【第100話】本所デート その1
「何着ていこう……」
デートに誘ったときは嬉しそうだったのに、翌朝になったら「本所ツアー」に訂正されてたし、やっぱり、大学の友達っていう域を超えてないのかなと思う。
「ジャケットとかは流石に重いか」
こっちがデートのつもりでそれなりの格好をしていったのに、三千花が軽装だったら、重い男だと思われてしまうかもしれない。
「まあ、夏だし、Tシャツの上に、シャツを羽織っていけば良いか……」
シャツは、リネンの薄手のシャツにしよう。暑かったら脱げばいいし、Tシャツは半袖だけど、1枚でも大丈夫なしっかり目のを着て、シャツは冷房で寒いとき用に長袖にしよう。下は……ジーンズしかないから、選びようがないな……
思いの外、ラフな格好になってしまったけど、史跡めぐりだからこんなもんかな……
* * *
待ち合わせは、ターミナル駅の乗り換え口だ。日曜の朝とはいえ、人の波はとぎれない。早めに着いちゃったけど、三千花が来たらすぐ移動できるように、こちらに近づいてくる人をチェックしておく。
「おまたせー」
――が、目を凝らして見てた方と、逆側から三千花が現れた。
「ごめん、結構待ってた?」
「いや、今さっき来たところ……って、まだ、待ち合わせの10分前だけど」
「早めに着いたと思ったら、もう待ってたから、気づかれないように背後に回って見たわ」
いや、そこは見つけたら正面から駆け寄るところじゃない? まあ、不意打ちに成功して、ごきげんみたいだから良いけど……
三千花の服装は、サマーニットに下は栗色のチェックのタイトスカート。ニットはボディーラインにぴったりフィットしていて、細身の分、胸元が強調されてる……これは童貞を仕留めるコーデだ。
「どうかしら? デートだからおめかししてきたわよ」
そして、耳元には、花びらをかたどったシルバーのイヤリングが揺れていた。
「えっ、えーっと、そのイヤリング、三千花らしくて、とっても似合ってる」
イヤリングの効果で、全体的に大人びて見える。しまった。ジャケット着てくれば良かった。
「そう? ありがとう。でも、イヤリングじゃなくて、ビアスなのよ」
確かに、よく見るとピアスだ。
「ほんとだ。いつ、開けたの?」
「前から開いてたわよ。でも、あんまり付けないと、塞がりそうだったから、せっかくだし付けてきたわ」
三千花とピアスが全然結びつかなかったから、見てなかったな。しかし、今日は化粧もバッチリ決まっていて、服装もピアスもそうだが、こうして並んで立つと、本当に大人っぽい。むしろ俺の子供っぽさが際立ってしまっている。
「俺ももう少しおしゃれな格好してくれば良かった」
「何言ってるの、良いわよその服装、涼也くんっぽくて……むしろ、デートだからって急にイケイケの服装で来られても困るわ」
うん、イケイケの服装は持ってないから、着て来ることは無いんだけど、まあ三千花が良いなら良いか。
「ありがとう、そう言ってもらえると、少し楽になったかな……あんまり三千花が綺麗だから、ちょっと釣り合わないかなと思っただけ……」
「えっ、綺麗って……ありがとう。今日はメイクが完璧だったから、それに合わせただけよ……ほら、もう移動しましょう」
そういって、手を引っ張ってくれる三千花。どうやら、メイクがばっちりキマると行動力も上がるらしい……まあ、4姉妹の長女だから、元々こういう面倒見が良いところもあるのかな。
――電車に乗ると、周りの人がチラチラとこちらを見る。ほぼ、男の人の視線なので、三千花をみてるんだろう。そして、その隣の俺をみて「何だこいつ?弟か?」みたいな顔をされる。見事に、姉属性と弟属性が見た目に反映されちゃってるな。
「どうしたの? だまっちゃって?」
「いや、周りの視線がちょっと気になっちゃって……」
「そんなの、ほっとけば良いのよ。周りの人に見せるために、おしゃれしたわけじゃ無いんだから」
いつになく強気な三千花だな。何となく、しっかり化粧したときだけジロジロ見られるのが気に入らないっていう感じだな。俺もあんまり見ないほうが良いんだろうか。
「デートなんだから、誰のためにおしゃれしてるか分かりそうなもんだけど……ホント、男ってしょうがないわね……」
どうやら男全般に対してご立腹のようだが、俺はそれに入って無いみたいで良かった。まあ、デートに誘ったのはすっぴんのときだったから、セーフなのかな?
