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「悪の塔」と恋心

 その頃、柿太郎の村には「外出自粛要請」が発令されていた。

 それというのも、村に面する多摩の浦に浮かぶ蚤ヶ島に、見慣れぬ塔が出現したと村人たちが口々に噂をし始めたのだ。

 村役場の危機管理課が調査をしたところ、確かに蚤ヶ島に一本の不審な塔が建立されていることが確認された。

 塔は遠く雲に遮られながら、ユラユラと霞んで見える。村人たちは恐れをなし「悪の塔」と名づけた。


「なにか不審な塔が蚤ヶ島に建ったらしいよ。見に行ってみようか」

「面白そうですね。わたしも見てみたい」

 柿太郎とネコの倉本和代は浜辺に行ってみることにした。小汚い雑種犬のタローちゃんは、関心のなさと面倒くささもてつだって、外出自粛要請を理由に一緒に行かないと昼寝を始めたのでおいていくことにした。


「色々ありましてね。わたしも・・・。人生辛いことばかりですよ。女手ひとつで育てた息子は東京でバンドなんかをやるんだと出ていって、音沙汰ひとつありません」

「ご苦労されたんですね、同情します」

 柿太郎は和代の苦労話を聞きながら、遠くに見える蚤ヶ島を探るように眺めていた。

「柿さん。あっ、柿太郎さん、見えますか?」

「ええ、おぼろげに塔が見えますよ。・・・遠慮なさらないで下さい。『柿さん』と呼んで頂いて結構ですよ」

「では、柿さん・・・」

 ネコの和代は頬を赤らめた。そしてそれを隠すため、柿太郎の数歩前に走り出した。

 その途端、何かにつまずき仰向けにひっくり返った。


 浜辺に大きなうすがころがっていたのだ。突然、歩を早めた和代はそれに気づかず、臼を思い切り蹴飛ばしてつまずき仰向けにころがったのだった。

「だれだ!どこのバカ野郎だ。おれの家を蹴飛ばしたのは!」

 臼の中から叫ぶ声が聞こえる。


 かにだった。

 蟹は大きなハサミを振り回しながら臼から顔を出し、仰向けに転がるネコの和代をにらみつけて言った。

「この馬鹿ネコ、おれの家を壊す気だな。こうしてくれる!」

 蟹は和代の前足を巨大なハサミで力まかせに挟んだ。

「助けてくださーい。お願いしまーす!」

 和代は叫びながら、痛みのあまり前足を振り回した。すると蟹バサミが外れて、蟹は大空へと舞い上がり、おりしもの強風に吹かれて、遠く蚤ヶ島に霞んでみえる「悪の塔」へと一直線に飛んでった。


 蟹の姿は大空に消えたが、しばらくするとドーンという轟音とともに「悪の塔」が崩れ落ちてゆく姿が二人には見えた。


(続く)


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