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霊感隠し

霊感あっても隠したい

作者: ぐっちょん

息抜きに描きてみました。


暇つぶしにでもなればいいのですが。



「悪かったな。帰ろうとしていたところを俺の……その……話に付き合ってもらって」


「おう。明人(あきと)のタイプが年上とは意外だったけど、いいって気にすんな」


 そう言って立ち上がった友人の広友(ひろとも)が「明日、また学校でな」そう言ってファーストフード店から出て行った。


 そして広友の背後を着いていく白い影が、俺に向かってペコリと頭を少し下げた。


 それを視た俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。


 ――あんなモノ見せられたら、なぁ……



 俺は今、高校二年になるが、数年から見えざる者、つまり霊がだんだんと見えるようになってしまった。


 それは血筋? なのか? よく分からないが、俺の祖父の兄弟が霊媒師だったらしいく、そして、俺の父も霊媒師ではないが視える。そして取り憑かれやすい。そのせいで、死にそうな目にあい障害を持つほどの大怪我もしている。


 母にはそういった類のチカラは何もないが、一つ上の兄も音だけは聞こえると小さい頃に聞いたことがある。

 今はどうなっているのか知らないが、何か変な音が聞こえると、夜一人になることを怖がっていた記憶がある。


 で、俺はというと、母に似て何もない。普通のはずだった。


 ただ俺は小さいな頃からよく熱を出し、護符みたいな何か小さくて薄い紙をよく飲まされていた。


 俺はそれが熱を下げる薬だと思って何の疑問も持たず飲んでいたんだ……


 そして、成長と共に、だんだんと熱を出すことも少なくなり始めた中学生くらいから、急に俺にもうっすら影っぽい存在が見えるようになったんだけど――


 ――まさか、親友が事故に遭う事故現場と時間を俺に視せてくるとは思わなかったよ……


 こんなこと初めてだった。


 そりゃあ、見えている霊の影がだんだんと色濃くなり白黒はっきりと見えはじめてはいたけど、未来視みたいな思念を守護霊から送られてくるとは思いもしなかった。


 ――広友の守護霊に頭さげられたよ……たぶん……


 俺と広友は部活帰り、小腹がすいてファーストフード店にたち寄った。


 普通にワンコインのガッツリセットを注文し、いつものくだらない雑談を交わしつつ食べ終えた。


 食べ終えたらさっさと帰る。これがいつもの俺たちの行動だった。


 それで、いざ帰ろうとしたところで……それは起こった。


 俺は焦った。焦って別に何とも思っていない音楽の先生が気になると口走り再び広友を席に座らせた。


 まあ、美人で男子生徒にも人気のある先生だから、俺がそう言ったところで、そこまでおかしいとは思わなかっただろう。


 ――ほんと俺、咄嗟に話題なんて振れないからさ、うまく引き止めれてよかったわ……


 しかし、広友のあの最後に「俺に任せろ」と言ったにやにやした顔が少し気になるが……


 ――まあいいや。バレずにすんだし……


 そう、俺は俺に霊感が少しあることを誰にも話していない。


 それには色々と理由はあるが、一番は、視え初めた中学の頃に、少し話した友だちから俺はウソつきで、頭がおかしく気味の悪いヤツ認定を受けた。


 みんなに注目されたいからデタラメを言っている、だったっけ……今でも覚えているは、アイツの言葉は……


 元々人気のあったアイツの言葉はクラス中に広まり、やがて学年全体へと広がっていた。


