜もこの前は手伝ってくれてありがとう!」


「やっほー!知佳ちゃん!どう?調子は?」


「ぼちぼちでんなー」


なにこの関西弁もどきのノリのいい子。元気すぎる。


「はい、これ、この前手伝ってくれたお礼!」


と、たこ焼きのパックを天音ちゃんと茜ちゃんに渡す。手慣れてるな。


「私が焼き方を教えて、茜が秘伝の黄金比率レシピを伝授したんですよ」


茜ちゃんも「小麦粉100gに片栗粉に……」とブツブツ言い出す。秘伝じゃなかったんだ……


『その比率ですと、外はカリカリ、中はトロトロのたこ焼きになりますね』


陽花まで太鼓判。たこ焼きにAIの審査入るの初めて聞いた。


「どれどれ、ちゃんとできてるかな?」


天音ちゃんが串でひとつ取って、フーフーし始める。……で、まさかの、


「はい、先輩」


と、口元に持ってくる。


「えっ……あっ」


反射的に口を開けた俺に、たこ焼きが放り込まれた。


「アッツ!!」


熱っ……!でも、うまっ!?

外はパリッ、中はトロッ。タコがプリッと、紅生姜のアクセントもいい。これは……プロか?


「やっぱり一口で食べるのは危険ですね」


天使かな?と思ったけど、小悪魔だったか。でも、よく考えたらこれってフーフー、アーンでは?


ふと横を見ると、茜ちゃんが割り箸でたこ焼きの中をじっと観察していた。


「ちゃんとレシピ通りにできてるみたいですね」


見ただけで分かるのすごいな……。


「どうぞ、食べてみてください」


そう言って、パックごと悠二に差し出す茜ちゃん。

もちろんアーンはない。ていうか、身長差で届かない。


クマを抱きながら、悠二を見上げて微笑む茜ちゃん――

その光景があまりに平和すぎて、ちょっとこの空間が尊い。


そして俺は――


「たこ焼き、もう1個どうですか?」


なんだかんだで、もう一度アーンされてしまうのであった。

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