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序章
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第二話「雨の匂い」

 俺は湿ったアスファルトの上を走っている。


 今日は浪人してやっと合格したFラン大学の入学式だ。

 たとえ乗り気でなくてもさすがに初日から遅刻するわけにはいかない。


 なぜ最初の目覚ましで起きなかったんだ、なぜ悠長に朝の支度をしていたんだ、なぜ一度も時計を確認しなかったんだ……


 時々、自分を恨みたくなる。

 しかし、自分を恨んでもこの状況は変わらない。

 そう自問自答しながら家からバイク駐車場までの400mを必死に走った。


 バイクの前につくと、急いでカバーとロックを外しヘルメットをかぶり、バイクにまたがる。

 エンジンをかけるとカスタムしたマフラーから法定ギリギリの心地よい音が身体に響き渡った。


 俺は3秒ほどその音に浸る。


 その後、足を交互に蹴りだし、道路までバックで進み、すかさずギアを1速に落とすと6000回転までハンドルを捻った。


 「あぁ……もういっか」


 道路を走り始めてからグローブをしていない事に気づく。

 

 グローブはシートバッグに入っているが、身体が硬いので取り出すにはバイクから降りる必要がある。

 赤信号の間に取り出すのも可能だが、面倒なので諦めた。

 事故ったときは……まぁなんとかなるだろう。

 

 入学式は10時30分から1時間の予定だ。

 しかし、大学までは40分ほど掛かる上に、駐輪場の位置もいまいち把握できていない。

 10分以上時間を短縮するには無理なすり抜けをするしか他ない。


 そんなことを考えながら大通りに出る頃にはギアは5速まで上がっていた。


 都心から離れる方向なので、渋滞はしていないものの、特別空いているわけでもない見慣れた道が続く。

 この道は2車線道路になっているが1本の道の幅は狭い。


 俺は車線の間のライン上に移動すると、ギアを3速に落としハンドルを捻った。


 ブーーーーン

 バイクの鼓動が体の中で反響し、股間が熱くなるのを感じる。


 快適に大通りを順調に走り抜け、左折をするころには体感で8分程度の時間短縮に成功していた。

 しかし、まだ足りない。


 左折すると3車線の道に出た。今度は道幅も広い。

 俺は左の車線でガードレールにギリギリまで寄り、ギアを4速に上げさらにハンドルを捻った。


 1台、2台と車を抜かしていく。


 20m先の信号が黄色に変わった。前の車のテールランプが光る。

 しかし、俺はさらにギアを上げアクセルを捻った。


 バガシャーーン


 俺は強い力で横にぶっ飛ばされ、空と地面が2回ほど入れ替わった後、地面に倒れた。


 「……」


 一瞬なにが起きたかわからなかったが、視界に端に映る大破したバイクが全てを物語っていた。

 不思議と痛みは感じず、むしろ頬に当たる地面の冷たさが心地いい。


 俺はポケットにある携帯に手を伸ばそうとした。

 しかし、身体が1mmも動かない。


 身体から暖かさが段々抜け、地面が暖かくなっていくのを感じる。


 次第に視界が薄れ、なにも見えなくなった。

 真っ暗な世界の中、ガソリンとアスファルトの匂いだけが生を感じさせてくれる。



 今日の朝、雨が降ったのかな


 そう思った次の瞬間、俺の意識は途絶えた。

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