「どこで降りれば良いの?」
「えーっと、前住んでたところは錦糸町の方が近いけど、今日行くところは両国で降りないと」
「うん、分かったわ。各駅だから駅は多いけど、そんなに時間はかからなそうね」
快速で御茶ノ水乗り換えという手もあったけど、まあそんなに急ぐわけでもないから、ノンビリと各駅で行ってる。天気が良いから、釣り堀でのんびり釣りをしてる人がちらほら見える。のどかだな。
「普段は秋葉原で降りちゃうから、その先に行くのは久しぶりかも」
「あっ、例のGPUを買いに行くんでしょ。そんなにたくさん必要なのね」
「うん、でも陽花のときにだいぶ揃えたから、後はちょっとずつ故障したり古くなったりしたのを取り替えるだけでいいけど」
「そうなのね、秋葉原はあんまり行ったことないけど、どこに何があるか分からないから、詳しいのってすごいと思うわ」
「いや、一般的なお店はあんまり知らなくて、中古のパーツやさんとかばっかりだけど」
「そっちの方がすごいじゃない。なんかプロっぽいわ」
うーん、中古パーツのプロって、どんなんだろう。陽花が商業ベースのアンドロイドの実験に役立ってるから、プロって言えばあながちその括りに入らないでもないのか……
――そんな会話をしていると、もう、両国に着く……橋を渡って、駅の手前で大きく揺れるから、しっかりつり革に掴まっていると、案の定、三千花がバランスを崩しそうになるので、しっかり、支えてあげた。
「ありがとう。こんなに揺れるのね。びっくりしたわ」
思わず密着する形になってしまって、腰に回した手に、何やら当たってはいけないものが当たっているような気がするが、三千花が気にしてないみたいだから、大丈夫なのかな?
そのまま、駅のホームに降りると、東口の出口に向かう。相撲を見に行くわけじゃないから国技館とは反対の出口だ。確か、吉良邸にはこっちのほうが近い。
「最初に吉良邸、その後に回向院、そこから江戸東京博物館っていう順番が良いと思うけど」
「うん、今日は全部お任せするわ」
「了解、まあ、この辺は庭みたいなもんだから、場所は分かるんだけど、どんな場所なのかは小学校のとき聞いた知識しかないから三千花のほうが詳しいかも」
「確かに、小学生で忠臣蔵とか興味のある子は少ないわよね。私はその頃からおばあちゃん一緒にテレビで見て知ってたけど」
「そうなんだ、みんな社会科見学の前の授業で説明受けてから行くんだけど、全然頭に入って無くて、何の場所だっけ?ってなってる子が多かったな」
まあ、忠臣蔵の話をしてくれた先生の話し方が漫談みたいで面白くって、大体のストーリーは頭に入ってるけど。
「あっ、もうちょっと行った、その辺かな」
「あったわ、意外と駅から近いのね」
「小学校から歩くと、結構距離があった気がしたけど、大人になってから歩くとこんなに近かったんだって思うね」
白い塀で囲まれた吉良邸が見えてくる。石碑が建っていて「赤穂義士遺蹟 吉良邸跡」と書いてあるから間違いないな……日本人ならほとんどの人が知ってる歴史の舞台がこんなに身近にあったのはびっくりしたけど。
「結構高い塀ね、四十七士もここを登ったのかしら」
入る前から、塀を見ただけで感心してる三千花。うん、おしゃれしてても中身は変わらないな。なんだかホッとする。
中に入ると、吉良上野介の像がある。意外とカラフルだ。
「忠臣蔵では悪者だけど、結構、地元の人には好かれてた名士だったのよね」
確か先生もそんなこと言ってた気がする。どこまで詳しいんだろう。
「あっ、首洗い井戸があるわね。ここで首を洗ったのね」
小学生の頃は残酷な話だと思ったけど、今にして思うと、江戸時代の話だから武家のならわしだったと分かる。立て札には「みしるし洗いの井戸」って書いてあるけど、先生も「首洗い井戸」って言ってて、俺もそっちが頭に残ってる。
「小学生のときだったから、みんな怖くて二度と来れないっていってたな」
「そうなのね、でも、小学校で連れてってもらえるなんて、羨ましいわ」
そういう感想なんだ。本当に好きなんだな。勇気を出して誘ったけど、素の三千花が見れて良かったな。
それに、好きなことをしゃべってる三千花がすごく可愛くて、ずっと見てられる。
そんな彼女に、ますます惹かれていく自分がいた。
100回目なので、気合を入れて書いてたら、投稿が遅くなってしまいすみません。
一応、書き溜めとかはなしで、毎日書いてます。
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