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第二章「セントエクリーガ城下町」
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第九十九話「美しいとは」

 ケイが俺の腰に抱きついて10秒ほど経っただろうか。

 いや、もしかしたらそれよりも長いかもしれないし、短いかもしれない。


 結局、俺の口からは言葉は出てこなかったが、自然とケイの頭に左手が伸びた。


「写真ありがとう」


 俺がケイの頭に手を置く直前、ケイが言葉を続ける。


「……あぁ、うん、いいんだよ」


 俺はそう言いながら、ケイの髪をくしゃくしゃする。


 しかしケイはそれを嫌がったのか、俺の腰から離れてしまった。


「わたし、もう今日で子供やめるね」


 ケイは離れ際にそう言うと、俺を追い越して出口がある曲がり角を曲がっていってしまった。



 ……どういうことだろう。


 子供はやめると言ってやめられる物ではないが、ケイの中で何かを変えたかったのはなんとなく分かる。


 ケイはいつも唐突に変な事を言うからな……



 俺はケイの後を歩いて追いかけ建物を出ると、ケイが小雨の中ではしゃいでいるのが見えた。


 街灯の光が雨と水たまりに反射し、その水たまりに映る光の波をケイが踏むと足元がキラキラと光る。

 それはとても幻想的で、まるで異世界のようだった。


「アレン!綺麗だよ!」

「はやくきて!」


 ケイはそう言いながら水たまりの上で何度も飛び跳ねる。


 ケイはこんな夜に外に出たことが無かったので、興奮しているのはそのせいかもしれない。



 しかしケイが俺に向ける笑顔は今までと少し違って見えた。


 無邪気なその顔には雨が滴り、濡れた髪は艶やかになびく。

 今だけの時間を惜しみ、まるで子供を演じながら遊んでいるようだ。


 その我慢を隠しているような笑顔を俺は美しいと思ってしまった。



 そんなケイをただボーっと眺めていると、ケイが慌ただしく戻ってきた。


「アレン、6時過ぎてるよ!」

「早く帰らなきゃ!」


 ケイはそう言うと、俺の手を掴んで、もう片方の手で近くのお店の窓から見える時計を指差す。


 しかし雨で濡れていたためか、ケイが引っ張ったと同時に俺の手はケイの手からすぐに離れてしまった。



 時計を確認すると針は6時10分を指している。


「……ほら」

「これが最後だよ」


 俺はその場でケイに背を向けてしゃがむ。


 ケイの歩幅で歩いていたら最悪7時を超えるかもしれない。



 ケイが俺の背中に飛び乗ったのを感じると、俺は立ち上がって体勢を整える。


 ……少し重くなったか?


「ヒナコに怒られるときは一緒だからね!」

「しゅっぱーつ!」


 ケイはそう言うと、俺の身体の前で両足を使ってパチンッと音を鳴らした。


「あいあいさー」


 俺はケイの脚を脇でしっかりと固め、8割程度の力で走り始める。



 ケイは俺が『最後』と言ったのには何も触れなかった。

 きっとケイが子供をやめると言ったのはそう言うことなのだろう。


 これが最後か……



 顔に当たる雨粒が痛いが少し心地いい。



 ケイを背中に抱えたまま宿に着くと、ヒナコは俺たちのことには何も触れず、ただ笑顔を向けてくれた。




 次の日、ケイは風邪をひいて仕事を休んだ。

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