表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/112

第五話:話しやすさ

 俺が選んだのは、駅前にあるファミリーレストラン『ジョナスサン』。

 学生が通うにはちょっとお高いメニューも多いけど、それだけに学生も少なめで落ち着けるんだって、以前両親が話していたのが決め手だ。


 時間的に混み始める頃だったけど、運良く空いていた四人席に案内された俺達は、ドリンクバーとポテトフライを注文した後、互いにドリンクバーから飲み物を注いで戻ってきた。


「ぷっはー! 生き返るー!」


 ソファーでぐびぐびっとレモンソーダを口にした近間さんが、凄く幸せそうな笑みでそんな感想を口にしたけど。まるで父さんがビールを飲んだ直後のような態度に、思わず笑いそうになるのを必死に堪える。


「でも。ほんとごめんねー。美香が明日彼氏と初デートらしくってさー。帰りがけに急に『海笑瑠(みえる)のセンスで、葛城君の心を鷲掴みにする服を選んで欲しいの! お願い!』って頼んで来たんだよねー」


 物真似も交えて軽快に話す近間さん。

 ちなみに今の美香って子は、同じクラスの女子なんだけど、今のは案外似てたと思う。


「ただの買い物だったら断ったんだけど、初デートの勝負服って聞いたら、断るに断れなくってさー」

「いいよ。きっとそんな理由かなって思ってたし」

「ありがと。やっぱ遠見君優しいよねー」

「え? やっぱりって、俺何かしたっけ?」

「うん。だってー、消しゴム勝手に借りてっても、全然怒らないしー」

「あー。それは近間さんが有無も言わさず持ってっちゃうから、言いそびれてるだけ」

「え? そうだったの!? だったら言ってくれたらいいじゃーん!」


 俺の冗談を間に受けた彼女が、えーって驚いた顔をする。

 まあ、流石に本音っぽく聞こえちゃう言い方しちゃったかな。


「嘘嘘。別に気にしてないから。困ったら好きに借りていっていいよ」

「ほんと?」

「うん」

「良かったー。隣の席なのに、いきなり嫌われてたらどうしようかと思った」


 冗談混じりにそう話すと、ほっとした顔をする近間さん。

 っていうか、そんな心配するならもう少し考えて行動すればいいのに、なんて思うものの。こういう気さくな所もまた、彼女らしさって事なんだろう。


 でも、さっきまではどう話せばいいかって、すごく不安だったんだけど。

 何だろう。彼女の勢いっていうか、自然な感じに釣られて、今日は案外上手く喋れてるな。

 もしかするとこの話しやすさが、みんなの人気を集める秘訣なのかもしれない。


 ただ……。

 ころころと表情を変えながら普段通りに話しかけてくる彼女に、内心ほっとしてはいるものの……多分、本題は昨日の事だよな?


 全然その話をしてこないけど、話しにくいんだろうか?

 まあ、こっちは別に触れないならそれで良いし、慌てなくってもいいけど……。


 いつか来るかもしれない本題に対する心構えをしながら、俺は近間さんがそれを切り出してくるのを待つ事にしたんだけど……。


「でも、美香も葛城君も凄いよねー」


 彼女はそのまま自然に、美香って子について話し始めた。


「え? 何が凄いの?」

「だってさー。葛城君と美香って中学別だったんだよ? それが出逢って一ヶ月もしないで恋人になっちゃうんだもん。ぶっちゃけさー。ちょっと付き合うまで早過ぎだと思わない?」

「うーん。きっと、互いに惹かれる何かがあったんじゃないかな」

「そうかなー? にしたって早過ぎだと思うけど。友達ってなら良いけどさー。大して相手を知らずに付き合い出すって、なんかすぐ別れちゃいそうなイメージしかないんだけどなー」


