第二十五話「傷跡」
「うわっ!」
「……なんだ、アレンか」
俺が風呂場のドアを勢いよく開けると、お湯に浮かぶ驚いたカイの顔がそこにはあった。
「お邪魔しまーす……」
俺は少し申し訳なさそうに風呂場に入る。
手早く身体を洗うとカイのいるお湯にゆっくりと浸かった。
「……あのさ」
「今日、一人で行ってもいい?」
「なんでだ」
「うーん、……秘密の特訓的な?」
俺は適当に誤魔化すと、カイは顔をしかめながら考えている。
「……わかった」
「だが条件が1つある」
「花びらの枚数が5枚になったら絶対に逃げて帰ってこい」
「昼飯を食べ終わったら俺のところにこい」
それだけ言うとカイはお湯から身体を出し、風呂場から立ち去っていった。
「わかったー!」
俺は脱衣所にいるカイに聞こえるように大きめの声で返事をする。
「ふぅ……」
俺は一度、頭の先までお湯に浸かる。
顔を出すとふちに寄り掛かり、上を向いた。
「すごいな……」
俺は立ち去るカイを見て男として胸を打たれた。
その身体には無数の傷跡があり、それは痛々しく美しいものだった。
村とケイを守るために一人で戦ってきたことが容易に想像できる。
「……」
俺は自分の左腕を見る。
そこにはカテラに噛まれた傷跡がうっすら残っていた。
この世界では<HP>が回復しても傷までは治らないようだ。
俺はもう一度、頭の先までお湯に浸かり、顔をお湯から出す勢いのまま風呂場を出た。
「昼飯までゆっくりするか……」
俺は脱衣所でスーツにビシッと着替え、家に戻る。
やはりスーツの着心地は抜群だ。
しばらくゴロゴロしているとケイがお昼ご飯を持ってきた。
それを勢いよく口に詰め込み、あっという間に完食する。
「よし!」
俺は気合を入れながら靴に縄を巻くと、鎌を片手に持って村の入り口に向かった。
「<猫足>」
俺は小声で呟く。
<猫足>とは、ある<職業スキル>に100ポイントを振っていた過程で得た<特能>だ。
この<特能>は、足音を消すことができる。
昨日の夜にいろいろ試したが、指輪と同じように口に出さないと発動しないようだ。
「ドーーーン!!」
俺はカイの背後に忍び寄り、大声で脅かした。
「遅かったな」
「ほらよ」
「花びらが半分になったら逃げてこいよ」
カイが驚きもせずにこちらを振り返り、あの赤い花を渡してくれた。
「……なんで驚かないの?」
俺は思わずキョトンとした顔をしてしまった。
「あんな敵意むき出しで近づいてきたら気づくに決まってるだろ」
「ほら、早くいけよ」
そう言うとカイは俺の背中を村の外に向かって強く押し出した。
「ステイ」
俺は<猫足>を解除すると、少し恥ずかしくなり小走りで川を下った。
しかし少し進んだ所で足を止める。
「アクティベイト」
俺はスキル欄から<守護者>を改めて確認する。
どうやら<予見>という<特能>があるらしい。
この<特能>は『自分に向けられた敵意を感知することができる』と書いてある。
「……ふーん」
「ステイ」
俺は再び足を速めて洞窟に向かった。




