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【第14話】陽花を連れて文化祭 その1

「やってきました文化祭!」


誰に言うでもなく気合いを入れた俺の声が、校門の華やかな装飾の前で空に溶けていく。隣では悠二がにこやかに見守っている。うーん、黙ってると身長も高いし日本人離れした濃い顔が目立つな、あっ、こっそり写真撮られてる。


ゲートをくぐった瞬間、すぐに違和感に気づいた。


……女子、多くないか?


いや、多くないどころじゃない。男子の2倍、いや、もしかして3倍くらいいる。人混みにも関わらずスカートの揺れる音の方が多く感じられるこの空間。なるほど、これが噂の男女比が狂ってる学校か。


「……あー、これ、呼ばれた理由ってさ」


「うん、たぶん、客層の調整要員ってやつだね」と、悠二がさも当然のように答える。


文化祭のチケットをもらった時から多少の予感はしていたが、これは想像以上。男子生徒たちは裏方で忙しそうに動き回り、表に出て接客しているのはほぼ女子。ラノベでよくある“夢のようなシチュエーション”の学校だが、現実はそう甘くないらしい。


ふと、自分の高校時代を思い出す。


理系選択して物理専攻取ったら、共学のはずなのに2年間男子しかいないクラスになった、あの忌まわしき思い出。共学なのに、男子クラス。何の罰ゲームかと。あの頃、女子が俺らの教室に近づくことすらなかった。


「でもまあ……今、こうしてあの思い出を上書きできるって考えたら、悪くないかも」


と、しみじみしている俺に、横からじっと見てくる視線。悠二が、明らかに“哀れみ”のまなざしを向けてきていた。うるさい、俺は前を向いて生きている。


それより問題は、天音ちゃんのクラスだ。


「聞いてなかったな……」


「学年は分かっているのでしたら、その学年のクラスを全て回るしかありませんね」と、陽花がBluetoothイヤホン越しに静かに告げてくる。今や俺と悠二の耳には1つずつ陽花の声が届いている。うーん、ナビ役として有能すぎる。


ちなみに文化祭がこの時期なのは、「3年生が受験前でも参加しやすいからのようです」と陽花談。さすが万能AI(?)。


まず最初に訪れたのは、3年A組「純・メイド喫茶」。


クラシカルなメイド服を着た女子たちが、「ご注文は何になさいますか?」と丁寧に注文を取ってくれる。出てきたのは、きちんとドリップされた香り高いコーヒー。1杯600円。なるほど、これは納得の価格設定。


「日本にも正しいメイド文化が伝わっているのですね」と陽花。


いや、これ高校生ですから。どこかちぐはぐな感覚に最初からまったりしてしまった。


次に行ったのは、3年B組「射的・訓練場」。


教室内は、ちょっとした射撃場のようなレイアウト。標的の下に、商品が吊られている。エアガンで狙い撃ちして、紙を撃ち抜けば景品ゲットというルールらしい。


俺の最初の4発は空振りだったが、


「スマホのカメラをエアガンに向けてください」


スマホでも画像認識できるんだ。これって常時見られてるわけじゃないよね?


「ワルサーP38ですね、ルパン三世の愛用銃です」


そして、「ホップアップはついてるモデルですね、脇を締めて……的の中心を狙ってください」


アドバイス通りに撃つと、見事命中。落ちてきたのは、タコみたいなクラゲみたいな、つぶらな瞳のぬいぐるみ。……なんか癒される。


悠二も同じようにアドバイスを受けて撃つと、今度は大きなクマのぬいぐるみをゲット。銃を片手にクマ持ってるその姿が、完全に「ぬいぐるみ押収した刑事」だった。なんで絵になるんだお前は。あっ、ここでも写真撮られてる……


そして、3年C組「仮装・お化け屋敷」。


中は雰囲気たっぷりの薄暗い墓地風セット。人魂ライトが揺れ、BGMにお経っぽい音楽が流れている。どこが“仮装”なんだと思っていたら——。


黄色と黒のちゃんちゃんこを着た、ボブカットの少女が飛び出してきた。髪には目玉のお父さんのヘアピンがついてる。


「えっ、鬼◯郎!?」


隣で悠二が「お化けじゃなくて、妖怪だったん」と冷静にツッコミを入れる。


その後も、段ボールから手足と顔だけ出した男子や、赤い前掛けをして蓑を背負った男子が次々登場(男子がちょっと可哀想……)。

そこに、赤いリボンに赤いジャンパースカート、猫耳風の髪飾りをつけた少女が急に飛び出してきた。


「しゃーっ!」


……鳴き声が違う、と思ったけど、そもそも、鳴かないか……。


「先輩、来てくれたんですね!」


元気いっぱいのその声の主は、天音ちゃんだった。


「……あ、このクラスだったんだ」


「えー、言ってませんでしたっけ?チケットの裏にクラスと携帯番号、ちゃんと書いておいたんですけど?」


……あ、うん。聞いてなかった気がする。けど、知らないうちに天音ちゃんの番号ゲットしてたという事実に、ちょっと動揺。


その後ろには、小柄で灰色の髪、薄紫の着物姿の少女が顔を半分隠して立っていた。おばあちゃんメイクはしてないけど、信じられないくらい童顔で、悠二を見ると小さく後ずさりして、天音ちゃんの後ろに隠れてしまう。


「この子は(あかね)。後でちゃんと紹介しますね」


どうやら、彼女は天音ちゃんの友達らしい。


「もうちょっとで交代なんで、少し待っててくれれば案内しますよ!」


こうして、俺たちの文化祭巡りはまだまだ続くのだった——。

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