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桃から生まれた

 おじいさんは近くの公民館に出かけていた。今日はお祭りにむけた第三回目の会合が開かれていた。

「やった! これ欲しかったんだ」

「おめでとうございます、井手口さん。アンメルツ・ヨコヨコ三本セットです!」

 公民館からは、皆のはしゃぎ声が聞こえる。ビンゴ大会が行なわれているのだ。お祭りのことはすっかり忘れ、ビンゴに興じているのだった。

 おじいさんは、大きな桃を当てた。桃を自転車の荷台に括り付け、夜道を漕ぎに漕いで帰路についた。


 桃の評判は悪かった。なにせ大きすぎた。食欲に決して結びつかないたぐいの香りもする。気持ちが悪いので捨てることで一致した。

 真夜中になった。捨てた桃の中から声がする。

「助けてくださーい。お願いしまーす!」

 みんなで恐る恐る桃を家に運び込み、切ってみることにした。

「あーびっくりした。助かりましたよ」

 ネコであった。それもかわいい子猫でもなく大人の猫でもない。中途半端な成育期のネコである。ご多分に漏れず茶色でもある。

「ご挨拶が遅れました。いま、まさに桃から生れました」

「も、桃太郎・・・」

 おばあさんがつぶやいた。

「いや、違います。そういう事もあったとは伺っていますが、私はただのネコです。普通見れば分ると思いますが・・・。倉本くらもと和代かずよと申します」

 思いもよらないことに雌ネコで、もう一度いうが小さな子猫ならまだしも中途半端に育っているネコである。しかも倉本と名のっているのだ。

 桃は棄てることにした。


 ひと雨ごとに夏が去り、少しずつ秋が増えてゆく。そんな夕暮れに追いつこうと、夏休みは急ぎ足で過ぎていった。

 柿太郎は、母親が音信不通になっているため、おばあさんの家から学校に通うことになった。


 柿太郎の通う三鷹村立下連雀商業小学校近くの八幡様を過ぎ、弁天様を越えると多摩の浦に出る。多摩の浦は太平洋に続く穏やかな浜辺でありかつ漁港である。西東京ディズニー・ランドまで直通のフェリー「多摩の丸」が発着する港といえば、この物語の読者なら全員分るであろう。あそこである。

 しかし、村人だけが知っている事実がある。多摩の浦の沖合五キロ、ひとつの島が存在する。地図にはもちろん載っていない。村人の心の結界に閉ざされ、遠目からは実に静かにたたずんでいる。これこそが「蚤ヶ島」である。

 あの島は「しおもっこ」のように恐ろしいところだと皆が口をそろえて言う、まさに人類すべての恐怖の源泉「蚤ヶ島」であったのだ。


(続く)

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