表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

11 ティー・レックス

            ◆



「出て来い!ヘボ教師!」


 休日の朝、ローエンのアパートの扉が破られた。悪鬼の形相で入ってくるのはトリアス公爵だ。見覚えのある護衛2人が後ろにいる。


「賃貸物件です。壊さないでください。何です?こんなに早く」


 抗議は無視され、二間しかない部屋を捜索された。公爵は粗末な椅子にどかりと座り、ローエンを睨んだ。


「ディアナが家を出た。貴様の所にいると思ったが」


「はっ?」


 公爵が1枚の便箋を見せた。綺麗な字で『お世話になりました』と書いてある。


「ゴミ箱に髪の毛が捨てられていた。下男から服を買ったらしい。恐らく男装して逃げている」


 あの美しい髪を切った?令嬢が自分で?信じられない。


「おいクリティシャス。ディアナはどこへ向かっている?何を考えていると思う?」


「…ジュラ島です。故郷に帰るつもりでしょう」


「何だと!」


 ディアの父親はテーブルを殴った。安い家具にひびが走る。護衛は外に出て行った。海までの街道を押さえるのだろう。もう遅い。彼女なら闇夜に紛れてどんな非常線も突破できる。狭い部屋に沈黙が落ちた。


「あのー。クリティシャス博士のご自宅はこちらでしょうか?」


 そこへ誰か来た。ローエンは外れた扉を横にどけて対応した。


「そうです。ちょっと立て込んでまして。何か?」


 軍服を着た男がいた。彼は奥に座っている公爵を見て一瞬たじろいだが、用件を言った。


「王命です。至急、登城してください」


「王命書を見せろ」


 公爵が割り込んできた。使者は1枚の紙をローエンに、ローエンは公爵にそれを渡す。大貴族はさっと目を通し、


「本物だ。1時間後に登城する。トリアス公爵が連れて行くと伝えろ」


 と、使者を追い返した。そしてローエンを拉致すると公爵家に連れて行った。なぜかサイズがぴったりの礼服と靴が用意されている。急いで着替えてまた馬車に乗り、王城に向かった。


「私だけ登城すればいいのでは?」


 公爵がまるで刑事のように離れないので、それとなく訊いた。


「書類が本物でも何があるか分からん。ディアナを捕まえられるのはお前しかいない。死なれては困るからな」


 見えない首輪の鎖を公爵が握っている。げんなりとしたローエンは、城の会議室に連れて行かれた。そこには王や将軍、大臣と外国の大使みたいな人々が彼を待っていた。とてつもなく嫌な予感がした。



            ◇



 ディアは季節労働者の少年に変装した。国境の検問所の長い行列に並んだが、何時間待っても前に進まない。引き返してきた旅人に尋ねると、声をひそめて教えてくれた。


「向こう側でとんでもなくデカい怪物が出たんだと。こっちに向かってるそうだ。もうすぐ軍が来るってよ」


 それまで開かないそうだ。諦めた人々は次々に列を離れた。ディアも迷ったが、行く宛もないので検問所の前に座り込んだ。大陸最大の動物はヒグマだ。そんなの怖くない。軍がすぐに駆逐するだろう。彼女は目を閉じて故郷を想った。


(早く海へ。早く)


 焦がれすぎたのか。懐かしい姉妹の匂いがしてきた。


「ぎゃーっ!化け物だっ!」


 叫び声に目を開けた。気のせいではない。姉妹が近くにいる。ディアは匂いを辿って走り出した。人の流れに逆らって進むと、懐かしい色が見えた。


「アクア!ヴェルデ!ラピス姉さん!」



             ◆



 ローエンは大きな円卓に座らされ、将軍から呼ばれた理由を説明された。隣の公爵は腕を組んで黙っている。


「つまり、シルル王国がジュラ島で捕えた竜を逃したと。それが制御不能になった。そういう認識でよろしいですね?」


 確認すると将軍は頷いた。


「そうだ。数は大型竜が1頭、中型竜が3頭。いずれも成体で、檻で飼育していたが三日前に逃げた」


「種類は分かりますか?」


 シルル王国大使が答える。


「ティー・レックスとラプトルです。反体制派が兵器として密かに手に入れました。調教できると信じていたようです」


 最も凶暴な2種を大陸に放つなんて。ローエンは頭を抱えた。追い詰めるまでに大量の犠牲者が出る。公爵が思い出したように言った。


「クリティシャス男爵を誘拐しようとした賊がいたな。それか」


「そうです。扱いかねて博士に躾けさせようと。…博士。お力を貸していただけませんか」


 大使は頭を深く下げた。四姉妹を除き、幼体からの調教すら出来なかった。ましてや成体など。ローエンは真実を告げた。


「残念ですが…野生の竜をコントロールする術はありません。彼らは大陸に悪魔を放ってしまった。我々はこの先何年も戦わなくてはならない。成体のティー・レックスの寿命はあと10年。ラプトルはもっと短いが、番だったら悪夢は終わりません」


 全員が厳しい顔になった。20年前のジュラ島発見時、同様の事件が数多く起きた。研究と称して山師が竜を持ち込んでは逃したのだ。竜の調教は出来ないという常識はその時に生まれたのに。若い世代は知らなかったか。


「では、その戦いの参謀となって我らを導いてくれ。博士以上に生きた竜を知る者はいない」


 国王陛下が言った。ローエンは不敬を承知で訊いた。


「恐れながら。それは王命でしょうか?」


「いや。頼みだ。それから、15年前の事件を詫びる。申し訳なかった」


 ガツンと、殴られたような衝撃だった。まさか陛下がそれを口にするとは思わなかった。将軍も頭を下げて謝罪した。


「王子を許可なく放飼場に連れて行き、事件をもみ消した人物がいた。当時の軍幹部だ。君への研究資金を打ち切り、学会からの放逐を指示したのも、我々は見て見ぬふりをした。申し訳ない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