第四話:反応の良さ
「ふえー。やっと勝ち越したー」
あれから更に一時間強。
気づけば昼になろうという頃。勝者とは思えないげんなりとした顔を見せた近間さんは、コントローラーを足の上に置くと、背もたれに身を委ね大きく伸びをし天井を見上げた。
結局あの後も俺が勝ちを先行させ続けたんだけど、ここにきて連敗が嵩み、今のレースで負けて彼女についに勝ち越された。
結局レース数も二十を超え、俺の十一勝十二敗。
スティファイなら延々数時間やり続けられるんだけど、マルカーはここまで長丁場でやってきてないもんだから、疲弊感で集中力が少し切れちゃってたんだよね。
ただ……。
ちらりと横を見た近間さんの無防備さに、俺は目のやり場に困り、ごまかすようにまたテレビに目を向けた。
今日の彼女は細い足のシルエットに合ったデニム生地の長いジーンズ。
近間さんってこういうのが良く似合うよな、という話は置いといて。問題は上だ。
ややダボっとした大きめのTシャツ。
その裾の右側を縛ってるんだけど、そのせいでおへそ周りが見えちゃってるし。
伸びた姿勢のせいで、シャツの下の大きめの胸がより強調されてるし。
襟元も結構開いているから、やっぱり胸の谷間がちらっと見えてるし……。
……俺からしたら相当無防備なんだけど、近間さんってやっぱり、俺をあまり異性として意識してないんだろうか?
それとも弟さんとも普段からこんな感じで過ごしてるから、ある意味自然体だったりする?
昨日、一応釘を刺したつもりなんだけど……もしかするとギャルってやっぱりこういう感じなのかもだし、グラ友って信頼感があるのかもしれないのかな。
とりあえずは、これが近間さんって割り切っとくしかないか。
まあ、こっちは妙に色々気にしちゃってちょっと顔が熱くなってきてるけど。
一旦大きく深呼吸して、心を落ち着けてっと……。
「しっかしさー。遠見君マルカー上手すぎだってー」
俺が必死に冷静さを保とうとしていると、近間さんが感心とも呆れともとれる声を上げた。
「あたしのフリスビー投げるタイミングで、ドンピシャでドリフトかけて避けるなんて思わなかったっしょ」
「あー。あれは何となく定石的に、この辺で来るかなって思って」
「にしてもだってー。大体遠見君バックミラーちらっちらって一瞬しか出さないじゃん。あんなんで後ろのあたしの動き見えてるの?」
「まあ、一応。カートの向きとアイテムから、投げた時の軌道くらいは読めるし」
「うっそっ!? そんな事できちゃうの!?」
俺がさらっと答えたせいか。
びっくりした近間さんが勢いよく上半身を起こす。
まあ、できるかできないかって言ったら……。
「一応」
「でもほんと見てるの一瞬じゃん? どうやってるわけ!?」
愕然とする彼女言いたい事もわからなくはない。
このゲーム、走りを邪魔するアイテムを投げられる関係上、前にいる側は投げたアイテムをブロックできるアイテムを持ってない場合、それを避けるのを強く意識しなきゃいけない。
その為、カメラを切り替えたまに後続のカートをチェックしながら走るわけだけど。
確かに俺は、バックミラーを見る時、ほぼ一瞬だけしか見ていないんだ。
二人プレイだと画面分割になるから彼女もそんな俺の行動が目に入っている。だからこそ驚いてるんだろう。
まあでも、確かにそういう意味じゃ自分は少し特殊かもしれない。
「コツっていうのはあまり。まあ、元々反射神経と動体視力には変に自信あって」
「反射神経はわかるけど、動体視力って確か……プロスポーツの選手なんかが一瞬見える数字が何桁見えた? とかやってるあれ?」
「そうそう。だからパッと見た瞬間のカートの角度と持ってるアイテムがわかれば、そこでアイテム投げたいのか、コーナー曲がろうとしてるのかとかはだいたい分かるんだ。勿論アイテムの軌道も覚えてるから、こうしとけば避けやすいとか、ここは避けなくってもいいとかの判断もできるし」
これが一般的かはわからないんだけど、俺は何気にこれを普通にこなしてた。
それ故に勝手に当たり前って気持ちでいたんだけど。近間さんの反応からするとレアって事なんだろうな。
まあ、比較できる友達もいなかったし、こうやって並んで遊ぶ相手もいなかったしな……。
「遠見君のそれってもうレベチじゃん。なんでレートまだ一万なわけ!?」
「あー。マルカーって結構気を張るから、集中力が続かなくって」
横目に見える、目を丸くする近間さんの反応。
正直彼女もめちゃめちゃ走るの上手かったわけで、そんな彼女がここまで驚くって事は、やっぱりそういう事できるのはレアなのか。
「ってことはもしかして、昨日反応できたのも、それが理由だったりする?」
と。何かに気づいた近間さんが、ぽんっと手を叩くと俺にそんな問いを投げかけてくる。
「えっと、昨日って?」
「ほら。あたしの帽子キャッチした時。結構勢いよく飛ばされたのに、遠見君めっちゃ反応早かったじゃん」
あー。
言われてみれば確かに。
「あれは確かにそうかも。飛ばされそうになった瞬間に、思わず動いてたから」
「ヤバッ!? って感じ?」
「かな? でも、何かそう考えた時にはもう飛んでた気がする」
正直あれは完全に直感っていうか、反射で動けただけだったし。
とはいえ、改めて考えると、ほんと考えなしだったよな……。
昨日迷惑をかけたことを改めて思い出し、ちょっと申し訳ない気持ちになっていると。
「遠見くーん。そんな顔しないの。あの話は昨日散々反省してくれたじゃん。思い出させちゃって悪かったけどさー。今は気にしなくっていいからさ。ね?」
ぽんぽんっと優しく肩を叩いた近間さんが、いつもの笑顔を向けてくれる。
……ほんと、近間さんって優しいよな。
「そうだね。ありがとう」
「いいのいいのー。やっぱ笑ってる遠見君のほうが、眼鏡男子としてイケてるしさー」
にししっと笑う彼女の言葉は、やっぱりグラ友だなって思わせてくれる。
まあ、俺がイケてるかは甚だ疑問。だけど、俺が笑えば喜んでくれるんだし、友達に笑顔でいてもらえるならそれでもいいかな。
そんな事を考えながら、俺も彼女に微笑み返したんだ。




