第九十七話「償い」
ドアをノックして部屋の中に入ってきたのはトレバーさんだった。
なぜトレバーさんがここに来てくれたのかは分からないが、『後で向かいます』という言葉を信じて良かった。
一応、トレバーさんに言われた通り嘘はついていないが、ここからどうなるのだろうか。
「アレンさん、交代です」
「これ返しといてください」
トレバーさんはそう言いながら持っていたマグカップを俺に手渡し、俺を個室の外に促した。
「……え?」
外に出ると部屋にいる人がほとんどこちらに目線を向けていて気まずい。
しかし、部屋の入り口で手招きしているアメリアさんの姿が見えたので、俺は近くの机にカップを置いてドアの方へ向かった。
どうやら俺の出番は終わったらしい。
「どうだった?」
「怖かったでしょ?」
「しばらくは監視されると思うけど、証拠がなきゃ捕まえられないから安心してね」
「後はトレバーさんがなんとかしてくれるから」
アメリアさんは特に心配する様子もなく、俺に笑顔を向ける。
アメリアさんがそう言うのならばなんとかなるのだろう。
俺はアメリアさんの後に続いて階段を降りた。
少し廊下を進むと遠くの方でソファーの上でちょこんと体育座りをしているケイの姿が見えてきた。
見るからに覇気がない。
「ケイちゃんは先に見てもらったんだけど……どうする一緒に行く?」
アメリアさんは少し振り返りながら俺に質問する。
「……ケイに任せます」
俺が少し間を置いてから答えるとアメリアさんは笑顔で返した。
「ケイちゃん、アレンくん戻ってきたけどもう一回行く?」
アメリアさんが床に膝を着いてソファーで座るケイにそう聞くと、ケイは小さく首を振った。
「じゃあアレンくん、こっ……」「ちょっと待っててもらっていいですか?」
俺はアメリアさんの言葉を遮るように言葉を挟む。
アメリアさんは気を利かせてくれたのか、少し離れてくれた。
「ふぅ……<貧者の袋>」
俺は呼吸を整えてから<貧者の袋>を出すと、中から写真とペンダントを取り出した。
今、渡さなかったらもう渡せない気がしたので覚悟を決める。
「これ……渡すの遅くなってごめん」
「こっちにカイの大剣の欠片が入ってて危ないから気を付けてね」
俺はそう言いながら写真の上にペンダントを乗せてケイの前に差し出したが、なにも反応がない。
……仕方ないか。
俺はケイの脚の間にそっと写真とペンダントを置くと、ケイの傍を離れた。