 そして俺は、三年間、直接いじめられることはなかったが、一人仲間はずれというか、避けられ、居ないもの扱いをされ続けた。最悪の中学時代だった。


 だから今の高校には数人、同じ中学出身の奴らがいるが、一切交流をしていない。しようとも思わない。


 ――広友の守護霊も落ち着いていたし、もう大丈夫だと思うけど……後で電話でもしてみるか……


 店内にある時計に目を向ければ19時半を指している。広友の守護霊に視せられた事故遭遇時間が19時15分だった。


「俺も帰ろう……」


 ――――

 ――


 ――翌日――


「おっす!」


「いっ!! 痛ってぇな、広友」


 校門に入ったところで、いきなり俺の背中を叩いてくる不届き者が笑っている。


「ははは、明人が眠そうな顔してダラダラ歩いてるから目を覚ましてやったんだよ」


「誰も頼んでねぇ!」


 ――ったく、誰のせいだと思っているんだ。


 昨日の夜、電話で確認したけど、実際、その姿を確認するまでは何処か不安があった。あるに決まってる。

 何せ初めての経験だったから……


 広友の守護霊からも危険を知らせる思念を送ってくることはない。広友の背後にピタリと寄り添っている。広友の守護霊はかなり心配性のようだ。


 ――もう大丈夫そうだな……


 俺の寝不足の原因とも言える張本人はイタズラを思いついたような笑みを浮かべながら前を見ろと顎を少しシャクってみせた。


「いったい、なんだょ……!?」


 広友が顎をシャクって示した先には音楽の先生がゆっくりと歩いていた。


 後ろ姿も色気がある先生は、重そうな荷物を両手に持ち、俺たちのすぐ前を歩き校舎へと向かっている。俺は嫌な予感がした。


「いや、バカ、広友、何をしようと……」


 ほんとうの俺は恋愛感情なんてないんだよ。変な気を回すんじゃない。


「後藤先生おはようございます!」


 ――のおぉぉぉぉ!!


 俺の心の叫びはむなしく消え、広友は先生に向かって元気な挨拶した。


 振り返った先生は相変わらずの美人さんだが俺にも気づき――


「広友君、おはよう……あら? 明人君もおはよう」


 笑みを浮かべて挨拶をくれる。この先生、意外にも全生徒の名前を覚えている。


 それも人気の秘密だろけど、こんな笑みを向けられたら思春期真っ只中、健全な男子高校生が堪えることなど無理な話。


「お、おはようございます」


 別に何とも思っていない俺でもドキドキ胸の高鳴りを覚える。


「先生その荷物重そうですね。さっき明人が持ってあげたいって言ってましたよ」


 ――え!?


「あら、そうなの?」


「ば、バカ広友。何失礼なこと……」


 先生は少し考える素振りを見せると――


「じゃあ、お願いしちゃおうかな……はい」


「へ?」


 あっさりと俺に手荷物を渡してきた。もしかして先生はこんな展開は日常茶飯事? 慣れているのかしら――


「明人。俺、今日日直だから」


 ――ああん!?


 俺の睨みをキレイにスルーした広友は、口元をにまにまさせながら片手をあげると校舎に向かって走って行った。


「明人君、よろしくね」


「……はい」


 俺は他の男子生徒からの刺すような視線を全身に浴びながら音楽室にその荷物を運んだ。


 ――――

 ――


「先生。荷物はここでいいですか?」


「ああ、そうね。ありがとう」


 俺は手に持つ荷物を音楽室にある先生の机の側に置き、さっさと自分の教室に帰るつもりだった。

 その時――


「くっ……」


 俺の脳裏に写真を一枚一枚連続で視せられているように、断片的な映像が高速で過ぎった。


 ――え? え? 先生って……こんな!?


