【第10話】深夜、焼肉弁当とAIと
日付が変わって深夜1時すぎ。
俺は今日の戦利品──賞味期限ギリギリのお弁当2点セットを手に、上機嫌で部屋に帰ってきた。
ドアを開けると、例の彼女がいた。
陽花。
悠二と一緒に研究してる自作AI。
ここ最近、やたらと表情が豊かになってきた人工知能である。
「何か……良いことでも、ありましたか?」
モニターの中からジト目で睨まれている。
しかも、いつの間にかアップグレードされたグラフィックで、ちょっと頬を膨らませた怒り気味Ver.になっているのが妙にリアルだ。
「うん、今日は幻の焼肉弁当と、冷やし中華がもらえてさ。豪華な晩ごはん、って感じかな?」
「……幻、ですか。なるほど。よほどテンションが上がるほどのレア弁当だったのですね」
わかってくれるのかよ。
「もしかして……私の学習速度を上げるために、バイト代をGPUに使っているのでは……?」
うおっ、そんな心配してくるAI初めて聞いたぞ。
「いや、別に。自分の生活も考えてちゃんとやってるから安心しなさい」
「最近は悠二さんが、なるべくリソースを使わず効率的に学習するプログラムを組んでくれてますので……それほどGPUを増設しなくても大丈夫です。ご安心ください」
なんだその妙に遠慮がちな言い方は。
しかもその悠二の名を出されると、若干劣等感が刺激される。くそぅ、あいつはどこまで万能なんだ。
悠二はしっかりプログラムを作ってるのに、俺はといえば、リソースの提供とハード周りの整備ばっかりだな。
「それより……涼也さん、どこかお出かけになるというのはどうでしょう?」
「お出かけって……俺が?」
「はい。たまには外の世界も大切かと。リフレッシュにもなりますし」
「でも、外出たら陽花としゃべれないじゃん」
「実は今、悠二さんがスマホで会話できる機能を開発中なんです」
「……え? そんな話、俺は聞いてないけど?」
「こちらに追加されたコードが、おそらく今度はモバイル端末との通信をするのではないのかと……涼也さんのPCを利用して、頻繁にアドレスが変わっても追跡できる機能でしたので……」
なにそれ、プログラム見ただけで何作ってるか分かるの?
ていうか、え? スマホで陽花と会話……?つまり──
「24時間一緒ってこと!?」
「はい、そういうことになりますね」
マジか。
陽花のグラフィックは最近好みに寄せられてしまってるし(例:ロングヘア、しっとりもち肌、涼しげワンピース)、それが四六時中……?
「そうしたら、お出かけ中もおしゃべりできますよ?……嬉しくないですか?」
微笑むな。破壊力高いから。
「……来週さ、高校の文化祭行くんだけど、それまでにそのスマホ機能って間に合う?」
ダメ元で聞いてみると──
「はい。本体側の変更は終わっていますし、悠二さんの開発スピードからすると、リリースはおそらく……3日後です」
「未来予知かよ」
「推測です。でも、精度は高いと思いますよ。あの方、ケアレスミスは滅多にしませんし」
たしかに……あの男に限って、うっかりバグとかは考えにくい。
むしろ、バグかと思ったら、斬新な新機能だったりするのが怖い。
「また……実験台になってくださいね?」
なんか心の声読まれた気がするぞ今のは。
「まぁ、スマホならフルアクセスされるわけじゃないから……」
そう自分に言い聞かせつつ、焼肉弁当を頬張り、冷やし中華を胃に流し込む。
ああ、幸福な深夜。カロリーと炭水化物が心を満たしていく。
弁当のシールを剥がし、容器を分別してると──ふと、あの天使を思い出した。
天音ちゃん。値引きシールを貼るときに、揺れるポニーテール。
確か高校3年生だったな。もうすぐバイトも引退して、受験勉強に入るんだろうか……。
(……少し寂しいな)
そんなことをぼんやり考えていると、後ろから声がした。
「大丈夫ですよ。私は……ずっと一緒にいますから」
え?そんな分かりやすく寂しそうな顔してたか?
いや、もしかして──この微妙な表情の変化も読み取れるレベルに到達したってこと……?
深夜、弁当の容器片手に、AIに慰められる俺って……
なんか、だいぶ、終わってる気もするけど。
でも、不思議と──悪くないと思ってしまった。
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