第百三話「繁殖方法」
「アレン!ちょっと速い!」
「あぁ、ごめん」
普段から野原を駆け回っているせいで女の子の歩くスピードと体力がよく分からない。
それ以外にもいろいろ感覚がずれてきているのは分かっているので少し気をつけよう。
それはさておき、ようやく牧場に着いた。
よく考えれば当たり前だがモンスターは普通の牛や馬とは違い危険なので、万が一のことを鑑みて牧場は町の中心から離れた場所にある。
俺だけならすぐに着いたかもしれないが、ヒナコとケイの歩くスピードに合わせていたら思っていたよりも時間がかかり疲れてしまった。
「入場料50ギニーだって!」
「はい、150ギニー!」
入り口にある小さなアーチをくぐると、受付を見つけたケイは俺の目を見ながら両手を差し出した。
どうやら俺が三人分払うらしい。
まぁいいけど。
ケイは俺から受け取ったお金でチケットを買ってくると、ガイドマップをヒナコに渡し、三人分のチケットを係員に渡した。
俺とヒナコはケイの後に続いて牧場の中に入るとガイドマップに目を通す。
「思ったより楽しめそうだよ!」
「結構、種類いるんだね」
「動物園みたい」
ガイドマップを見る感じ、牧場というよりも動物園と言われた方が違和感がない。
安全のためにガラスケースで囲われている他、ちょっとした体験スペースやお土産店まである。
しかし客の数は某○○村と同じくらい少ない。
「動物園ってなに?」
「あぁ……、この牧場みたいに動物がいっぱいいる場所」
「ふーん、今度また話聞かせてね!」
俺たちはまず、エントランスの一番近くにあるモンスターの飼育方法が学べる資料館を見ることにした。
ケイとヒナコは紙に書いてある文字よりも七足歩行のモンスターの骨格標本に興味津々のようだ。
「ふーん……」
モンスターに性別が無い事や、繁殖が最近出来るようになったことなど、レゼンタックで学んだ知識が大半だったが新しく知ることもたくさんあった。
その中でもやはり繁殖方法は初めて知る事ばかりで面白い。
モンスターの繁殖方法はつい数十年前セントエクリーガから遠く離れたフルギルという国で確立されたらしい。
なぜそれまで繁殖が上手くいかなかったかというと、モンスターの発情兆候が分からないためだ。
それは繁殖方法が確立されている今でも分かっていない。
その状態でなぜ繁殖ができるかというと、フルギルがモンスターを発情させるエサを開発したからだ。
そのエサを食べさせるとモンスター同士が子供を産むようになるらしい。
モンスターは年に一度しか子供を産まないのでこのエサはかなり貴重だ。
餌の中身は不明でフルギルの完全独占となっていて、そこまで高価ではないらしいが全て輸入している。
その辺りに政治のやり取りがありそうでゾクゾクするものがある。
また、モンスターの子供の育て方も興味深い。
モンスターの子供は人間と同じように未熟児で生まれてくるので親の世話が無ければ生きられず、それに生後1カ月間は親の分泌液しか食べない。
その上、モンスターは双子で生まれる内の弱い個体を育児放棄する習性がある。
それは、より強い個体を残していくためだと考えられているが、繁殖を行う上で一匹しか育てられないのは不都合でしかない。
そのため子供を親の元から交互に入れ替えるスワッピング方式をとっているらしい。
またモンスターが好む餌についても……
「アレン、もういこ!」
「ここ寒い!」
俺が資料に釘付けになっていると、ケイが俺の返事を待たずにスーツの袖を引っ張って建物の外まで引きずった。
「次は動いてるやつ見よ!」
「……うん、いこっか」
外は暑いな。