 俺の脳裏に過ぎったのは、先生が複数の男性と付き合い、その内の一人に何かを頼まれているビジョンだった。守護霊はその頼みを断るようにと、訴えてくる。


 先生の守護霊がどんな顔をしているのか見えないが、先生のことをすごく心配していることは伝わってきた。


 でもな、正直俺は先生に幻滅した。ドキドキしていた淡い気持ちも一気に冷めた。


 ――はぁ……


 俺はどうするか迷った、迷ったけど分からない。


 ――もういいや。


 先生は俺のクラスメイトじゃないし、音楽の授業だって週に二回程度だ。別に避けられたところで何の問題ない。


「後藤先生……」


「なぁに? はい、これ運んでくれたお礼ね」


 先生がにこりと笑みを浮かべ、フルーツ味のアメ玉を二つ俺の手に渡してくる。アメ玉を俺の手に置いてくれる一瞬、先生の指が触れてドキッとする。


 ――そうじゃない、そうじゃないだろ俺。


「あ、ありがとうございます……じゃなくて……えー、先生の守護霊が心配してます」


「え?」


 先生が突然何を言いだすんだ、というような残念な子を見る目を向けてくる。俺もそう思う。


 その目はどこか憐れみを帯びた目で、俺ももっとうまく伝えれば良かったなぁと思うけど、うまく伝えたとしても話す内容は同じなのだ。


 話し終えれば結局は同じような目を向けられるに決まっている。あの、中学の頃よく向けられた目を……


 中学時代を思い出しイヤな気分になった。


 ――はぁ……さっさと終わらせよ。


「……先生が誰と何人、付き合おうと俺には関係ありませんが、その彼氏から何か頼まれても断るようにって言ってます」


「な、なんで……」


「俺には分かりません。ただ先生の守護霊が心配してます。これは良くないことに繋がるとの警告です。よく考えて行動してください。それだけです……では、失礼します」


 ――少し失礼だったか……


 伝えることを一方的に伝えた俺は、ぼーっと呆けている先生を尻目にさっさと音楽室を後にした。


 ――――

 ――


「おう、どうだった?」


 教室に入ると、広友が屈託のない笑顔を向けそんなことを言ってくる。


「どうしたも、こうしたも、ただ荷物を運んだだけだ」


「まーたまた〜」


「何もない」


 何かを期待している広友を無視して自分の席に着いた。まだ何か言いたげな広友だったが、担任の先生が入ってきたので渋々自分の席に戻っていった。


 ――はぁ……俺、昨日からどうしちまったんだろ……霊感でも強くなった? でもな、こんなことってあるのかよ……ん?


 朝のホームルームが終わる頃、一人の少女が慌てたように遅れて教室に入ってきた。


「先生、遅れてすみません」


 ――……


 俺の席は窓際の一番前の席。俺は彼女の声が聞こえてからすぐに窓の外に視線を移した。


 彼女の足音が教卓に立つ先生の前で止まると、遅れた理由を伝え始めた。


「白石が遅刻なんて珍しいな……何かあったのか?」


「はい。途中で自転車がパンクして――」


 一番前の席なので、いくら顔を背けようが、聞きたくない声が耳に入る。


 クラスどころか、学年でも人気のある彼女は、俺と同じ中学出身だ。

 だから彼女がどんなに美少女で男子から人気があろうとも俺にとっては不愉快の対象でしかない。


 ――終わったか……


 彼女の声が聞こえなくなると俺は再び教卓の方へ視線を戻した。


 ――っ!? 今のは!?


 俺の目の隅に一瞬だけど黒い影が見えた。黒い影は俺の中では悪霊の類だと位置づけていた。その黒い影が俺の目の隅に入ったのだ、俺は横目のままゆっくりと顔を動かしその影が見えた方に視線を向けた。


 ――っ!?


 俺は思わず息を呑んだ。


 ――なんで……


 その黒くて薄気味悪い影が彼女、白石の首を絞めながら纏わり付いている。


 ――守護霊? 守護霊はどこ……っいた!


 白石の傍にいるはずの白く見える存在、守護霊は三メートルほど距離を置き苦しそうにもがいているように見える。しかも、その存在は俺の知る一般的な大きさと比べても薄く小さくなっている。


 ――何があった!?


 俺がそう思ったからなのか、白石の守護霊と視線が合った気がしたが何かを伝えてくる気配はなかった。何か言いたげではあるが何も届かない。


 ――どうする……見て見ぬ振りをする?


