表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

第6話 君と過ごす②

 次の日。外は4月下旬にも関わらず、5月並みの陽気に包まれている。

 学校も休み。今日は、桜木さんの願いを消すために少し遠出をする予定だ。

 願いを消す。叶った願いに必要性を感じなくなるか、別の強い願いが生まれない限り透明人間は治らない。

 要するに桜木さんに透明人間は嫌だ、と思わせれば良い。


 「それで?何でわざわざ人混みに来たのよ」

 「願いは必要がないと思わせなきゃな。不便さを感じてもらうにはここが良いと思ってな」


 柏駅の駅ビルへとやって来た2人は、とりあえず気になる店を探すように歩き始める。

 当然、桜木さんは裸だ。その為、桜木さんの右手に付けられたミサンガをバレないように小指に引っ掛けて桜木さんの存在を確認する。

 本来なら、人気モデルをする女子高生とデートをしている筈なのに。周りの人間には俺が1人でぶらぶら買い物をしているように見えているのだろう。何だか残念な気持ちになって来た。

 

 「ねぇ、ここのアクセサリー屋さんに行っても良い?気になってたのよ」


 俺の耳元で、周りに聞こえない声で囁く桜木さん。吐息が耳にかかり、ぞわっと鳥肌が立った。

 桜木さんが行きたがった店は、キラキラとした女性物のアクセサリーが売っているお店だった。

 中に入り、桜木さんに指差しながら商品を見て回る。すると、店員さんから声をかけられる。


 「何かお探しの商品はございますか?」

 「あ、はい。彼女にプレゼントを渡したいと思いまして」

 「っ!?」


 店員さんに嘘をついた理由は簡単だ。この店に僕の存在は完全に異物だ。

 店内は女性客しか居ない。桜木さんの姿が見えていない店員からしたら、男1人でレディースアクセサリーを見て回っている僕は不自然に思われても仕方ない。

 唯一、僕が自然に店に存在できる理由。それは彼女のプレゼントを探しに来た。それだけだ。

 咄嗟についた嘘だが、店員は疑う事はない。それどころか、表情を明るくしてプレゼント選びの手伝いをしたいと申し出る。

 何とか平然を装えたが、隣の桜木さんは大丈夫じゃなさそうだ。先程からミサンガをぐいぐいと引っ張って、イラつきがミサンガから小指を伝って感じられる。「何言ってんのよ!」と言っている桜木さんを想像するのは難しくない。


 「どう言った商品をお探しですか?例えば、カップルでお揃いのアクセサリーをつける方もいらっしゃいますけど」

 「そうですね………それってどこにありますか?」

 「はい。こちらになります」


 そう言うと、店員は店の奥へと案内する。

 ついて行こうとした時、ミサンガが強く引っ張られる。


 「何考えてんのよ!私が何も出来ないからって遊んでない!?」


 店員が離れた事を確認してから、先程より少し大きい声で桜木さんが黙っていた分のイラつきを伝えてくる。

 しかし、彼女プレゼント、と言ってしまったからには最後まで自然にしなければならない。

 桜木さんの言葉をわざと無視して店員さんの後を追う。


 「こちらのネックレスも人気ですし、この指輪なんかも人気がございます」

 「それじゃあ………この指輪のペア。一つください」

 「はい。かしこまりました。今、新しいの物をお持ちいたします」


 店員に勧められたシルバーリングを購入する事にした。

 さっきから桜木さんの足が僕の肩を踏み潰しているのを、気づかないふりをして会計へと向かう。

 アクセサリーを買い、店を出た瞬間にミサンガが切れそうなほど引っ張られる。人気のない所まで来て、初めて桜木さんが大声で怒りを爆発させた。


 「な、何やってんのよ!!貴方の彼女じゃないし!勝手に指輪なんて買っちゃうし!何考えてんのよ!」

 「指輪じゃ嫌だったか?」

 「そうじゃないっ!もうっ!」


 左肩をぽこぽこと殴られながら、彼女に罵倒される。なんだか悪い気はしなかった。


 「そんな事言わないでさ。指輪、はめてみてくれ」

 

 そう言うと、僕はさっき買った指輪の箱を取り出す。包装を取り、ケースをぱかっと開けると2つのリングが姿を表す。一つを取り出し、目に見えない彼女の手をとって指に通す。


 「………もう…。そこは中指よ。薬指はこっち」


 俺の手を取り、左の薬指に自ら指輪をはめる。


 「まあ、綺麗だし?付けといてあげるわ」

 「それはよかった。……別に薬指にはめなくても良かったんだけどな」

 「えっ?」


 そう言うと、何かに気がついたように桜木さんは慌て始める。

 そして、次の瞬間、左脇腹に鈍痛が激しく響く。


 「ごはっ!?」

 「うっさい!ばかっ!」


 その場にしゃがみ込む僕を、更に桜木さんは罵り続ける。

 これで良い。少なくても今は、桜木さんは透明人間の事で悩んではいない。いじめられた事も頭に無いだろう。少しでも楽しい気持ちにさせる事は願いを消すことにつながる。

 そのまま買い物を続け、その日は家へと戻る事にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