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【完結】眼鏡ギャルの近間さん 〜陰キャの俺がギャルと友達になれたのは、眼鏡女子が好きだったお陰です〜  作者: しょぼん(´・ω・`)
第四章:波乱の夜

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第一話:悪化

「ふぅ……ご馳走様」


 リゾットを食べきったからか。身体が随分と温かくなったな。


 からかわれすぎて不貞腐れはしたけど、こうやって美味しいお昼ご飯を作ってくれたのは確かだし、ありがたい話。

 だからこそ、俺は食べ終えた後、しっかりと頭を下げた。


「お粗末様ー。また食べたくなったら言っていいよー。作りに来てあげるから」


 なんて言いながら、悪戯っぽく笑う近間さん。

 また俺をからかおうとしてるんだなってわかってたけど、そこは何とか自然な笑みを返してごまかした。顔は多分真っ赤だけど。


 手元のお茶をごくりと一口。

 ……って、ああ。これ、最後の一口だったのか。


「あれ? どうしたの?」

「うん。ちょっとお茶を取って来るね」


 立ち上がった俺に首を傾げた近間さんにそう答えると、そのままテーブルの脇を抜けてキッチンに向かおうとしたんだけど……あれ?

 ふわっとした感覚と共に、俺はそのまま前のめりに倒れそうになる。


「遠見君!?」


 悲鳴のような声にはっとした瞬間、迫る床に慌てて両手を突き、何とか倒れるのは防げた。けど、何か妙に息が荒くなってきてる。


「大丈夫!? ちょっとごめんね!」


 慌てて俺の前に来た彼女が、必死な形相で俺の顔をぐいっと正面に向かせると、ピタッと額をこっちの額に重ねてきた。


 ……互いの眼鏡がぶつかりそうなくらい、近い距離に見える近間さんの顔。

 思わずドキっとして目を丸くしたけど、恥ずかしさを覚えるより前に、彼女の声が届く。


「やばっ! 熱上がってるじゃん! 急いで寝室に行こっ!」

「え? あ……だけど、片付け──」

「そんなの遠見君は気にしないの! 立てる?」


 脇に回り込んだ彼女が、俺に肩を貸してくる。

 近間さんに支えられながら何とか立ち上がった俺は、彼女に連れられ、ゆっくり歩を進めながら寝室へと向かった。


 まだ昼だから明るい部屋。

 寝て起きた状態の無造作な布団とか、あまり見られたくない物も多い。

 とはいえ、風邪って気づいたせいか。少し息苦しいせいで、そんなのもうどうでもよくなり始めていた。


「遠見君。横になれる?」

「う、うん」


 ベッド脇に座らせてもらい、彼女が離れたのを確認した後、ベッドに身体を横たえてごろりとベッドの上に転がると、もぞもぞと動きながら、仰向けに寝る姿勢になった。


「薬ってどこかにある?」

「あ、えっと、居間の戸棚に」

「おっけー! すぐ戻るから、遠見君はちゃんと布団被って温かくしてるんだよ?」

「わ、わかった」


 俺の返事に真剣に頷いた彼女は、そのまますたすたと寝室から出て行く。

 布団もまだ冷たいし、部屋の空気もやや寒い。とりあえず、エアコンくらい付けたよう……。


 ベッドボードに置いていたリモコンを手にし、ピッと暖房を入れる。

 あとは、部屋が温かくなるのを……ぶるるっ。

 思わず寒気に身を震わせた俺は、布団の中で両腕で身体を抱きしめ、身体を横に丸め縮こまる。


 そ、そんなに悪化してたのか……。

 身体も温まってたから、全然わからなかったな……。


 でも、この後どうしよう……。

 少しぼんやりしてきた頭で考えるのは、近間さんの事。

 何となくここまで色々世話を焼いてもらったけど、もう一緒に遊ぶどころじゃないし、今日は帰ってもらった方がいいか。

 それこそ、風邪をうつしちゃったら悪いもんな……。


 そんな事を考えていると、寝室のドアが開き、近間さんが戻ってきた。


「お待たせ。ちょっと起きれる?」

「うん」


 言われるがまま、切れのない動きで上半身を起こす。

 っていうか、かなり身体にだる気がやばいな。


「じゃ、まずこれ。さっきご飯食べたばっかりだし、すぐ飲んでも大丈夫っしょ」


 手渡されたのは、錠剤を三つ。それを口に入れると、すっと近間さんが冷蔵庫にあったスポーツドリンクのペットボトルの蓋を取り、を手渡してくれた。

 ぐびぐびっとそれで薬を飲み干す。冷たい感触が少し身体の火照りを抑えてくれる気がして、ちょっと心地よい。


「ありがとう」

「おけおけ。じゃ、次は冷えピッタン貼ろっか。額出してくれる?」


 口を離したペットボトルを返すと、少しだけにこっと笑った彼女は、テキパキと次の指示を出してくる。


 えっと、こんな感じでいいかな?