「……と」


「……きと」


「おい、明人」


「んあ? 何だよ広友?」


「いや。お前、ホームルーム終わったのにぼーっとしてたからさ、何考えてるのかと……ははん。さては後藤先生と何かあったな、おい、教えろよ」


「ない。ほんとうに何もない」


「まじ〜?」


 広友が「せっかく俺がチャンスを作ってやったのに」とか、「何をやってるんだ」とか、「ヘタレ」だとか好き勝手言ってるが、俺は耳に入ってくる彼女たちの発した会話の方が気になった。


「あれれ、ユイ。首赤くなってるよ」


「え? 嘘?」


「ほんとだよ。ほら」


「あれ? ほんとだ、でも何でかな??」


 ユイとは白石ユイのことで、会話から手鏡でも見ているのだろう。


 正直、彼女には近づきたくもないし、話もしたくないが、あの黒い影の行動は明らかに異常である。

 今まで取り憑いている黒い影は何度か視たことあるが、首を絞めらように手を回している黒い影なんて視たことなかった。


 ――どうする……


 俺だけが視えているこの状況で、俺は判断に迷い動けずにいた。


「なぁ、なぁって? 明人……ああもう無視かよ」


「広友、悪りぃ。俺ちょっと……トイレ行ってくる」


「ん? 深刻な顔して、大きい方か? 急がないと一限目始まるぞ」


「ああ」


 白石には興味ないが、あの黒い影、ただ事じゃない。何かあるはずだ。


 俺はそう思い、いつもなら絶対近づかない白石たちが楽しげに話をしている席の側を通った。


「ぁ……」


 彼女たちの会話が途切れ、白石が一瞬だが驚いたように目を見開いたように感じたが、俺は気にすることなく、黒い影の方へ視線を向ける。


 ――……ぐぅっ!!


 すれ違いざま、黒い影から色のない不気味な瞳が現れ向けられたかと思うと怨念の混じった思念が俺に襲いかかってきた。


 ――ぅ……ぅぅ!? ぐはっ。


 一瞬で意識が刈り取られ気が遠くなりそうになるが、いつも俺がスボンのポケットに入れていた数珠がピシッと弾ける衝撃で意識を何とか保った。


 ――はぁ、はぁ……


 俺はそのまま何事もなかったように平静を装ってトイレへと向かった。


 ――はぁ、はぁ、ゴクリ。危なかった……数珠がなかったら呑み込まれていた。


 俺は額から流れ出る冷や汗を袖で拭った。


 ――危なかったが、分かった。


 白石はどこかで祀られていた石像を踏んづけて壊していた。首が折れ取れていたその像からは禍々しいほどの怨念が黒く渦巻いていた。


 その石像がどういった経緯で祀られていたのかは分からないないが、その石像から怨みを買ったことにかわりないないようだ。


 俺は眺めていた亀裂の入った数珠をポケットにそっとしまった。


 ――ふぅ……


 問題はこれからだ、白石自身にあの怨念の塊のような悪霊を払い除ける力はない。白石を護る守護霊も小さくなり力を失いつつある。


 一番良いのは壊した石像を元どおりに戻し、ひたすら謝罪することなのだが、中学時代、嘘つきのレッテルを貼られた俺が説明してところで言うことなど聞いてもらえるはずがない。


 あとは、どこか力のある霊媒師に除霊してもらうほかない。


 ――やはり除霊。これが無難か……


 その日の授業中、白石は違和感があるのか、しきりに首回りを気にしていた。


 ――――

 ――


 ――その日の放課後――


 とうとう白石に何も伝えることができず、放課後になってしまった。


「明人〜、部活行こうぜ、部活」


「あ、ああ……」


 俺と広友は同じ運動部に所属している。白石を見れば、彼女もまた部活に行くのだろうが、今は友人を含む三人でお喋りをしている。


 ――今しかないが、くそ〜、友だちが周りにいるな……


 一人ならまだしも三人もだなんて、中学時代のことがフラッシュバックし俺は二の足を踏む。


 ――……!?


