表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

18 ペルムの公子

            ◇



 公爵夫人の出産が近づいた。それでも新年会は行かねばならない。公爵と大きな腹の夫人、ディアは着飾って王城に行った。王家に挨拶をした後はそれぞれ社交に務める。公爵は中年男性と話し、夫人は中年女性と談笑していた。ディアは紹介されたペルム公国の青年の相手をした。


「私の父はペルムの公王なんですよ」


 ディアは適当な相槌を打った。


「さすがです」


「先の戦争では友好国として貴国と共に戦ったんです」


「知りませんでした」


「私達が生まれる前の話ですけどね」


「すごいわ」


「私も軍学校では首席です」


「センスがよろしいのね」


「ぜひ英雄トリアス公爵の薫陶を得たいと思っております」


「そうですか」


 つまらない会話だ。この後は一曲踊り、後日花と手紙が届く。最近はこんな見合いばかりしている。でもこの男は自慢話が少ない。好感が持てる。


(次男だっけ。婿に来てくれるな)


 ダンスに誘われてディアは了承した。だが手を取られた瞬間、分かった。彼はインディアナが殺した敵将の生まれ変わりだ。



            ◆



 会場に入ると、とりわけ輝く女性に目を奪われた。ディアだ。10代後半のペルム人らしき黒髪の青年と踊っている。ローエンは胸がギュッと痛んだ。白い歯を見せて笑っている。あんな笑顔は一度も見たことがない。曲が終わると、青年はディアを椅子に座らせて飲み物を取りに行ったが、急に彼女は立ち上がり、バルコニーへと去った。


 ローエンは後を追った。青い顔で具合が悪いように見えたのだ。 


「ディア。大丈夫かい?」


 彼女は振り向かずに庭を眺めたまま答えた。


「大丈夫。また殺した奴だったから、動揺しただけ」


 会うのは久しぶりのはずなのに、挨拶も無い。それに殺した奴とはどういう意味だ。


「きっとあの男も求婚してくる。前世の仇に。笑える」


 手すりを握る手が震えていた。



            ◇



「説明してくれ」


 幻覚のローエンは優しい声で言った。振り向いたら消えるから、ディアは前を向いたまま話した。社交界にデビューしたら多くの縁談が来た。親が選んだ相手と会う度に気づいた。どれも前世の因縁がある。戦争中にインディアナが殺した人間だったのだ。


「あのペルムの公子。闇討ちした大将軍だ。すごくしつこかった。最後まで抵抗してた」


 喉笛を噛み裂く間も睨んでいた。だから彼らはディアに惹かれる。憎悪を好意と錯覚して。


「仕方ない。私もバージェスを憎んだし。後悔もしてない」


 何かが彼女を破滅させようとしている。そうでなければ、求婚者が全員殺した奴なんてあり得ない。どのみち、公爵夫人の腹の子が妹だったらディアが婿を取らねばならない。


「嫌われたら別れれば良いか。跡取りさえできてれば」


「そんな!君の幸福は?」


 本当に優しい幻覚だ。ローエンも愛人の店に通い始めたと、手下のネズミから聞いている。彼が幸福ならそれで良い。ディアは大きく息を吐いて幻覚に消えるように言った。


「1、2、3、4、5…はい、お終い」


 振り向くと、バルコニーには誰もいなかった。公爵令嬢は会場に戻った。



           ◆


 

 いきなりローエンは後ろから羽交締めにされ、口を塞がれてバルコニーの柱の陰に引き摺り込まれた。


「今頃何の用だ。クリティシャス」


 ディアが出ていくと公爵は離してくれた。細身なのに凄い力だ。窒息しかけたローエンは抗議した。


「殺す気ですか?!それよりディアはどうしたんです?正気じゃ無いでしょう!」


「貴様が言うな。私はディアナの望みを全て叶えた。貴様を伯爵にして、研究所を作らせた。本も出版させた。結婚したければ愛人とやらをどこかの家門の養女にしてやる。ジュラ島への調査権も欲しがっていたな。明日にでも許可しよう」


 美貌に殺気を滲ませて公爵は言った。


「だから馬鹿みたいに笑って幸福を享受してろ。ディアナの事は放っておけ」


「そんなことできる訳ないでしょう?あまりにもディアが可哀想だ」


「平民上がりに分かるものか。可哀想だからとディアナの義務と責任を免じてやることはできない。既に対価を受け取ったのだから」


 ローエンは目を見開いた。では彼女は俺の名誉を回復させる為に、政略結婚を受け入れたのか。


「これからも我が家は貴様の後見だ。子供でも生まれたら挨拶に来い。ディアナは貴様の愛人を気に入っているからな。その頃には笑って会えるだろう」


 人間とはそういうものだ。公爵は言い捨てて、バルコニーを出て行った。残されたローエンは動けなかった。



            ◇



 生まれたのは妹だった。公爵邸は賑やかな幸福に包まれた。藍色の髪に金の瞳は父や姉と同じだ。ディアは運命を受け入れた。結婚して家を継ぐ。問題は相手だが、求婚者はどれもインディアナに恨みを持つ者だ。いつか寝首を掻かれる。


(性格はペルムの公子が一番マシ。軍人だし。前世を思い出したら殺りあうか…)


 そうと決めたら早い方が良い。デートして、プロポーズしてもらって、婚約して。最短半年で結婚か。すぐに懐妊すると仮定して、10ヶ月後に出産。だいたい妊娠中に愛人ができるらしいから、男子だったら即離婚。17歳で母子家庭だが、公爵は了承するだろう。ディアの役目はそこまでだ。


(きっと公爵夫妻が立派に育てる。何だ。あと2年もかからないんだ)


 希望が湧いてきた。ディアは早速ペルムの公子に手紙を書いた。心を込めて再度お会いしたいと伝えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