 両手で髪の毛を上げ額を出すと、冷えピッタンの粘着面のシートを剥がした近間さんが、俺の方をじっと見つめてくる。

 けど、動かない……って、あれ?


「えっと、あの、どうかした?」


 おずおずと声を掛けてみると、はっとした彼女が首をぶんぶんっと振り、


「な、何でもない! じゃ、貼っちゃうね!」


 そう言うや否や、心の準備をする暇もなく、いきなりビタッと冷えピッタンを当てられ──って!?


「冷たっ!」


 一気に襲った強烈な冷感に、俺が思いっきり顔をしかめると、思わず口に手を当てた近間さんが目を丸くする。


「ご、ごめん!  大丈夫!?」

「あ、うん。大丈夫。ちょっと、心構えができてなくって」

「だ、だよねー。と、とりあえずベッドに横になろ?」

「う、うん」


 促されるままベッドに横になった俺に、近間さんがゆっくり布団を掛けてくれる。

 ちょっとドタバタしたのはあったけど、既に表情は申し訳なさしかない。


「近間さん」

「何? 辛い?」

「ううん。あの、さ。そんな顔、しなくていいよ」

「え?」

「近間さんは、笑ってる方が、いいし」

「……遠見くーん。あたしに無神経になれって言いたいのー?」

「ううん。俺が、そっちを見たいだけ」


 俺なりに冗談を言ったつもりなんだけど、彼女はそれを聞くと、少し唖然とした後、「まったく……」なんて言いつつ、肩を竦め笑ってくれる。


 ……うん。やっぱりそうじゃなきゃ。

 冷えピッタンのおかげで頭が少しすっきりしてるけど、やっぱり少し息苦しいな。

 早めに言うこと言っておかないと。


「あの、今日はこれで、本当にお開きにしよう」

「え? 何で? 看病できる人いないっしょ?」

「でも、近間さんに、風邪、うつしたくない」


 不安を隠そうとしない彼女に、俺はそんな言葉で釘を刺す。


「近間さんが風邪、引いたらさ。それこそ、家族にまで風邪をうつしちゃうかも、しれないし。ここまで、お膳立てしてもらったら、大丈夫。あまりに酷くなったら、救急車、呼ぶからさ」


 少し呼吸が荒くって、喋り方がぎこちない。

 けど、俺はなんとかそう言葉にした。


「……本当に?」

「うん」

「夜のご飯とかは?」

「適当に、頼むから」

「薬とか飲みに行ける?」

「大丈夫」


 後ろ髪を引かれる思いなのかな。

 まるでお母さんみたいに色々聞いてくる近間さんに、自然と顔が綻ぶ。


「今日は、ごめん。それと、ありがとう」


 俺がそう言うと、少しの間じっとこっちを見ていた彼女が、ふぅっとため息をくと「わかった」って言って立ち上がり、床に置いていたスポーツドリンクをベッドボードに乗せた。


「いい? まずはちゃんと寝る事。汗掻いたらそれ飲んでね。タオルはこの後持ってきておくから、身体拭いたり着替えするのも忘れない事。あと、本気で困ったら絶対MINEしてよね」

「うん」

「それじゃ、ちゃんと寝てるんだよ?」

「うん。ありがと」

「んじゃ、またね」


 俺の酷い笑顔に近間さんも笑い返すと、そのまま背を向け、再び寝室を出て行った。


 ……これで、いいよな。

 俺は眼鏡を外してベッドボードに置くと、熱い息をふうっと吐き出す。

 ほんと、考えなしの行動で、悪い事しちゃったな……。


 俺を心配し笑わない近間さんを思い返し、少し胸が痛む。

 でも、今はどうしようもない。どこかでまた埋め合わせしないと。


 そんな事を考えていると、またぼんやりとしてきて。気づいたら俺はそのまま眠りに落ちていったんだ。

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