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第二章「セントエクリーガ城下町」
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第九十八話「虚飾された死体」

「私、トレバーさんの様子を見に行くから終わったらケイちゃんと一緒に帰ってね」


 アメリアさんはそう言い残すと、俺をドアの前に置いて来た道を戻っていった。



「はぁ……」


 俺はため息と共にドアを開けて中に入る。


 部屋は高校の教室程度の大きさで、身体と顔にタオルが掛けられた遺体が床の上に窮屈そうに置かれていた。


 これならば二部屋に分ければいいと思うが、そういうわけにもいかないのだろう。

 しかし、こんなにも遺体がある中、特に嫌な臭いもせずに状態もウォロ村で見た物よりだいぶ整えられている。


 ケイが俺が見た物をそのまま見ていないかと心配していたが、これならばまだ大丈夫だろう。



 ケイを一人で待たせるのも悪いので、俺は顔にかかっているタオルをつまみながら、一人一人の顔を淡々と確認していく。


 どの遺体も綺麗な顔をしていて、オムさんの首も不自然なほど奇麗に繋がっていた。



 しかし、あの日、俺が見捨てた女の子の顔だけはどうしても見ることが出来なかった。




 10分もしない内に部屋を後にすると、俺は少し早歩きでケイの元に戻る。


 やはりこの無機質な廊下は少なからず恐怖を感じる。



 廊下の角を曲がると、ケイが先程と同じ体勢でソファーに座っているのが見えた。


 写真を見れば少しは機嫌を直すかと淡い期待をしていたが、もしかしたら渡すタイミングを間違えたのかもしれない。



「……ケイ、帰らないの?」


 俺はケイの正面に立って呼びかけたが、なにも反応が返ってこない。


 仕方が無いので、俺は膝を曲げ、ケイの顔を覗き込むように確認する。

 見えるのは乾燥した小さな口だけだ。


「……お腹空いたから帰ろうよ」


 俺はそう言いながらケイの手を掴んだが振り払われてしまった。

 そして、ケイの手が俺の鼻に直撃した。


「いっ……」


 鼻血は出ていないようだ。


 日がもう落ちているのか、少し涼しくなってきた気がする。

 もう面倒くさいし、一人で帰ってやろうかな……



 しかし、この小さな手を引っ張り上げる事が出来ないままでは不甲斐ない。


 それに一人で帰ったらヒナコに絶対怒られるしな……



「はぁ……」

「こんな所にずっといたらそのうちお化け出てきちゃうよ」


 俺はケイに聞こえるように呟きながらケイの隣に座った。



 なにもしないまま何分が立っただろうか。


 本格的に寒くなってきた事に加え、静かな廊下にたまに聞こえてくる足跡が怖い。



「……寒くないの?」


 先程よりケイの肩に力が入っているのに気づき、俺がそう聞くと、ケイは小さく頷いた。


「じゃあ帰ろう」


 俺はソファーから立ち上がって再びケイの正面に立つ。


「……うん」

「ついてくからこっち見ないで」


 ケイはそう言うと、足の間に置いていたペンダントをポケットに入れ、写真は手に持って立ち上がった。



 俺は言われた通り、ケイの気配を背中に感じながら出口に向かって小さい歩幅で歩き始める。


 立ち上がる時にチラッと顔が見えたが、涙はかなり前に止まっていたのか目が少し腫れていた。




 ボスッ


 出口の曲がり角に近づいてきた時、後ろから誰かに腰を抱き着かれた。


 視線を落としながら振り返ると、抱き着いていたのはもちろんケイだった。


「ごめんなさい」


 服に埋もれて籠ったケイの声は、足音よりも小さくこの静かな廊下に響くことはなかった。

 ただそのケイの言葉は俺の喉の奥に針となって深く刺さる。



 今なにを口に出しても何も変わらない気がして、でも今なにかを口に出さなきゃケイを救えない気がして、足りない言葉を探している俺の頭の中には外から聞こえてくる細かい雨の音が微かに反響していた。

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