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【完結】眼鏡ギャルの近間さん 〜陰キャの俺がギャルと友達になれたのは、眼鏡女子が好きだったお陰です〜  作者: しょぼん(´・ω・`)
第九章:運命を変える夕立ち

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第六話:曇り顔

 あれからどれくらい経っただろう。

 稲光も雷鳴も、随分遠ざかったような気がする。

 ちょっとした音や光でも怖がっていた海笑瑠(みえる)さん。彼女が怯えないように注意しながら確認してたけど、もう少しすればきっと大丈夫かな。


 顔を横に向け、胸に収まっている海笑瑠みえるさんの表情は見えない。

 綺麗な金髪と掛けたヘッドホンが間近に見えているだけ。


 一時は暗雲しかなかった空も、少しだけ雲が途切れ、遥か遠くに夕焼け色の空が見えた。

 でも、この辺は相変わらず暗いし、雨がしとしと降る音がずっと続いている。

 周囲に人気はなく、合間に一、二台車が通り過ぎたくらい。

 っていうか、時間的にもう少し人が通りそうだったから、こんな状況を誰かに見られるのはって思ってたから、それにはほっとしてる。ほっとしてるけど……。


 気が抜けたってわけじゃない。

 だけど、雷が遠ざかって内心安堵したせいか。俺は改めてこの状況が、相当ヤバいって事に気づいた。


 い、いや。最初に腕にぎゅっと抱きつかれた時もヤバかったけど。

 今って完全に胸の柔らかさを身体で感じちゃってるし、ジャケット貸しちゃって腕が随分冷えてるんだけど、だからこそ海笑瑠みえるさんの服越しの温もりをより感じちゃってる。しかも髪の毛からも相変わらずいい香りがしてるし……。


 色々な背徳感が、俺の理性を混乱させる。だけど、それを必死になって堪えた。

 そうじゃなきゃ、彼女や彼女のお母さんに申し訳が立たないから。


 だ、だいたい、俺達はグラ友なだけ。本当はこういうのって恋人同士でもなきゃしちゃいけない事だろ?

 彼女も怖がって止むなくこうなってるけど、本当は嫌なんじゃないか?


 緊張と不安で、心音があがってるんじゃって錯覚する。

 一応ヘッドホンをしてるから大丈夫だと思うけど、こんな音まで聴かれてたらどうしよう……。


 自分でこの状況を作ったくせに、ここに来てこうやって緊張している事に、少し罪悪感と情けなさを覚え始めた頃。


「……久良くろう君。そろそろ、大丈夫そう?」


 ぽそっと、海笑瑠みえるさんの声が聞こえた。


「あ、えっと。雷は随分遠ざかって、遠くで音が聞こえてるくらいかな」

「そ、そっか……」


 ……ん?

 その短い一言に、ちょっと違和感を感じた。

 いや、多分勘違いだと思うんだけど、何となく残念そうな感じに聞こえちゃって。


「あ、あのさ。もう、大丈夫だと思う。多分……」

「え? あ、う、うん。わかった」


 回していた腕を離すと、少し俺から離れた海笑瑠(みえる)さんが俯いたままヘッドホンを取る。


  ゴロゴロ……


 最初に耳にしたよりもずっと遠い雷鳴。

 彼女はビクリとしたけど、それでもさっきほど怖がっている感じはなさそうだ。


「ふー……」


 大きく息を吐いた彼女が、こっちに顔を上げ──。

 海笑瑠みえるさんの顔を見た瞬間、俺の思考が一瞬止まる。

 目を閉じていた彼女が、意を決して目を開けると。


「……へ?」


 突然目を丸くし、あっけに取られた。

 多分、俺が見ている物と同じ物を見ているはずだから。

 ……彼女の眼鏡は、吐いた息のせいで一部が白く曇っていた。


「うっわっ! たたた、たんま! 久良くろう君、あっち向いて!」

「あ、う、うん!」


 突然の命令に俺は思わずくるっと海笑瑠みえるさんに背を向ける。

 多分あれ、俺に体を預けてたから、そのせいで吐いた息が眼鏡に当たってたんだな。これくらい肌寒くなると、案外起こったりするから。

 しかも、稲光を見ないよう目を閉じてたから、彼女もさっきまで気づいてなかったんだろう。


「ぜ、絶対振り返っちゃダメだかんね!」

「だ、大丈夫だよ」


 必死に釘を差した海笑瑠みえるさんは、きっと眼鏡を拭いてるはず。

 眼鏡を買いに行ったあの日も、眼鏡をしていない素顔を見せたくなさそうだったし、絶対振り向かないようにしなくっちゃ。


 さっきまでの事もあったし、こういった決意をしたからこそ、少し緊張しながら待っていると、海笑瑠みえるさんが背後で、ぽそっと呟いた。


「……もう。あたしってば、ダッサー」


 ……ん? もしかして、雷で怖がった話かな?


