【第13話】三千花チョイスと、文化祭チケット
ルーズリーフを買うだけのはずだったのに──
購買の冷房に当たって涼んでたら、見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
涼也くん。
カゴにポテトチップス2袋を入れて、飲み物は──うわ、ドクペと……あの“限りなく健康飲料を追求する”でお馴染みのメーカーのラムネを入れてる?
ツッコミどころしかない買い物カゴに、思わず声をかけてしまった。
「何を……買ってるの?……」
あっ、言い方ちょっと刺さったかも。
でも慌てて目を泳がせながら言葉を探してる涼也くんが、なんかかわいかったから、まぁ、いっか。
……って、私の服、チラチラ見てる?
今日はバイトもないし、少し丈長めのスカートにフレア袖ブラウスの“ちゃんとした格好”してきて正解だったかも。
「これは、悠二さんに頼まれて買い物してるんですよ」
──って、えっ!? 涼也くんのスマホから声が!?
「そうです。陽花スマホバージョン・スマホ版・陽花1.0です」
やっぱり陽花ちゃん!?
スマホで喋るようになってるとか、悠二くんの開発、進化早すぎない?
開発記念の打ち上げするっていうから……ちょっとおもしろそう。と思って、何となく一緒していいか聞いたら、陽花ちゃんからあっさりOKもらっちゃった。
うーん、なんか“余裕”があるなあ。
スマホで動けるようになって、世界が広がったからかな?
でもさすがに手ぶら参加は気が引けるので、購買で差し入れを吟味。
まずは、青のりソース味のせんべい。
それから、梅しそ味の柿のたね、そして中身しっとり系のカントリー風クッキー。
……しまった。
これ、同じゼミの奈々美に「おばあちゃんちで出てくるやつ」と言われたラインナップだった……。
でも、個包装だと、残っても後で食べられるんだよ。
だけど、涼也くんは「なるほど、そういうのを選べば良いんだ」とか言って、納得してる!?
──え、いいの!? 私、このチョイスで正解なの!?
じゃあ飲み物は、王道のウーロン茶。でっかいペットボトルで。
……おばあちゃんチョイス、抜けない。
でも不思議と、安心してる自分がいた。
***
研究室に着いたら、悠二くんがまるで“当然来るでしょ”みたいな顔で迎えてくれて──
「……そういえば、三千花たん、髪型変えたん?」
なんと! 気づいてくれた!?
この人ほんとなんで彼女いないんだろう? スペックは文句なしなのに。
一方、肝心の涼也くんは──やっぱり、気づいてなかった。
でも私、あたかも「美容師さんに言われたからその通りにしました〜」みたいな言い方をして、ちらっと涼也くんを見る。ごめんなさい明美さん。
……すると、なぜか悠二くんも、涼也くんをちらっと見てる。
何このプレッシャー連携!?
そしてようやく、涼也くんが意を決したように口を開く。
「……すごい、良いと思います」
うわっ、ストレート……。
でも、嬉しい。嘘じゃないって、分かる。ちゃんと、伝わった気がする。
ありがとう、明美さん!
そして陽花ちゃんが、またもや空気を読まないタイミングで──
「涼也さんの好みを残した上で、三千花さんの魅力を引き出す髪型ですね。美容師さん、グッジョブです」
爆弾投下。
バレてる!? 涼也くんに“似合う”って言ってもらいたくて選んだの!?
なにそれ、AIなのに察しが良すぎるんだけど!
慌てて「見えてるの?」って話題を逸らす。
でも、陽花ちゃんってホントすごい。
すでに完全に研究室の一員。私が「もうメンバーだね」って言ったら──
「三千花さんも研究室のメンバーとなって頂けると嬉しいです」
って、え、私も!?
──えーっ、すごい嬉しいんだけど!
これで鬼平の貸し借りとか口実作らなくても、堂々とここに来られる!
テンション上がって、つい、
「そういえば、涼也くん。鬼平はどの辺まで読んだ?」
って聞いてみたら、
「あっ、ごめん……色々あってまだ1巻の途中で……でも、意外と読みやすくて、面白い……と思います」
って、最後なんで敬語!?
私、圧かけすぎた!?
歴史モノ語りスイッチ、また入ってた!?
でも、読みやすいって言ってくれたのはホントだと思うし、よかった。
ここで「じゃあ本所行こっか!」って“聖地巡礼”に誘おうか迷ったけど……まだ早いかな。
そう思ってふと横を見ると──
陽花ちゃんのディスプレイの横に、2枚の紙。
ん? チケット……?
──高校の文化祭? って、しかもここって、去年女子校と男子校が合併したとこで、女子校の方が生徒が多かったから男女比がおかしいってニュースでやってた高校?
しかも涼也くん、明らかに「しまった」って顔してるし。
悠二くんが「涼也がバイトの後輩からもらって今度行くことになったん」とか、あっさりネタばらししてるし!
──え、それって、女の子だよね?
最近の高校生、油断できないし……!
のんびりしてたら、ホントに誰かに取られるかも。
でも、研究室のメンバーに入れてもらえたし……
だから──このアドバンテージを活かさないと。
──そう密かに決意する三千花だった。