14 竜の娘
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「報告します!クリティシャス博士がラプトル3頭の捕獲に成功しました!」
「おおっ!!」
良い知らせに重臣会議の場は沸いた。王と将軍、シルル大使らも喜んだ。
「射殺したのか?」
将軍が訊いた。
「いいえ。今は大人しく捕まっていますが、殺そうとすれば暴れて逃げるそうです。ラプトルをティー・レックスの捕獲に利用できないか、博士から意見具申書を預かっております」
伝令は書類封筒を差し出した。将軍がまず目を通す。その間に詳しい竜の様子が報告された。
「体長5メートル程で、体色は水色、暗緑色、瑠璃色。いずれも雌です。博士の手から餌を食べていました」
「そんなバカな!手を食いちぎられるぞ!」
シルル人の生物学者は青い顔で叫んだ。
「いえ。確かに見ました。博士にとても懐いています」
「信じられん…」
生物学者は呆然とし、他の面々はヒソヒソと話している。将軍は博士の提案を説明した。ティー・レックスを一箇所に留めておかねば、麻酔弾が打てない。そこでラプトルを使うというのだ。
「ラプトルはジュラ島への帰還を望んでいます。ティー・レックスも連れて帰ると。それを約束すれば、協力すると言っています」
王は眉を顰めた。
「言っている?竜が?」
「はい。我々の言葉を完全に理解しています」
◆
ローエンは寝不足の顔を川で洗っていた。昨夜は色々あり過ぎて眠れなかった。
3頭のラプトルは興奮が冷めると、ローエンに鼻先を擦り付けて甘えた。牛肉の残りをやると喜んで食べていた。今は仮囲いの中で大人しくしている。ディアが言うには3頭はアクア、ヴェルデ、ラピスの生まれ変わりだ。よく見れば色も姿も同じだし、彼の命令も聞く。非科学的だが信じるしかない。
「博士。閣下が朝食にお招きです」
小姓が呼びに来た。ついていくと、野外にテーブルと椅子が置かれて、豪華な朝食が用意されていた。
「おはようございます。閣下」
「ああ。座れ」
「ありがとうございます。令嬢はどうしました?」
ディアの姿が見えない。閣下はじろりとローエンを睨んだ。
「貴様が袖にしたから姉妹にべったりだ。ディアナの何が不満だ。何か問題でもあるのか」
「女生徒に手を出す方が問題ですよ…」
人を変態教師にしないでくれ。美味いコーヒーを飲みながら、昨夜の彼女を思い出す。短い髪に男物の服を着て、バージェス卿にナイフと憎しみを突きつけていた。不思議と、澄ました制服やドレス姿よりも美しいと思った。
「ふん。ディアナは島に帰りたがっているそうだが、自殺行為だ。止めろ」
後見人と言うより主人のように命じられる。ローエンはそれが不愉快だった。
「もちろん止めます。ですが、どうしてもと言うなら…」
「ディアナは竜ではない。人間だ。あれほど貴様に執着し、仇を恨んでいる。それこそ人間である証だ。無人島になど行かせるものか。ディアナと貴様の子供を公爵家の後継にする。15年、探し続けた娘だ。失うわけにはいかない」
「…」
力づくでも娘の想いを遂げさせるつもりだ。狂気に近い。豪華な食事も味がしなくなった。ローエンは無言で流し込み、席を立った。
◇
スーが残した牛は昨夜食べてしまったので、朝食は豚肉だ。姉妹は生肉を、ディアは煮込んだシチューを食べた。
『やっぱり牛が良いわ。ディア、パパに頼んでよ』
ラピス姉さんは公爵をパパと呼ぶ。間違ってはいないけど違和感がある。
「分かった。頼んでみる」
食べ終わった頃、ローエンが柵に入ってきた。巻き尺や聴診器、筆記用具を持っている。
「みんな。計測と健康診断をさせてくれ」
「キュイ(良いよ)」
「ありがとう。ディア、手伝ってくれるかい?」
「うん」
巻き尺の端を押さえて姉妹の全身を測る。ローエンは大まかな竜語しか分からないので、ディアが通訳をした。彼は虫歯や心音も調べ、最後に真剣な顔で尋ねた。
「訊いて良いかい?君たちが人間に従う条件とは、何だ?」
そんなの決まってる。ディアは答えた。
「性別と顔。殻から出て初めて見たのが、異性で気に入った顔なら好きになる」
姉妹も頷く。ローエンは目を見開いてペンを落としていた。
「じゃ…じゃあ、俺が女性研究者だったら…」
「アウト」
「好みの顔じゃなかったら?幼竜で出会ってたら?」
「ダメ。遅い」
彼は礼を言って柵を出て行った。心なしか肩が落ちていた。
◆
そんな単純な事だったのか。思いつきもしなかった。竜に尋ねるなんて普通は不可能だから。検証方法は後で考えよう。今はティー・レックスの捕獲が優先だ。
ローエンが基地に戻ると、伝書鳩が着いていた。公爵閣下は生け取り作戦の許可が下りたと言った。
「返還費用はトリアス家が出すと言うのが効いたな。やるぞ、クリティシャス」
日が落ちるのを待ち、作戦は始まった。バージェス卿は先に狙撃位置に移動している。ラプトル隊が樹海からティー・レックスを探し出し、そこへ追い込む予定だ。
「頼むよ。アクア、ヴェルデ、ラピス」
「ギュア!」
ローエンは3頭を樹海に送り出した。ふと気づくとディアがいない。
「え?!ディア?!」
姉妹と1人の影はあっという間に見えなくなった。時速40キロを超えているはずだ。彼はハッとした。
(インディアナなんだ。今は)
昨日から必要最低限の事しか喋っていない。父親と会うのも避け、ずっと姉妹と一緒だった。彼女は人間をやめてしまった。そう思うと、胸の奥がギュッと痛んだ。
ローエンも馬で狙撃位置に向かった。計画を成功させ、早くディアを何とかしなければならない。




