第百六話「抜糸」
「傷は大丈夫です、この縫い糸も取りますね」
「アレンさん、今日から任務に戻って平気です」
「え、あ、はい」
「トレバーさん、ありがとうございます」
昇級試験が終わり、元々の予定だった一週間の休暇が終わった。
傷の治療を言い訳にもう少し休めるかと思っていたのだが、船の上で獲得したスキルポイントを<HP(生命力)>、<DEF(防御力)>の他に<VIT(活力)>や<IMN(免疫力)>などに振ったおかげで、ずいぶんと身体が丈夫になったらしい。
ちなみにあのクジラのSPは一体で960ポイントだったらしく、SPもかなり貯金が出来た。
これでもしもの時も安心だ。
「それで、この縫い糸は病院で縫合して頂いたのですか?」
トレバーさんは俺の腕の縫い糸を、時々力を加えながらスルスルと取り始める。
「船にいた人に応急処置してもらいました」
「もちろんこの身体の事は話していません」
「そうですか、改めて言いますが病院には行かないように」
トレバーさんは腕の縫い糸を外すと、次に足の縫い糸を取り始めた。
「おいアレン!」
「スーツの調整もう少しかかりそうなんだが、時間大丈夫か?」
ユバルさんが店の奥から顔を見せる。
昇級試験でのスーツが激しく損傷させてしまったので帰ってきてからすぐにユバルさんのお店に預けていた。
1から作り直したほうが速いらしいのだが、生地が特殊で貴重なため、なんとか修理してもらっている。
「明日でも別に大丈夫だよ!」
「そんなにはかからねぇから安心しろ!」
「そこでもう少しお喋りしといてくれ!」
ユバルさんはそう言うと、ニコッと笑顔を見せて店の奥に戻っていった。
「それにしても、このような形で休暇が潰れてしまってお気の毒です」
「ポートアーレで海に入れなかったのは残念でしたね」
トレバーさんは俺の手足から取った糸をポケットに入れると俺の傷口を指の先で優しく撫でる。
「まぁ、正確には海には入りましたけどね……」
「でも牧場で遊べましたよ」
「なかなか刺激的な体験でした」
俺は手足をグルグルと動かしながら答える。
この調子なら本当に大丈夫そうだ。
「それは良かったですね」
「でしたら牧場で餌やりは体験しましたか?」
「私も初めてモンスターの口に餌を流し込んだ時はなかなか快感でした」
「快感……?」
「あ、いや、それはやってないですね」
ヒナコはやりたがっていたが、混んでいたのでやらずに帰ってしまった。
それにケイが怖がっていたし。
「それは惜しい事をしましたね」
「次回は是非、やってみてください」
「機会があればやってみます」
快感か……
トレバーさん、たまに怖い事言うよな……