第十一話「利刀」
「あっぶねー」
ユバルさんからスーツは防水性だと聞いていたので、お手洗いで思い切って水で流してみたら汚れは簡単に落ちた。
このスーツ、かなり防水性能が良い。
それにしてもマジで焦った……
横着している間に集合時間が目前になっている。
俺はスーツについた水を手で払うと、急いでレゼンタックに向かった。
レゼンタックに到着すると、脇目もふらずに訓練場に出る。
「やっときたか!」
「遅いぞアレン!」
「ごめん!」
訓練場ではノアが槍を片手に準備運動をしていた。
怒っている様子はなさそうだ。
現在時刻は12時40分。
10分の遅刻だ。
俺は入り口の傍に武器の入ったケース以外の荷物を置き、ノアに近づく。
「見てよノア!」
「カッコいいでしょ!」
俺はユバルさんに言われた通り、ノアにスーツを自慢した。
「それユバルが作ったのか?」
「うん、そうだよ」
ノアは俺の周りを歩きながらスーツを舐め回すように見ている。
「そうだな……、良いんじゃないか?」
「それ着て仕事するのか?」
「そのつもりだよ」
「暑くないのか?」
「大丈夫だと思う」
「そうか」
ノアは俺の持っている黒いケースに目線を向けた。
スーツに興味がないのか、父親のスーツと比べているのか……
もう少し羨ましがられると思ったのだが、ノアはそうでも無いようだ。
それよりも武器の方に興味深々になっている。
俺はケースを地面に置き、武器を取り出した。
「お前っ……その武器……」
「うん、そうだよ」
「お手頃価格だったからさ」
ノアは俺の武器を見て、何かを察したようだ。
「はぁ……」
「よし、それで俺の腕を切ってみろ」
ノアはため息をつくと、シャツの腕をまくり、俺に差し出した。
ユバルさんと同じ方法で試すのか……
「はぁ……」
俺はため息をつきながら鞘を腰のホルスターにセットして短剣を抜いた。
「……いくよ?」
「おう!」
俺は刀身を頭上までゆっくりと振りかぶり、手首のスナップを利かせながらノアの腕めがけて真っすぐ振り下ろした。
キュリーーン
「……ん?」
俺の振り下ろした短剣は、ノアの腕の下にある。
……え、貫通した?
いや、そんな訳はない。
なにか硬く滑らかなものに当たった感触があった。
ノアの腕にも、しっかりと切れ目がついている。
ノアの腕から目線を上げると、ノアは眉をひそめながら自分の腕をじっと見ている。
ノアもなにが起こったのか分かっていないようだ。
ノアはしばらく自分の腕を眺めると、首を傾げながら右腕を下に降ろした。
ジュリンッ
ノアの腕にある切れ目より手側の肉が、血を吹き出しながら重力によってめくれ、ずり落ちる。
「Fuck!!」
ノアは暴言と共に慌てて自分の腕を抑えた。
俺は怖くなって一歩下がり、慌てて刀身を鞘に納める。
俺はノアが自分の腕を抑えているのを見ていることしか出来ない。
腰から背骨をたどって真っすぐに鳥肌が立つ。
……なんだこれは。