 眼鏡を指で直しながら、近間さんは両手を後ろに回し納得いかない顔をする。

 っていうか、勝手にギャルって気軽に彼氏を作る、みたいな固定観念を持ってたのもあるんだけど。

 予想外にちゃんと考えてる彼女の言葉に、妙に感心してしまう。


「確かに、相手をちゃんと知らずに付き合うと、ギャップで不満が出たりしやすそうだよね」

「でしょー?」

「でも、逆に予想以上に良い人だったとか。より好きになれる一面を知れたりするかもしれないし。それはそれで新鮮でいいんじゃないかな?」

「でもそういうのって、友達の段階で見極めておいた方がいいと思うんだけどなー」


 正直、近間さんの意見も最もだし、俺も彼女の意見には納得できる。

 でも。美香さんって人のような恋も、何となく理解はできるんだよな。


「きっと、好きって気持ちが昂ると、勢いで行動しちゃうって事もあると思うんだ。近間さんもない? 目についた小物が可愛い過ぎて、衝動買いするって事」

「あー、あるある! こないだも『でかかわ』の超可愛いノート見つけてアガっちゃってさー。これっしょ! って思わず衝動買いしちゃったんだよねー」


 わかるわかると言わんばかりに、納得した顔で頷く近間さん。

 その大袈裟なリアクションに、俺は自然と笑頬が緩む。


「きっと美香さん達の恋も、それと一緒なんだと思うよ。恋は盲目、なんてよく言われるくらいだし。勿論、近間さんみたいな恋の向き合い方も、間違ってるわけじゃないけどね。まあ、結局恋愛も人それぞれだし、正解なんてないんじゃないかな?」


 俺の言葉を聞き、近間さんは「ふーん……」って言いながら、眼鏡の下の瞳をこっちに向けてくる。

 急に真顔になった彼女にちょっと戸惑ったけど……一体どうしたんだろう?

 ……あ。もしかして俺、調子に乗って喋り過ぎてる!?


「ご、ごめん。何か、生意気な事言ったよね」


 思わず身体を小さくし目を伏せたんだけど。


「あ、全然! むしろ凄いなーって、感心してただけ」


 彼女の言葉に顔を上げると、近間さんは何時ものような眩しい笑顔を向けてきた。

 その可愛らしさに思わずドキッとしちゃって、俺は自然と視線を逸らす。


「そ、そうかな? 大した話はしてないと思うけど」

「ううん。ほんと凄いってー。あたしの意見も美香の行動も、どっちもあっさり受け入れちゃうんだもん。そういう柔軟さがあるって、超凄いじゃん」

「そ、そっか……」


 な、何か気恥ずかしいな……。

 正直、同級生なんかに褒められた記憶はほとんどなくって、俺は火照る顔をごまかすように頬を掻く。


「お待たせしました。ポテトフライにございます」


 と。そこにタイミングよく、店員さんが頼んだ料理を持ってきた。


「あ、真ん中に置いてくださーい」

「はい。……ではごゆっくりお過ごしください」

「ありがとうございましたー!」


 俺達に頭を下げた店員さんが去っていくと、元気よくお礼を言った近間さんが、さっそく口にポテトフライを放り込み、満足そうな顔をする。


「遠見君も食べたら?」

「あ、うん」


 彼女に勧められ、俺もケチャップを付け一口頬張る。

 できたての温かさを感じるポテトフライの味を堪能しながら、改めて近間さんを見た。


 しかし……俺が女子と二人でファミレスか。

 しかも、眼鏡をした可愛いギャルって……。


 その現状を再確認する内に、俺はまた少し緊張しだす。

 と、とりあえず話題を変えた方がいいな。えっと……えっと……あ。


「そ、そういえば。今日俺を誘った理由って、今の話?」


 話に夢中で俺もすっかり忘れてた。

 思わず自分からその話題に触れると、「あっ」って驚いた近間さんが口に手を当てる。

 ……この反応、普通に忘れてたのか。


「ごっめーん! 遠見君が話しやすいもんだから、ついつい普通に話しちゃってたよー」

「え? 話しやすい?」

「うん。すっごく。ちゃんと話を聞いて、意見もくれるしねー」

「そ、そっか」


 話しやすい、か。

 友達もいないから、妹以外にそんな事を言われたことなんてなかったな。

 とはいえ、ちゃんと話をしたのだってついさっき。今の言葉は社交辞令って思っておいた方が無難だろうけど。


 そんな事を考えていると、普段見せない真剣な顔つきをした近間さんが、


「あのね。ここからめっちゃ真面目な話をするから。悪いんだけど、聞いてもらっていい?」


 そんなギャルらしからぬしっかりとした口調で、俺に問いかけてきたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