【第12話】打ち上げのつもりが……
研究室に戻ると、悠二はいつもの調子で両手を広げて迎え入れた。
「おおっ、三千花たんじゃん!よくぞ来てくれた!」
「えっ、あ、うん。陽花ちゃんにOKもらって、あまりお邪魔にならないようにしますので……」
研究に参加していないのに、打ち上げに参加するのでと、真剣に差し入れを吟味していた三千花はちょっと拍子抜けしたような顔で笑い、テーブルの上に差し入れを並べ始めた。
「……そういえば、三千花たん、髪型変えたん?」
なんか、女の子慣れしたセリフだけど、それって絶対ギャルゲで学んだ洞察力だよね?と、思ったものの──それは正解だった。
「そうなんです。美容室にいったら、シースルーバングにして軽く内巻きを入れると似合いそうって言われて、ちょっと試してみました」
言いつつ、なぜか俺の方をチラッと横目で見てくる。
悠二はその視線に気づいたのか、同じく横目で俺を見てくる。無言のプレッシャー。
ええ、分かってますよ。今度は俺のターンなんですね。
「……すごい、良いと思います」
小学生の感想レベルだったが、それでも三千花は目に見えてホッとした表情を浮かべた。
「言われた通りにお願いしちゃったけど、似合ってなかったらどうしようかと思ってたの。涼也くんなら本音で感想言ってくれると思って、聞いてみてよかった」
うまく切り抜けた感に胸をなでおろす俺を他所に、陽花がさっと割り込んでくる。
「涼也さんの好みを残した上で、三千花さんの魅力を引き出す髪型ですね。美容師さんグッジョブです」
「……えっ、見えるの?」
「はい。今日からカメラ機能が追加されましたので、リアルタイムで画像認識も可能です」
「すごーい、もう完全に研究室のメンバーだね」
「そうだね、陽花はもう俺たちの一員だよ」
──元々は俺と悠二の二人で始めた小さな研究だった。でも、いつの間にか、陽花は僕らの生活の中に自然と入り込んでいて、その存在自体が研究の成果になっている。
「ありがとうございます。ですが、私の学習対象には三千花さんも含まれていますし、三千花さんから女性の行動を学習させてもらっていますので、三千花さんも研究室のメンバーとなって頂けると嬉しいです」
えっ、本人の承諾なく入れようとしてないか?
「……えっ、本当ですか? 私も心理学的に興味ある部分たくさんあるし、時間あるときに参加できたら嬉しいなって思ってたけど……」
「三千花たんなら、もちろん大歓迎!」
悠二は即答。
「もちろん俺も仲間になってもらえると嬉しいよ」
三千花は照れくさそうに笑って頷いた。
「それでは、今からこの4人は同じAIの研究を行う仲間ですね!」
……いや、陽花がその対象なんだけど、と軽く脳内でツッコミつつも、それを否定する気にはなれなかった。
「なら、今からは打ち上げじゃなくて、歓迎パーティだな!」
研究の打ち上げは、いつの間にか、新しい仲間の歓迎会へと変わっていた。夏の夕暮れ、研究室に笑い声が静かに広がっていく。