幕間:気づいた本音と拭えぬ不安
例の計画の翌日。
放課後、あたしは美香と二人、青藍南駅前のモーズバーガーにいた。
美香が昨日のお礼にハンバーガーご馳走してくれるって言ってさー。ここってデザートもイケるから好きなんだよねー。
「でもほんと、海笑瑠と友達になれて良かったー」
「そう言われるのは嬉しいけどさー。美香はあたしに頼り過ぎだってー。前にも言ったけど、あたしは彼氏なんていた事ないんだよ?」
「でもでも、海笑瑠ってファッションセンス良いし、男友達も多いから色々わかってるじゃない」
「そりゃ、ギャルとしてはそういうの手を抜けないじゃん。でも、美香ってどっちかって言ったら清楚系だしさー。こっちと色々違うっしょ」
そう言いながら、ストローに口を付けジュースを軽く飲み込んだ。
ほんそれだよ。
化粧だって服装だって、あたしと違うしさー。友達だから調べながら協力もしてるけど、結構大変なんだよねー。
「まあまあ。それでも十分センスあるし頼りになるもん。でも、次は海笑瑠の番だよね」
あたしを宥めるつもりのない言葉に、自然と漏れるため息。
美香も結局、敦美先輩と同じ事ばっかし言うもんなー。
「だーかーらー。あたしと遠見君は友達なの」
「それ、絶対嘘でしょー。昨日の電車でも超お似合いだったよ?」
「なしなし。だいたい遠見君だって、ギャルなあたしなんて興味ないってー。清楚系好きみたいだし」
うん。それは間違いない……はず、なんだけど……。
──「こっちはどう?」
──「うん。近間さんらしくって可愛いと思う」
……遠見君、微笑みながらさらっとあんな事言うんだもん。
あんな顔でそう口にされたら、あたしだってドキッとするに決まってるじゃん。
もしかして、眼鏡ギャルの魅力に気づいてくれた? なんて、後から考えもしたけど。あの時はそんなレベルじゃなくドキドキしちゃってマジでやばかった。色々勘違いしそうなくらい。
「……はー」
こんなに遠見君を意識しちゃってるの、きっと昨日の敦美先輩のせいだ。
昨日の通話でのやり取り、本気で酷かったもんなー。
──昨日の夜。
敦美先輩からMINEが来て、通話したいっていうから話をしたんだけどさー。
放課後に遠見君にバッタリ会って、色々話したんだって。
先輩と遠見君が二人っきりってのに少しモヤっとしたけど、あたしがうまく触れられなかったスティファイの件を先輩が色々聞いてくれて、あたしの咄嗟の嘘がそこまで的外れじゃないって知れたのにはほっとした。
いや、したけどさー。
──「この間、海笑瑠が遠見君の画像をスマホの壁紙にしてたって話したら、満更でもなかったみたいだし」
とか、
──「恋人ってのは否定してたけど、ちゃんと大事にするって言ってたわよ」
なんて、なんか勝手にあたしの事、色々話したみたいだしさー。
壁紙は……その、学校行く時とかは周囲に茶化されちゃうから違うのにしてるけど、確かに家じゃそうしてた。
いやだって、やっぱ遠見君はどストライクだし、目の保養にも最高だしさー。
そのままにしたままみんなで食事ってなったからすっかり忘れてたけど、先輩に見られてたの全然気づいてなかったなぁ。マジ失敗したっしょ……。
でも、まさか遠見君と先輩が二人で逢ってるなんてさー。
遅かれ早かれ、遠見君も先輩と交流を持つだろうなーとは思ってたけど、こんなに早いとか聞いてないっしょ。
同じ趣味もあるし、先輩が認めるくらい強かったら、この先一緒に練習したりするかもしれないよねー。
そうなったら、やっぱ遠見君、先輩のこと意識しちゃうのかなー。
先輩も美香と一緒で、あたしと遠見君をくっつけたがってるけど、異性の好みなんてそう変えられない。
遠見君も、前に先輩のことありって言ってたしー。きっと敦美先輩も遠見君といたら、優しい所とかに惹かれたりするに決まってるじゃん……。
「……どうしたの? 海笑瑠」
「……ん? なんでもなーい」
大きく伸びをして、鬱々とした気持ちを吹っ切ろうとしたんだけど。
「やっぱり、遠見君と付き合いたい?」
なんて言いながら、空気も読まず、美香が真剣な顔でこっちを見てきた。
