第七十四話「積み直し」
俺は<遁走>の効果が切れるまで走ろうと思ったのだが、途中で痛みに耐えきれず、その場でうずくまってしまった。
俺は川を正面に木を背にして息を整える。
服をめくると、わき腹は大きく内出血していて肩からは紫色に腫れた打撲の跡から出血をしていた。
運よく肋骨には当たっていないと思うが、内臓はやばいかもしれない。
あの猿はEランクモンスターのウオヴォシミアだ。
おそらく、カイの死体はあいつらに攫われたのだろう。
先程のカポウツェロよりランクは低いが、それよりも強く感じる。
あの群れから一斉に石を投げられていたら多分、簡単に死んでいた。
こう考えると三日前にウォロ村からセントエクリーガ城下町まで行くのに一匹もモンスターに会わなかったのはラッキーだった。
もしかしたらモンスターにも昼行性、夜行性などの生態があるのかもしれない。
もっとちゃんと生態表を読んでおけばよかった……
俺は川の冷たい水でわき腹と肩を軽く洗うと、周りを警戒しながら買ってきたチーズサンドを急いで口に詰め込んだ。
痛みと焦りで味を感じない。
まだ全然お腹は空いていないが、仕方がない。
水も持ってくれば良かった。
サンドウィッチを食べ終わると紙袋からカイの靴を取り出して紐をほどき、靴を背中に背負って両手を空けた。
そして残った紙袋はポケットに小さくしてしまい、再び川を上り始めた。
紐が食い込み少し肩が痛いが、こちらの方がまだ安心だ。
しばらく進んでいると先の方で人の気配を感じた。
森にはない人工的な匂いが残っている。
「<猫足>」
俺は足音を消して慎重に先に進んでいく。
すると400mほど先に小さく人の姿が見えてきた。
大きな荷物を背負った人が10人ほど列になって歩いている。
俺はしばらく隊の後ろに付いてペースを測ると、少し恐怖を感じながらも森の中に入り、大周りをしながら隊を追い越した。
合流したほうが安全なのは分かっているが、それだと目的が果たせない。
俺は隊から一キロ程離れた所で俺は再び川の方に戻り、スライムを探して<遁走>を使いながら再びウォロ村に向かって走り始めた。
10回ほど休憩を入れ、体力の限界と痛みから視界が歪んできた頃にようやくウォロ村の壁が見えてきた。
俺は走るのを止め、ゆっくりと歩きながら壁に近づく。
あの隊がここに到着するまで40分から1時間程だろうか……
「はぁ……はぁ……、なんだこれ……」
ウォロ村の正門の反対側に着くと裏門が木と大きな岩で塞がれていることに気づいた。
あの夜、オムさんは裏門が開かないと言っていたが原因はこれだ。
ウォロ村の川の反対側は山道になっているので、あの夜の雨で土砂崩れを起こしたのか。
……いや、なにかおかしい。
地面の表面に石と砂が混在している地面が、均等に川の方まで続いている……
素人目だが、土砂崩れが起こったようには見えない。
どちらかと言うと元々あった地面に木と大きな岩を意図的に乗せたような感じだ。
ふと顔を上げると、正門の方にはアゲハ蝶がちらほらと舞っていた。
俺は早歩きで正門の方に回る。
「ンヴゥ……」
村の中は血で染まった地面の上に村人の死体が疎らに転がっていた。