第六十五話「乱酒」
「そういえばノアさんって人からワイン届いてるよ」
「飲む？」
ヒナコはそう言いながら机の下から高そうな木箱を持ち上げた。
「じゃあちょっとだけ」
ワインなんて一口か二口程度しか飲んだことはないし味も苦手な記憶があるが、せっかくなら飲んでみよう。
感想言わないと文句言われそうだし……
俺はヒナコがワインを注いでくれたグラスを持ち顔に近づけ、それっぽく香りを嗅いでから口に含ませる。
……辛い。
高級感のせいで若干美味しくは感じるが、このアルコールの辛さは苦手だ。
甘い日本酒が飲みたいな。
俺が顔をしかめている間にヒナコは自分で注いだワインを一気に飲み干している。
「私も飲みたい！」
ケイはヒナコにそう言うと、お茶の入っていたコップを差し出した。
「ケイにはまだ早いよ」
「私、アレンより働いてる」
「いや、法律だから」
「アレン、うざい！」
ケイはそう言うと、俺が抑えるよりも一瞬早くワインの入ったグラスに手を伸ばしてそのまま一気に飲み干した。
ケイは自慢そうな顔でこちらを見ているが、首と耳が赤くなり目がうつろになっていくのが目に見えて分かる。
「ケイちゃん大丈夫！？」
ヒナコは倒れそうなケイを慌てて支えようとするがケイの足に力が入っていないので、俺は慌ててテーブルの向かい側に回ってケイの身体を支えた。
「触らないで！！」
「はぁ……」
「俺が部屋に持ってくよ」
俺はヒナコの手を払いながらケイをお姫様抱っこすると、ダイニングを後にした。
部屋に着くとそのままケイを寝室まで運び布団の上に転がすと、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを一本取ってケイの横に置いた。
ケイは階段を上っている途中から声を殺しながらなぜか号泣していた。
「水飲んだら寝ろよ」
俺がそう言うと、ケイは顔を布団で隠してピタリと動かなくなる。
「はぁ……」
俺は部屋の窓を少しだけ開けてから部屋を後にした。
「……え？」
ダイニングに戻るとヒナコがテーブルに突っ伏していた。
赤い耳がピョコリと顔を覗かせている。
「ヒナコ大丈夫？」
ワインの量はそこまで減っていないが……
ヒナコも酒に弱いのか？
「私も抱っこして！」
ヒナコは急に立ち上がったと思えば、俺に抱きついてきた。
それと同時に吐き気が俺を襲う。
「わかった」
断って面倒になるよりさっさと終わらせよう。
俺はケイと同じようにヒナコを部屋まで運び、既に用意してあった布団にヒナコを転がした。
カチャンッ
「ん？」
「……あ、ダイニングの片づけやっておく？」
「いいよ、明日やるから」
「水は？」
「ううん、大丈夫」
「そっか、じゃあおやすみ」
俺はヒナコの部屋の電気を小さくして部屋を後にしようとする。
ガチャガチャ
「……ん？」
ガチャガチャッ
開かない……なぜだ？
「……ねぇ」
艶のある呼び声に振り返るとヒナコが布団の上でちょこんと座っている。
そして、夜の明かりが反射する白い首には小さなリボンのついた黒い首輪がはめられていた。
……なんで？