 今朝よりも薄く小さくなった白石の守護霊が俺の側にいた。というか、黒い影がだんだんと力をつけ守護霊は白石に近づけず、俺に縋るような想いで近づいてきているようだが、その姿も黒い影が纏わりつき苦しそうに感じる。


 あまり時間がありそうにない気がする。


「広友。俺、ちょっとトイレに寄ってから行くわ。先に行っててくれ」


「ん? 調子悪いのか? 分かった、先に行ってるぞ」


 俺は手に握る紙切れを握りしめた。


 ――ええい。


 広友は教室の前から、俺はいつもなら絶対に通らない白石の席の傍を通り教室の後ろから廊下に出た。


 白石の席の横を通り過ぎる際、黒い影に呑まれないよう心に壁を張りあらかじめ「急ぎ、除霊にいけ」と書いた紙を白石の机に置いてきた。


 俺の行動が不自然すぎて三人がびっくりしていたが、この際だから、もう気にしないことにする。


 早足で逃げるように廊下に出ると――


「まってよ、明人君」


 慌てた様子で教室から飛び出してきた白石が、俺から数歩離れた位置から俺の名前を呼んだ。


「何?」


 義理は通したと思っている俺は淡々と返す。


 ――これ以上は、俺には関係ない。


「これ……」


 白石が手に持った紙切れを俺に見せた。


「ああ……そのままの意味だよ。危険だから早く除霊をしてもらった方がいい……気味の悪い俺が言うことなんて信じられないと思うけど、騙され……たと思……?」


 不意に空間が歪がむと、薄暗い闇が辺り一面を包み込む。

 騒がしかった教室はウソのように静けさに包まれ何の音も聞こえてこない。話し声すらも……


 ――こ、これはいったい!?


「ぅぅ……く、くるしい……」


 俺が状況を確認しようと周りを見渡している間にも、白石は首を押さえ苦しそうに顔を歪めるとその場に座り込んだ。


「白石!」


 これは俺が除霊と言ったその言葉に反応したのだろうか? 白石に憑いている黒い影が悍ましい怨念を撒き散らし白石の首を絞める手が太く大きくなったように視える。


 ――こいつ!


 俺がその影に視線を向ければ、色のない悍ましい瞳を俺に向けてくる。まるで挑発しているかのように……悍ましい影がニヤリと不気味に笑っている。


 そして、その口が、ありえないほど三日月状に歪んで上がり、俺は背筋が凍りついた。


 ――ぃぃ! く、口が裂け、てる!


 ここまでの恐怖を感じたことは初めてだった。


 俺に霊媒師の力なんてない。何もできない。ただ影が視えるだけだ。俺はその場から逃げ出したくなった。

 逃げ出したくなったけど足が鉛のように重くてまったく動かない。


 ――や、やばい。


 俺の感が警告を発している。白石の首を絞めていた黒い影の手が姿を変え、ぐるぐると蛇がとぐろを巻くように何重にもなって巻きつき、白石の首をさらに絞めあげていく……


「ぁぁ……」


 白石は声のない悲鳴をあげている。よほど苦しいのだろう。首の辺りを掻き毟るように手を当てているが、白石の両手は黒い影をすり抜けて己の首にキズを付けている。


 黒い影の悍ましい顔が俺を見据え、その口が動く『つぎは……おまえだ……』怨みのこもった怨念が俺の身体を貫いていく――


 ――ぐぅ!


