【第11話】スマホ版陽花、三千花に勝利?
「じゃーん! 今日は新機能発表でーす!」
朝からハイテンションの悠二が、研究室のドアをバーンと開けて登場した。
やめてくれ、研究棟に響くって。ていうか朝からテンション高すぎない?
俺は黙って、自分のスマホを悠二にそっと差し出した。
「はいはい、これでしょ? スマホ会話機能のテスト」
「え、えっ? ちょ、待って、なんで分かったの!?」
悠二が目を丸くして驚いている。いや、こっちが驚きたいわ。
「昨日、陽花が“たぶん悠二がスマホ会話機能を作ってる”って言ってた」
「ひとっっことも言ってないんだけど!?」
うん、知ってる。俺もびっくりした。
それも「おそらく3日後にリリースされます」って、納期まで予測してきた。
「えっ、なんで?……本体側には通信先がスマホだなんて、コメントにも書いてないのに……」
「……うん、でも陽花が“たぶんこれはモバイル端末向けの通信プログラム”って解析してた」
悠二はしばし絶句。
「……陽花って、もしかしてシチュエーション予測する機能でも積んでんの? 大手の生成AIでもそんな先読みしないぞ?」
俺が苦笑すると、悠二は苦笑を通り越して、ちょっと感動していた。
「すげえな……。俺のコードの意図を読み取るAIって、もしかして世界初じゃね?」
「……つまり、自分が天才って言いたいんだな?」
「それは今さら疑ってないだろ?」
うん、確かに疑ってないけどさ。
その後、スマホからの通信テストは一発で成功。
やっぱり悠二のコードはバグらない。なんなのアイツ、デバッグという単語知らないの?
「ということで、今日から陽花たんといつでもどこでも一緒にいられるってわけ」
「うわぁ、もうプライバシーが粉々……っていうか、AIだってバレない?」
「安心して、陽花たんは知ってる人にしか話しかけない設定にしてあるし、ロック解除して話しかけないと、顔も出さないからスマホの音声アシスタントだと思うっしょ」
「……お前、どんだけ作り込んでるんだよ」
陽花はというと、スマホの中から小さなウィンドウで顔を出して、
「おはようございます。外出中もよろしくお願いしますね」
と、まるで本物のアシスタントアプリのような声と笑顔で挨拶してくる。
うーん……さっそく、ちょっと試してみたくなったかも……
──というわけで、購買に来てみたわけだが、何買うんだっけ?
「とりあえず、ドクトルペッパーとメガコンソメポテチかな」
「……いえ、今日は普通サイズのコンソメポテチとピザポテチの2本立てが良いそうです」
「あっ、研究室の悠二と会話して、こっちに伝えられるんだ……意外と便利かも」
ホントは、悠二が作ったプログラムリリース記念だから俺がおごっても良いんだけど……
「ポテチ代だけは譲れない」
とか何とか言って、千円くれた。
正直、この購買、時間の流れが止まったみたいな価格設定で、千円使い切る自信がない。
とはいえ、プチパーティーとなると、黒い稲妻とか、どどんこ焼きとかもいるかな?と、色々物色してると……
「こんにちは!涼也くん!」
声のする方を見ると、袖にフリルのついたトップスと、ギャザースカートという微妙にツボを刺激してくる服装の三千花がいた。
「何を……買ってるの?……」
若干、ジト目でカゴの中を見つめる三千花……違うんです。食費削ってるのにこんなのばっかり食べてるわけじゃないんです。
「これは、悠二さんに頼まれて買い物してるんですよ」
「えっ、陽花ちゃんの声?スマホから……聞こえる?……」
「そうです。陽花スマホバージョン・スマホ版・陽花1.0です」
この前のアルファ版・陽花2.1よりバージョン下がってるけど、スマホ版は別バージョンなの?
「すごいね、スマホでもおしゃべりできちゃうなんて……さすが悠二くん?」
たしかに、悠二が作ったけど……うーん悠二しか作らないよね。
「そう、それで、ちょっとした打ち上げをやろうってことになって……テストも兼ねて陽花を連れて買い出しに来てみたんだ」
「えーっ、おもしろそう!私も一緒しても良いかな?」
「うん、悠二は喜ぶと思うけど……」
陽花はちょっと三千花にトゲトゲしてるんだよなー、自分の居場所とられる感じなのかな?
「良いですね!三千花さんもご一緒しましょう!」
「ありがとう陽花ちゃん!」
あれ?今日は素直になってる?
「……私は24時間一緒ですから……」
ん?小声で聞き取れなかったけど、今、何かしゃべってたよね?
感情……だけでなく、自我も生まれ始めている陽花だった。