第五十九話「発作」
「図書館はあっちか……少し遠いな」
俺は地図を確認しながら呟く。
といっても、ヒナコの宿の方向なので帰りは楽そうだ。
……そういえば、ノアって何歳なんだろう。
さっきのユバルさんの話を聞くとおそらく25歳前後だと思うが、てっきり30代だと思っていた。
アジア人以外の年齢を見た目で判断するのは難しいな……
「わっ!!!」
下を向いて歩いていると、急に腰付近にそこそこの衝撃が加えられた。
振り返るとボーダーシャツにオーバーオールを着た見知らぬ女の子がニコニコしながら立っている。
いや、よく見たらケイだ。
ケイの後ろの方には大きな紙袋を持ったヒナコが小走りで近づいてくるのが見えた。
「あぁ、ケイか……」
俺がそう呟いた瞬間、ケイの顔が笑顔のまま急に青ざめた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ケイの呼吸が段々と浅くなっていき、音も段々と大きくなっていく。
……何かおかしい。
俺がそう思った途端、ケイはその場で膝から崩れ落ち両手を地面についてしまった。
そして、泣いているのか両手の間に雫が垂れている。
これって……もしかして緊急事態か?
病院の場所とか知らないぞ?
「ケイちゃん!大丈夫!?」
俺が何もできずにケイをただ眺めていると、ヒナコが慌ててケイに駆け寄ってくれた。
ヒナコはケイの背中を優しくさすってくれている。
「大丈夫……大丈夫だから……」
ケイは立ち上がって新品のシャツで顔を拭うと、笑顔を俺に向けた。
既に涙は止まっているようだ。
「ほんとに大丈夫?」
ヒナコがそう言うと、ケイはヒナコの周りを走り始める。
「うん!大丈夫だよ!」
ケイは2周、走り終わるとヒナコに向かって笑顔を見せた。
「アレン!おんぶしてあげて!」
ヒナコは少し険しい顔で俺を指差した。
仕方が無いので俺はケイに背中を向け、その場でしゃがむ。
ケイは俺の背中に飛びついてきたので、俺は紙袋を持って立ち上がった。
俺はケイを背中に乗せながら、ヒナコに案内されて図書館を目指す。
ケイは俺の背中に乗ると耳元で騒ぎ出したので、もう問題はなさそうだ。
しかし、そこには微妙な空気が流れている。
「……それ重そうに見えるけど、どのくらい買ったの?」
先程からヒナコは袋の持ち手を何度も入れ替えているので、かなりの量がありそうだ。
武器の値段も思ったより高かったし、渡した1000ギニーで足りていなかったら申し訳ない。
「えーっと、まずはケイちゃんの服でしょ……」
「それと、アレンの替えのシャツも二着買ったでしょ……」
「あとは……」
ヒナコは袋を持っていない方の手で指を折って数える。
「パジャマも買ったよ!」
ケイが突然、俺の耳元で叫ぶ。
危うく落としそうになった。
「そうそう!アレンのために可愛いパジャマも買っておいたよ!」
「そんな感じでぴったり1000ギニーで抑えたから安心して!」
ヒナコは数えていた手でVサインをつくり俺に向けた。
本当に1000ギニーで足りたなら安心だ。
「それと……下着は買うの恥ずかしかったし、サイズも分からなかったから自分で買ってね……」
ヒナコはVサインを下げて両手で袋を持つと、少し肩をすくめながら顔を赤らめた。
それだったらユバルさんのお店で買っておけば良かったな……
ケイを背中に乗せたまましばらく歩いていると、少し開けた場所が見えてきた。
「着いたよ!」
「あれが図書館!」
ヒナコはそう言うと、雄大な広場の奥の方に見える塔を指差した。