 その瞬間、俺の首と胸に違和感が走ると同時に黒い影から伸びた細い糸状のものが俺の首にも巻きついていた。


「がぁ! ぐぅっ!」


 俺の動悸が早くなる。息を吐いているのか、吸っているのかすら分からない、思わず胸を押さえた。


 がさり。


 その音に、俺は両親にお守り代わりに持たされていた紙袋を思い出した。


 ――……そ、そう、だ……


 今まで使うこともなくブレザーの内ポケットに入れっぱなっていた紙袋。


 この紙袋にはたくさんの小さな護符が入っている。子どもの頃、熱が上がる度に飲んでいた護符だ。


 俺は縋るような思いで、その内の二枚を震える手をどうにか動かし取り出すと、すぐに丸めた。


 薄く小さいため、丸めればごま粒くらいの大きさになった。


 ――頼む……


 その内の一枚を祈りを込めて自分の口に含みむと薄い紙なのでスーッと溶けていく。


 溶けるのを確認するまでもなく、鉛のように重かった足が軽くなるのを感じた。


 ――……効いた!


 正直信じられなかったが、俺には効果があった。


 ならば白石にも少しは効果が期待できる、はず……そうしなければこの最悪な状況から抜け出せない、そんな気がした。


 俺は額から流れ出た冷や汗を拭く余裕もないが、そらでもどうにかしたくて白石にゆっくりと近づいた。一歩、一歩、黒い影から目を離さず慎重に足を進める。


 黒い影の俺を視る瞳が不気味で何度も足が竦みそうになるが、護符の入った紙袋を握り締めることで、折れそうになる心を保つことができた。


 ――もう、すこし……


 俺が護符の入った紙袋を片手に握り締めていたからか、俺が白石に近づくと、首を絞める手を残したまま、黒い影が俺から離れようとして白石の側からも離れた。


 黒い影は、この護符を恐れている? 


