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第三章「レゼンタック」
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第四十八話「化け物」

 貧者の目は発動していない。

 あの騎士はまだ俺に気づいていないようだ。


 あれが目標だとすると……、お姫様はあの洞窟の中か?


 俺は洞窟の中を覗こうと、目を凝らすと同時に無意識に短剣に手をかける。



「ウっ……」


 やばい。化け物。


 騎士から溢れ出る雨雲を覆いつくすような『何か』が見えた瞬間に、俺は姿を隠すのを止め、なりふり構わず来た道を全力で戻った。


 あれは絶対に戦ってはいけない。

 捕らえるのも無理だ。


 とにかく報告しなければ。



「動くな」


 俺の左手がイヤホンに触れると同時に、大きな手で腕を強く掴まれる。


 俺はすかさず右手を短剣にかけるが、既に騎士は俺と十分に離れた位置に移動していた。

 そして、その手には通信機が握られている。



 逃げ道は塞がれたか……


 俺は着ていたレインコートを素早く脱ぎ捨て、ゆっくりと足に体重をかけて状態を把握する。

 

 騎士は少し考えている素振りをしながら通信機を地面に放り、カチャカチャと音を鳴らしながら踏みつけた。



 これは後で怒られるな。

 生きて帰れただけど……


「ふっ……」


 俺は鼻笑いを飛ばすと同時に、黒騎士に背を向けて逃走を試みる。

 しかし、走り出したと同時に身体が強い脱力感が襲われ、気づいた時には黒騎士の手が背後に迫っていた。


 俺はその手を慣れた動きで避けると、戸惑った様子の黒騎士を横目に再び距離を取った。



 なるほど……、やっぱりか。


 あの黒騎士は<黒騎士>だ。

 <一騎打ち>があるかぎり、何もなしでは俺はあの黒騎士から逃げられない。


 相手は格上。

 ノアよりも数段強い。


 現状を把握しようとすればするほど、背筋が冷たくなり、膝から力が抜けていく。

 身体に酸素が足りていないからか、息が段々と浅くなっていく。



 なにを間違えて俺はここにいるんだ。

 いつもの俺なら絶対にここにはいなかったはずだ。

 完全に浮かれていた。



 黒騎士は距離を取ったまま、じっとこちらを見ている。

 幸運なことに、あっちは、まだこちらの実力を把握できていないようだ。



「はぁ……はぁ……はぁ……、クソッ」


 俺は乱れる息をぐっと咬み殺し、黒騎士から目を逸らさずに短剣を鞘ごとホルスターからゆっくりと外し、身体の正面で刀身を抜くと、左手で短剣を右手で鞘を構える。


 黒騎士は俺の気を察したのか、灰色に染まった何もない空中から、質素な飾りのついた卵型の大盾を発現させた。


 だが俺の目に映る黒騎士の敵意は、まだ形を成していない。



「ふぅーーー……」


 先程の数秒で俺の足は限界を迎えている。

 まるで、千℃まで熱せられた太い錐が足の甲を貫通しているようだ。


 もう一歩も動けないが、そういうわけにもいかない。

 回避は最小限に。

 一秒でも隙を作ってここから逃げる……


 無理は承知だがとにかくやるしかない。



 身体に触れる雨の冷たさが俺の頭をいつもより冷静にする。


 覚悟はできた……


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