第百一話「憂慮」
ドンドンドン!!
「ん?」
ふとレストランのショーウィンドウの外に目を向けると、ケイを連れたヒナコが怒った様相で窓ガラスにへばりついていた。
そしてよく分からないジェスチャーをすると、店の中に入ってきた。
「私Aコースで、あとお水ください」
「あ、わたしも!」
ケイとヒナコは俺の目の前に座るや否や俺より一つ高いコースを注文した。
「あの……、会計って俺だよね?」
「当たり前でしょ?」
「何のために頑張って働いてたの?」
「……はい」
少なくともお昼を奢るためではないけどなぁ……
ま、いいけどさ。
ヒナコは料理が運ばれてくると、何も言わずに口に運び始めた。
ケイは俺とヒナコの顔を何度も交互に見ながら大人しく食事を始める。
「ねぇケイ、なんでヒナコ怒ってるの?」
「ケイちゃん、美味しいね!」
「朝ごはん食べてないからお腹空いてたもんね!」
「う、うん……」
俺はケイに話しかけようとしたが、ヒナコにあっさり割って入られた。
「人に奢ってもらったご飯が美味しく感じるような大人になっちゃダメだよ?」
「うん……」
俺はヒナコに負けじとケイに爽やかな笑顔を向ける。
多分、いちばん一番気まずいのはケイだ。
「……はぁ、わかったよ」
「謝るよ」
「でも何が悪いのか教えてくれないとわからない」
俺はとっくに食事を終え無言が辛いので店を出ようと思ったが、唇を噛みしめながら足を踏み留めた。
「何も悪くないんじゃない?」
「ケイが可哀そうだよ」
「……ただ私たちはさ、アレンが重症だって聞いて朝から部屋でずっと待ってたのにさ、誰かさんは連絡もせずにに呑気にランチを食べてるのが不思議だなって思っただけ」
「しかも怪我をそのままにして病院から逃げるのも不思議だなって」
「それに私の魚料理は嫌そうな顔するのに平気で魚料理を食べてるのが不思議だなって」
「思っただけ!!」
ヒナコは一息でそう言い終えると、ジェラートにスプーンを突き立てた。
「連絡しなかったのは悪かった、ごめん」
「病院から逃げたのは……、ごめん」
「魚食べてるのは新鮮だったら美味しいと思って……、ごめん」
「でも心配してくれてありがとう」
「ふんッ、もういいよ!」
「いっぱい喋ったらスッキリしたし!!」
ヒナコは口いっぱいにジェラートを含むと、そっぽを向く。
「わたしも心配してたよ……」
「ケイもごめん」
「……うん」
まったく困ったもんだな。
でも生きてて良かった。
俺はケイとヒナコがデザートを食べ終えるまで待つと、一緒に店を後にした。