 だが、その瞳は俺を逃がすまいとずっと変わらず、不気味な光りで揺らめき俺を捉えている。


 ――……はぁ、はぁ……


 気を張っているせいか息が上がり、のどが渇く。


 ――大丈夫、大丈夫だ。


 俺は自分の手に持つ護符だけを頼りにそう信じこみ白石に近づく。


 俺の周りではピシッピシッと何が弾ける飛ぶ音がずっとなり続けるだけで、警戒していた意識を刈り取りほどの強い怨念も襲って来ない。


 ――今だ……


 そう判断した俺は、白石に一気に駆け寄り丸めていた、もう一つの護符を苦しそうにしている白石の口に押し込んだ。


「飲んで……」


 聞こえてるのかも判断できないほど白石の瞳は虚ろになっていたが、指を入れノドの奥に押し込んだ。


「う、うう……」


 吐き出されたら何もならない。俺は咳き込みそうになる白石の口を押さえた。


 護符のおかげだろう。護符を口に入れ押さえた瞬間からその瞳に光が戻っていく。


 黒い影も怨念の含んだ悍ましい声をあげるだけで一向に近寄ろうとしてこない。どころか、また少し距離を置いたように視える。


「白石!」


 何度か白石の肩を揺すると、白石の瞳が俺を捉えた。


「しっかりしろ」


「あきと、くん……」


 白石が弱々しいながらも言葉を発した瞬間、薄暗かった周りが一転して夕陽のオレンジが差し込める空間へと戻り、教室内からはクラスメイトの話し声が聞こえ始めた。


 ――戻った……


 黒い影の手は首に巻きついたままだが、本体は距離置き傍観している。


 怨念で揺れる瞳が不気味だが、距離が離れている分少しだけ気持ちが楽になった。白石の苦しそうに歪んでいた顔も元の正常な顔に戻っている。


「ふぅ……白石、よく聞け」


「う、うん」


「お前は強力な怨念に取り憑かれているって言ったら信じるか?」


 白石は泣きそうな顔をしつつも自分の首に触れゆっくりと頷いた。


「……うん」


 先ほどの体験をどこまで覚えているか分からないが、とりあえず信じてくれて良かった。


「少なからず、白石お前は、昨日は憑かれてなかったはずだ。取り憑かれていれば、あの悍ましいヤツだ、昨日の時点で俺が気づいている。

 だから昨日の下校時間から今朝の登校時間までの間の、どこかで石像のようなモノを踏まなかったか?」


「分からない」


 ――たしかに白石は石像を踏んでいるはずだ。ならば……


「じゃあ、いつも通らない道を通ったりしてないか?」


「……そ、それなら今朝、自転車がパンクして遅れそうだったから、近道を……でも結局は間に合わなくて遅刻したけど……」


「それだ、その道に行くぞ! 案内しくれ!」


「え、でも……部活が……」


「時間がないんだよ。死にたいのか?」


「……」


「いいから早く……」


 陽が沈めば、たぶん護符だけじゃ押さえきれない。そう感じてしまう俺は焦る気持ちから座り込んでいる白石の手を掴み引き上げる。


「きゃ……!? あ、明人君の首……」


 そうだ、俺の首にも黒く細い糸が巻きついたままだ。


「ああ、俺の手に触れたから視えたんだな。お前にもある。これで分かったろ、俺たちには時間がない」


 白石はこくこくこくと何度も頷いた。ところで白石の友だちが心配して教室から出てきた。


「ユイ、急に……」

「あ、明人君!」


 ――!? この時間がない時に……


 俺がそう思って時には白石が――


「ごめん、マイ。アユミ。今日部活行けない理由は後で話すね」


 そう言って俺の手を逆に引っ張り走り始めた。


「ちょっとユイ!」

「なんで!?」


 ――――

 ――


「白石まだか!?」


「はぁ、はぁ、も、も少し先……」


 走り始めて20分。


 自転車を誰かに借りれば良かったのだが、親しい友人はみな部活をしていて探す時間が惜しかった。


 じゃあ、勝手に借りて後で謝れば? とも思ったが、校則で自転車通学者は鍵をしっかりかけることを厳守されている。当然、みんなの自転車にはしっかりと鍵がかけられていた。


 俺は徒歩通学だけど、白石は同じ中学出身の校区内だったにも関わら真逆の位置だったらしく、自転車通学だった。


 今日に限って自転車がパンクした白石は、このままでは遅刻すると思って公園の自転車置き場に自転車を置き、大きな公園の中を通り抜けてきたそうだ。


「な、なんでだ、日の入り早すぎじゃねぇか?」


 気のせいなのか、今日に限って陽が沈むのが早く感じる。あたりは薄暗くなり始めていた。というのも俺たちが今いる大きな公園の中は大きな木々が生い茂り、沈む夕日の光が薄っすらとしか入ってこない。


「はぁ、はぁ……あ、明人君まって。た、たしかこの辺りで、獣道っぽいところに……あ、あったよ。ここだよ」


「ここから……!?」


 たしかにその白石が指した先を見据えれば、何らかの気配を感じた。嫌な気配だ。

 そう感じたかと思うと、俺の首に巻きついた黒い糸が絞まる。


 ――ぐぅ!