「だーかーらー。違うって言ってるじゃんさー」
「嘘はよそう? さっき『ギャルのあたしなんて興味ない』って言ってじゃない。その時、ちょっと寂しそうな顔してたし」
……もう。
あたし、表情も隠せてないとか。
ほんと、酷いったらありゃしない。
「……そんな事ないってー。だいたいあたし、今日だって遠見君と一緒に登校してるんだよ? 友達として普通に逢ってるし、なーんも問題ないっしょ」
「じゃあ何で、さっきため息を吐いたの?」
じーっと、真剣にあたしを見つめてくる美香。
……美香ってほんと、こういう時友達に優しいんだよねー。
仲良くなってすぐ、みんなにそういう気遣いとか見せてたし。
……昨日の美香とかの煽りだってあったし、敦美先輩に色々からかわれたのもあると思う。
そのせいで、多分遠見君の事を変に意識させられてる。だからおかしいんだって思ってる。
でも……。
「……あたし、ちょっとわかんなくってさー」
彼女の優しさに、あたしの本音がぽろっと溢れた。
「何が?」
「うーん……何ていうんだろ? あたしの気持ちが、かな?」
「遠見君の事を好きなのかもって、思ってる?」
「わかんない。でも、あたしにとって遠見君って、本気で理想の眼鏡男子なわけ」
「あー。海笑瑠はずっと、眼鏡男子好きだーって言ってたもんね」
「まあね。でも、あたしの眼鏡男子好きって、言っちゃえば、アイドルを見るみたいな憧れに近いんだよね」
「つまり、遠見君は違うの?」
「まあ、違うかな。色々話せるし、話しやすいしさー」
「普段っから昨日みたいな感じなの?」
「そ。すっごい気遣ってくれるし、優しいし。だから、今までの眼鏡男子と違うっていうか」
そうなんだよねー。
遠見君って、最初っからここまでずっと変わらない。
まあ、だから一緒にいたいって思うんだけどさー。
最近も、学校でしか大して話せないし、それだって時間も全然限られてて。
それじゃなんか嫌で、少しでも一緒の時間作れないかなーって思って、登校時間合わせようって思ったくらいだし。
結局あの時も、遠見君の厚意に甘えちゃったんだよね。あたしがわがまま言っただけなのに……。
……最近、薄々自分の気持ちに気づいてる。
美香に早過ぎるなんて言った癖に、あたしは今、少しでも遠見君に逢いたいって思っちゃってるし。
先輩に気遣う遠見君が、先輩と仲良くなっちゃったらって考えたら、胸が苦しくなるし。
それって昔、あいつに恋した時とまんま同じじゃん……。
「好みのタイプに優しくされるとか、ドラマだったら即恋に落ちちゃう展開だよね」
「あー。かもねー」
「だったら海笑瑠も恋しちゃえばいいじゃん。まずは付き合ってみるとかさ」
遠見君と付き合う……。
その言葉に、胸がチクリと痛む。
「うーん……やっぱ無理」
「えー! どうして!?」
「遠見君に迷惑になるしー、あたしにも色々不安もあるしさー」
「別に遠見君なら大丈夫だと思うけどなー。不安になんてならなくっても」
「美香はそこまで遠見君知らないでしょ? それに、遠見君がその気じゃなかったらただの迷惑だし、友達続けるのも気まずいじゃん」
……なんて言葉でごまかしたけど。
本音にあるのは別の不安。
きっと、眼鏡女子好きな遠見君なら大丈夫。
そう思ってはいるんだけど……。
自分の気持ちに気づいちゃったからからこそ、もしもの事を考えると、やっぱ怖いんだよね……。
……ダメダメ。
何かこんな話ばっかりしてたら、あたしのテンションサゲサゲっしょ。
「とりあえず、この話はここまでにしよ」
「えー!? 私はめちゃめちゃ聞きたいのに」
「あたしが乗り気じゃないの。もしもの時は美香に相談するからさー」
「ほんと?」
「うん」
「絶対だよ? その時は私が海笑瑠と遠見君くっつけて、私達とダブルデートするんだからね」
「ちょっとー。美香は気が早すぎだってー」
真剣な顔でそんな事を言う美香を見て、思わず苦笑しちゃったけど。
そんな日なんて来るのかなーって考えた時、何となくそんな未来はないんじゃないかって、あたしは勝手に落ち込んじゃってたんだ。




