第七十四話「火消」
「さてと……」
ハリソンの様子を見にいくのは良いが、持ち場を離れている時にモンスターがきても困るな……
「……うん、しょうがないな」
俺は足元にあった数字の書かれた石の円盤をひっくり返し、発煙筒に火をつける。
警報を鳴らしておけば誰かが対応するだろう。
俺は発煙筒の煙が壁を超えるのを確認してから南の方向へ走った。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
ハリソンの正確な位置を知らない以上、走り回って探すしかない。
しかし、基本的に見回りをするのは視界の開けた沢沿いなので川を上っていれば何かしらの手がかりが見つかると思ったのだが……
危険を承知で声を出してみるか?
「すぅー……、いって」
大きな声を出そうと鼻から息を吸うと、刺激臭が鼻を突きさす。
召喚獣のステータスを付与されているせいか、鼻が敏感になっているようだ。
これは火薬の臭い……、でも薬莢とは違う……、というかこの臭いさっき嗅いだな。
発煙筒だ。
川の底に目を向けるとオレンジ色の発煙筒が沈んでいるのが見える。
さっきまでハリソンが規則を破って生け捕りを諦めずに苦戦しているのかと思っていたが、そもそもこんなに壁から離れているのなら戦闘に入らずに観察するのが規則だ。
ということは、何かしら戦闘に入る理由があった……
「誰かいませんかー」
「助けにきましたよー」
返事は無い。
負傷者が近くにいると思ったのだがそうではないらしい。
手がかりを探すために足元をぐるぐる見渡していると、川上からなにか奇妙な物が流れてきた。
「取ってこい」
俺はポケットに入れていた召喚獣を川に向かって放り投げると、空中で元の大きさに戻った召喚獣が半透明な何かを咥えて戻ってきた。
「おっもい」
手に取ってみても正体が分からない。
それにしても水を含んでいるせいかメチャクチャ重いな……
キーンッ
俺が手にしていた何かを足元に落とすと、高い金属音が鳴り響いた。
「なんだ?」
俺はその何かを地面に広げ、目を凝らしてよく見る。
これは……、銃弾か?
モンスター……、外核……、脱皮……
「先行しろ!」
俺がそう言うと召喚獣は川沿いを勢いよく駆け上っていった。
俺はその後ろにビッタリ付いていく。
川を上っていく内に、モンスターの外核が一枚、二枚と異常なほど増えていく。
これはさっきの新種よりも100倍やばいかもしれない。
バギンッ……、ドスッ……、バチンッ……
血の匂いが濃くなったと同時に目の先で戦闘音が聞こえてきた。
「動きを止めろ!」
俺が召喚獣に向かってそう言うと、召喚獣はハリソンの身体を今にも握りつぶそうとしていた人型のモンスターに噛みつく。
それと同時に俺はハリソンを掴んでいる腕の腱を抜刀と同時に斬り上げ、力が緩んだ所でハリソンを抱えて距離を取った。
「クソっ……、アレンか……」
ハリソンはそう言うと顔にグッと力を入れて涙を流した。