第二話:予想通りの誤解
「……はぁぁぁぁっ!?」
その一声は、男女問わず、クラス全体から響き渡った。
っていうか、あまりの声に廊下を歩いていた他のクラスの生徒も、うちの教室を見るほど。
「遠見! お前それほんとかよ!?」
「海笑瑠! あれだけ恋愛はまだまだーなんて言ってたのにー。もうっ! そういうのは早く言ってよー」
「まさか遠見から告ったのか!?」
「ぜーったい海笑瑠でしょ! 遠見君大人しそうだし」
千堂君すら押しのけられ、突然俺達はクラスメイトに囲まれ、さっきとはまったく別の質問攻めが始まったけど、これどうすればいいんだ!?
「あの、えっと、ちょ、ちょっとみんな。落ち着いて」
「ち、違うから! あたし達まだ付き合ったりしてないから!」
予想外に大きくなりすぎた反応に、俺と海笑瑠さんがタジタジになる。
っていうか、このまま勘違いされてたら、彼女に悪いだろって!
正直、これだけの人を前にこういう事をするのは気乗りしない。
だけど、一旦この状況をなんとかしないと話もできない。
だからこそ、俺はその場で立ち上がると。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は、今出せる最高の大声を必死に出した。
あまりの声に、瞬間騒ぎ立てていたみんなが一気に固まり、これだけ生徒がいるのに、しーんとした空気が出来上がる。
「ふー……」
それにほっとした俺は、少し深呼吸して息を整えると。
「あの。俺は本当に、海笑瑠さんと、付き合ってなんてないです」
少し息を切らしながら、真剣に真実を口にした。
「え? でも、今も遠見君も海笑瑠って言ったし、海笑瑠も久良君って──」
「あの。海笑瑠さんのお陰で、友達として仲良くはなってます。それで、親しくなったんだしって、下の名前で呼ぶようにしましたけど。それだけです」
美香さんが勘違いした理由は予想できた内容。
だからこそ、俺は落ち着いて、真剣な目を向け美香さんにそう伝えた。
「まったくー。美香ってば、話も聞かずにすぐ勘違いするー。そういうのは勘弁してよねー」
こっちの言葉に続いて、海笑瑠さんが肩を竦めて苦言を呈する。
「名前呼びしよって提案したのはあたし。それを、久良君がOKしてくれただけだかんね」
「ほんとに? ほんとーに、付き合ってないの?」
「あたしも久良君もそう言ってるじゃん」
「じゃ、じゃあ、まだ俺達にもチャンスがあるってこと、だよな?」
「雅っちー。そうやってがっつく人、あたし苦手なんですけどー」
「そ、そんなにがっついてないだろってー」
「ほー。こないだ姫っちに聞いたんだけどー。何かあの子をデート誘ったって聞いたけどさー」
「ぎくっ!」
雅っちって呼ばれた、少しチャライ感じの男子。確か、西條君だったっけ。
彼は海笑瑠さんに白い目を向けられ、思わずしまったと言わんばかりに固まってる。
「あたしってこんな感じだしー、みんなと一緒に遊んだり楽しんだりは勿論好きだよ? でもー、ギャルだって中身はピュアなんだよねー。だからー、最初から色目使われたりー、がっつかれる人とかはなし寄りのなし。そこは理解してよね」
ぐうの寝も出ない西條くんに、にこっと笑ってそう釘を差した海笑瑠さんは、そのまま眼鏡をキュッと上げ真面目な顔に戻ると、改めて千堂君と葛城君を見た。
「それから二人も。久良君は久良君なりに考えて、ちゃんと断ってるんだからさー。あたしの友達に無理強いするってなら、承知しないかんね」
「わ、わかったよ」
「あ、ああ」
保護者感すら感じる圧に、流石の二人も諦めたのか。どこか戸惑いながら渋々返事をする。
ほんと、海笑瑠さんがいなかったら、それこそ昔みたいに空気悪くして、また友達が離れていって一人になってたかもしれない。
ふとそう思った時、何となくそれを寂しく感じ、自分の胸がきゅっと苦しくなる。
……そっか。
海笑瑠さんといるようになってから、気づけば俺も周囲に他の生徒がいて、少しとはいえ輪に入れてる。だから寂しくなってるのか。
こう考えると、彼女に逢ってから俺も随分みんなと接することができるようになってるんだな……。
海笑瑠さんがこっちを見てにこっと笑うのに釣られ、俺も自然と笑う。
そして、まるでそれが合図だったかのように、全校集会十分前を知らせる鐘の音が校舎に響いた。
◆ ◇ ◆
毎週最初の朝にある全校集会。
体育館に集まった生徒達の前で、俺、海笑瑠さん、葛城君、真田さんの四人は壇上で校長先生から表彰とトロフィーをもらった。
球技大会の一年の部で、C組は男子の野球、女子のテニスで優勝。
その表彰を各種目のリーダーだった葛城君と真田さんが受け、それぞれの種目の学年MVPに選ばれた俺と海笑瑠さんも表彰されたんだ。
正直、小中学校の卒業式で証書を貰った時以来の出来事に、流石にガチガチだったけど。それでも何とか無難に賞状とトロフィーを受け取った。
壇上から降りたら、そこで新聞部の生徒に四人一緒の写真を撮られたんだけど。
「みんな、いくよー。ぴーっす!」
「ぴ、ぴーっす?」
海笑瑠さん、俺、真田さん、葛城君って並んでる中、海笑瑠さんは俺の肩に手をかけ、こっちを支えにするように元気なピースサインをしてきて、俺は釣られてピースサインを出してしまう。
俺達を見て驚いた顔をする真田さんと葛城君。
そんなどこか滑稽な受賞者の写真が載った校内新聞が廊下の掲示板に貼られた結果、朝の事もあった俺と海笑瑠さんの関係に対する疑いは、当面消えることもなく。
暫くの間、全然知らない生徒にまで声を掛けられるようになって、流石にちょっと面倒で疲れる日々が続くことになった。




