表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルってなんですか?  作者: Nombre
序章
1/244

第一話「朝」

 その日、俺が目を覚ましたのは、異世界だった。





「ピピピピピピピピ……」


 久しぶりに聞く音だ。


 仰向けの状態から身体を起こし、目の前にある白くて丸い物を3回ほど叩く。

 その後、うつ伏せに体勢を変え、顔を9000円の枕にうずめた。


「ピピピピピピピピ……」


「よし、起きよう」


 そう心の中で決心し、俊敏に身体を起こす。

 ぼやけた目を擦りながら白くて丸い目覚まし時計を止めた。


 朝日が窓から差し込んでいる。

 母親が仕事に行く前にカーテンを開けたのだろう。

 

 窓の前に足を進めると、ベランダにあった小さな水滴に反射した光が俺の目に突き刺さる。

 自分の部屋が二階にあるのはいいものだ。


「あ、い、う、え、お、か」

 

 軽く発声練習を終え、俺は部屋を出る。

 

 家に中に人の気配を感じない。


 階段を降りると、真っ先に冷蔵庫の前に足を進める。

 キッチンには用意された朝ごはんらしき物は見当たらず、冷蔵庫の中もほとんど空だ。


 ついてないな


 そう思いながらも、手慣れた手つきで電子ポットでお湯を沸かし、朝ごはんのメニューを考えつつ洗面所に向かい、顔を洗った。



 冷蔵庫の前に戻りもう一度、扉を開ける。

 しかし何度見ても俺の朝ごはんは無い。


 俺の手には冷凍うどんとカップラーメンの選択肢が握られている。


「……」


 俺は後者を選んだ。

 お湯を注ぎ、ため息を3回ほどつく頃には、買い置きしてあるお気に入りのカップラーメンが出来上がっていた。


 カップラーメンをボーっとしながら口に掻き込むと、再び洗面所に向かい、服を脱ぐ。

 そして、少し肌寒さをかんじながら3日ぶりのシャワーを素早く浴びた。



 風呂場から出るとパンツを準備するのを忘れたことに気づいた。

 俺は身体をあらわにしながら急ぎ足で階段を上り、自分の部屋でパンツを探す。



 パンツを手に入れ、再び一階に戻ると、椅子の背にかかっている身の丈に合わない既製品のスーツに着替える。

 そして、みたび洗面所に向かい、ネクタイを締め、髪形を整え、髭を剃った。


「ふぅ……」

 そろそろ行くか


 洗面所で大きな息を吐くと、また階段を上り部屋に戻る。

 そして、少し大きめの鏡の前にある3つの香水の前で足を止めた。


 ディ○ール、ド〇チェ&ガッバー〇、ファブ〇ーズ

 俺が持っている物はどれも古かったので兄の使っているブ○ガリという選択肢もあったが、迷った挙句、結局3つの香水をちょっとずつ自分に振りかけた。


 久しぶりに嗅ぐ匂いを楽しみながら階段を降り、玄関の段差に腰をかける。


「はぁ……」


 自然とため息が漏れた。

 なぜか物凄く疲れた気がする。


 新品の革靴に足を通し、まず靴の甲を何回か押して硬さを確かめ、次に立ち上がって履き心地を確かめる。

 これならバイクにのっても大丈夫そうだ。


 そして玄関に置いてある小さな時計をチラっと見てから、ドアを開け慌ただしく外に飛び出した。


「遅刻だ」


 そう呟くと、ヘルメットを片手に、駐輪場へ不格好にダッシュする。

 流石に何年も走っていないと走り方を忘れてしまう。


 今日は入学式だ。


 ……何か大事な忘れ物をした気がする。



 静寂が残った玄関に置いてある時計は10時を指していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