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【完結】眼鏡ギャルの近間さん 〜陰キャの俺がギャルと友達になれたのは、眼鏡女子が好きだったお陰です〜  作者: しょぼん(´・ω・`)
第十一章:やっぱり類友

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第九話:サプライズ

 もうすぐ夜も十一時。

 俺は昼間と同じ姿のまま、自分のベッドに腰を下ろし、無言でその時を待った。


 今はこの部屋に一人だけ。

 海笑瑠みえるさんはシャワーを浴びてから、ラバトリーでそのまま深夜に備えて着替えるって言って、まだこの部屋には戻ってきていない。


 既にワンダーランドは閉園して、一般入場客は既に退園している。

 ただ、宿泊客限定の深夜のワンダーランドの公開は二十三時から。俺達を含めたホテル客は、それまで各部屋で待機する事になっているんだ。


 テレビも付けず、スマホを見ることもせず。

 俺は膝の上で組んだ手をじっと見つめている。


 ……正直、緊張してた。

 だって、俺はこの時間に勝負をかけてたから。


 ……俺は、今日告白しようって心に決めてきた。

 だけど、今でもどう切り出して、何を伝えればいいのかがさっぱりわからなくって、一人になってから、ずっと緊張しっぱなし。

 実際手汗も凄くて、さっきから何度かハンカチで拭いてるくらいだ。


 どこで告白をするか。場所はさっきまで歩き回ってる中で何となく決めている。

 まずは、そこに連れて行って……って、海笑瑠みえるさんも夜のワンダーランドを観たいはずだよな? って事は、最初から誘ったら悪いかな。

 でも、じゃあどのタイミングで一緒に行ってもらえばいいんだろう?


「はぁ……」


 まったく。

 俺ってやっぱりダメだ。こういう経験がないのもあるけど、全然プランすら練られてないじゃないか。

 思わず眉間を押さえた後、そのせいでズレた眼鏡を直すと、ベッドから立ち上がり、窓の脇に立って外を見た。


 お客さんが誰もいない、少し暗い園内。

 古城とかも幻想的に見えるけど、同時にそれが不安も生む。


 ……やっぱり、俺って誰かに恋する柄じゃないんだろうか?

 告白ひとつでここまで不安になったりしてるって……。

 正直初めての事。しかも自分から行動を起こそうとしているせいもあって、さっきから喉も乾いてるし、気持ちが落ち着かない。


  カチャッ


 緊張した俺の耳に届く、ドアが静かに開く音。

 あ、海笑瑠みえるさんの準備が終わったのか。

 ふぅ。まずは心を落ち着けて……。


「準備、終わ──」


 ラバトリーの方を向いた瞬間、俺は目を丸くして、そのまま言葉を失った。

 俺はその姿に見覚えがある。

 そう。白いワンピースと麦わら帽子。そして、白いフレームの眼鏡。

 それは間違いなくキャシーさんの店で見た時と同じ、サーラの格好だ。


「えへへっ。似合ってる?」


 彼女がはにかみながら笑ってるけど、俺は状況を理解できていない。


「何で、その格好……」


 俺が戸惑いながらそう口にすると、海笑瑠みえるさんが気恥ずかしそうに両手を後ろに回し、体を揺らす。


「いやねー。来月あたしの誕生日だからって、キャシーがあたしに用意してくれたんだよねー」

「え? じゃあその眼鏡も?」

「もち、度も入ってるよ。久良くろう君の事もバッチリ見えてるしー」

「そ、そっか」


 俺が気のないような返事をしちゃったからか。

 海笑瑠みえるさんがふっと不安そうな顔になる。


「えっと、その、似合ってない?」

 

 あ! そうじゃない!


「ち、違うよ! 完全にサプライズだったから驚いただけ! 凄い似合ってるし、夜のワンダーランドにも合ってると思うよ!」


 慌てて手を振りながら、彼女を褒める言葉を並べる。

 勿論それは本音だったんだけど、俺の反応に納得がいっていないのか。両手を組み、じーっとこっちを見てくる海笑瑠みえるさん。

 それが俺を気後れさせた。


 ここにきてやらかすなんて……。

 俺はどうすればいいかわからなくなっていると、部屋に備え付けられた電話が優しい音を立てた。


 自然に俺と海笑瑠みえるさんは顔を見合わせると、彼女が先に動き出して電話を取ってくれる。


「はい。三○三号室です。……はい。……はい。わかりました。ありがとうございます」


 フロントからであろう電話のやり取りを終え、彼女は受話器を下ろすと、俺に笑う。


「準備が整ったから、外に出てもいいって」

「そ、そっか」


 未ださっきのやり取りを引きずっている俺は、本気で笑顔になりきれていない。

 だけど、さっきまでの態度なんてなかったかのように、俺の隣までやってきた海笑瑠みえるさんは、迷うことなく俺と手を繋いできた。

 その手のぬくもりに、俺が強くドキッっとすると、彼女は悪戯っぽく笑う。


「ほーらー。時間も勿体ないしー、早く行こ?」

「え? あ、う、うん」


 コクコクと頷いた俺を見て、くすっとした海笑瑠みえるさんが俺の手を引き歩き始める。

 それはサーラじゃなく、やっぱり海笑瑠みえるさん。

 それはやっぱりすごく魅力的で、彼女の笑みにやられた俺は、さっきまでの失敗した気持ちをあっさり忘れ、なすがままに一緒に部屋を出ていったんだ。


      ◆   ◇   ◆


 ホテルの外には、自分以外の宿泊客の姿もある。

 そして、彼らも俺達も、そこでしばらくワンダーランドを眺めていた。


「うわぁ……」

「さっきとまた、全然雰囲気が違うよねー」

「そうだね……」


 俺と海笑瑠みえるさんも、少しの間その光景に目を奪われた。

 アトラクションはやっていないし、店も流石に閉めている。ライトアップの光量も少なめ。だけどそれが、より夜のワンダーランドを幻想的に見せていた。


 一応エリアにはBGMが流れている。

 けれど、それはこの幻想的な雰囲気を壊さないくらいの、小さなオルゴールの優しい音色。

 人がいないという早々見られない遊園地の姿も含め、さっきまでとは大きく違う、静かな夢の国が広がっていた。


 開放されている時間は翌一時まで。二時間を有効に使おうと、少しずつ他のお客さんが各々に歩き出しホテルから去って行く。


「えっと、俺達も、行く?」

「うん。あ、ちなみにー。あたし、最初に行きたい所があるんだけど、そっちから見に行ってもいーい?」

「あ、うん。いいけど」

「おっけー。じゃ、行こ?」

「うん」


 俺の手をぎゅっと握り笑う海笑瑠みえるさんに応えるように、俺も少し固い笑みを返す。

 こうして、俺達は一緒に深夜のワンダーランドを歩き始めた。

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