「別に、そんな事ないと思うけど」

「ううん。ダサダサだってー。あたしが汗掻いて蒸れちゃったから、眼鏡があんなになったわけだし……」


 蒸れる……って、ちょっと待った。考えてみたら、俺も少し汗ばんでる気がする。

 もしかして海笑瑠みえるさんの眼鏡が曇ったのって……。


「い、いや。それ、もしかしたら、俺のせいかも……」

「え?」

「だって、俺も緊張でちょっと、汗ばんでるし……」

「……久良くろう君も、やっぱ、緊張した?」


 背中から聞こえる、おずおずとした問いかけ。


「そ、それは……勿論……」


 き、緊張するに決まってるじゃないか。

 女子にああやって腕に絡まれたり、抱きしめたりなんて経験もないのに、相手は眼鏡ギャルの海笑瑠みえるさんなんだぞ!?

 普段だって可愛くて魅力的なのに……。


 内心ドギマギしながらたどたどしく答えた俺。だけど、海笑瑠みえるさんから言葉が続かない。未だ止まない雨の音が俺達二人を包む中、彼女は暫く沈黙していたんだけど。


「ね。久良くろう君」


ふっと、雨の音を遮って、妙に落ち着いた海笑瑠みえるさんの声がした。


「……何?」

「あの、さ。久良くろう君って……あたしの素顔、見てみたい?」

「……え?」


 突然の質問。その意味はわからないけど、俺は内心こう思っていた。

 好奇心っていうわけじゃないけど、見たくないかと言われたら、見たい気はしてる。だけど……。


「えっと……半々かな」

「半々?」

「うん。どんな風なんだろうって気になってる気持ちが半分。でも、見るのが怖い気持ちも半分あるから」

「怖いって、やっぱりあたしの初恋のことがあったから?」

「……まあ、それもあるかな」


 ぼんやりと雨の降る街並みに目をやったまま、俺は本音を語り始めた。


海笑瑠みえるさん、初恋で傷ついたのを知ってるからこそ、自分がもし素顔を見た時、同じように傷つけちゃうんじゃって気持ちはずっとあって。やっぱりそれは嫌だなって思ってる。でも……」


 ふぅっと、未だ曇っている空のように、俺は重いため息を漏らす。

 自分でも、そんな気持ちが重すぎるってわかってる。

 でも、話した。

 それは、はっきり自覚した不安だから。


「情けないけど、それで海笑瑠みえるさんを傷つけて、俺から離れちゃったら。そうなるのが怖いんだよね」

「それって、あたしが友達として距離を置くって事?」

「うん。お互い気まずくなって、距離を置くようになったりしたら、きっと俺はまた、学校でも独りっきりに戻る。そんなの慣れっこなはずなのに、今はちょっとそれが怖いんだ。海笑瑠みえるさんが誰かが側にいる楽しさを教えてくれたし、友達じゃなかったクラスメイトとも、ちょっとは話せるようになったから。……まあ結局、自分だけじゃ何もできてないからなんだけどさ」

「……そっか」


 ぽつりと漏れた彼女の一言。

 それは、切ないっていうより、少し嬉しそうに聞こえた。


「おっけー。振り返ってもいいよ」


 海笑瑠みえるさんの言葉を聞き、振り返る前に笑顔になろうと努力する。

 何となく、自分でも笑えてないってわかったし。だけどそんな顔してたら、彼女に心配かけちゃうもんな。


 一旦空を仰ぎ見た後、手をぎゅっと握り、俺は自然を装い振り返ったんだけど。その瞬間、俺はまた固まり、目を瞠った。


 だって、そこに立っていたのは──眼鏡を外した海笑瑠みえるさんだったから。

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