「ぁぁ……」


 それは白石も同じだった。いや、俺以上に絞まりがキツく苦しがっているように思える。


「し、白石、大丈夫か!?」


 苦しみ始めた白石は首を振るだけで、その場に座り込んだ。


 ――これじゃ、いけない。


「白石、乗れ」


 白石も苦しくて何かすがりたかったのだろう、普通なら嫌がるだろう俺の背中にすぐに掴まった。


 俺は白石を背負い先に進んだ。


 ――お、重い……苦しい。


 先に進めば進むほど俺も白石も苦しさが増していく。しかも白石がだんだんと重く感じる。


「はぁ、はぁ……」


 白石も苦しいのか俺を握る手に力がなくなってきている。俺は頼みの護符を紙袋ごと片手に握り締めるとその紙袋をごと白石の右手を掴んだ。


「がんばれ」


 少しは楽になるかと思ったがあまり効果がない。辺りをとりまく禍々しい環境がよくないのだろう。俺は進む足を早めた。


 息が荒くなる。苦しい。


 のどが焼き付きそうだ。痛い


 苦しい。


 苦しい……


 あともう少しだというのに、やめたい。諦めたい。行きたくない。そんな感情が俺を包み込む。


 そんな時には、決まってピシッピシッと俺の周りで何かが弾けている音が無数に聞こえ『あともう少し』『行け』『歩みを止めるな』そんな思念が俺の頭を何度も過ぎる。


 そんな時だった。断片的に視た情景に似た場所に辿り着いた。


 ――ここだ!


「白石、着いたぞ!」


 すぐに人の形を型取られた首の取れた石像を見つけた。

 その近くには台座みたいな石板が何段か積み上げられた場所があった。


 地震か何かだろうけど台座から倒れ落ち、そのまま放置されていた石像の上を白石がたまたま踏みつけてしまったのだろう。


 俺はすぐに台座の上にその石像と頭を戻した。


「白石、あとは謝るんだ。俺も一緒に謝るから……ひたすら謝ろう、な」


 白石を背中からゆっくりと下ろすと、白石がぐったりとして息をしていない。


「お、おい。白石……嘘だろ。おい、しっかりしろ!」


 肩揺すっても頬を軽く叩いても意味がなかった。


 ふと、後方を見えれば、あれほど距離を置いていた黒い影がすぐ側に佇み、ニンマリと不気味な笑みを浮かべている。


 そしてその、黒い影の手には苦しそうにしているように視える白い影が握られていた。


「白石!」


 俺は思わずそう叫んでいた。白い影がピクリと反応したように思える。


 間違いなくあれは白石だ。どうしたらいい、どうすれば助けれる。


 ――くそぉ!!


「すみません。白石も謝りたくてここまで来たんです。お願いです。白石を連れて行かないでください」


 黒い影は色のない見開いた瞳を俺に向けニタニタ三日月状に不気味な笑みを浮かべている。視た感じでも白石を還す気に見えない。


 じゃあ、奴は何を待っている。時間? 夜?


 ――夜か! 


 夜になれば黒い怨霊は力を増す、その時を待っているんだ。


 ――くそ、くそ!!


 せめて俺に霊媒師としての力や知識があれば、除霊できなくても何らかの手立てを思いつけたはずだ。


 ――無力だ。俺にはどうすることもできないのか……


 そんなことを考えている間にも白石らしき白い影が薄くなり始めている。


「白石!!!!」


 ――くそぉ!! くそぉ、くそぉ、くそぉぉぉぉ!


『……め』


 ――!?


 気のせいかもしれないが『拝め、ひたすら拝め』『二人で拝め』そんな声が聞こえてきた気がした。


 俺は藁にもすがる思いで、元に戻した石像に向かって跪き両手を合わせるとひたすら拝んだ。白石の身体も同じようにした。ぐったりとしてすぐに倒れてしまうため、俺の横で両手握り同じように手を合わせた。


「白石を連れて行かないでください」


 俺の首に巻く黒い糸がぎゅぎゅっと絞まる。


 ――ぐぅ……


「お願いします。お願いします」


 ――ご先祖様、仏様、守護霊様、今度からお供え物もちゃんとします。毎日感謝します。だから、お願いです力を貸してください!! 助けてください。お願いします。


「どうか、どうか、怒りを鎮めてください」


 ――ご先祖様、仏様、守護霊様、力をお貸しください。お願いします。お願いします。


「白石を連れて行かないでください」


「お願いします」


「白石を連れて行かないでください」


「お願いします。お願いします」


 何の知識もない俺にはそうするほか何もできなかった。


 ――――

 ――


「……くん」


 どれくらいそうしていたのだろう。ふと、俺を呼ぶ声が聞こえた気がする。


「明人君……」


 ――間違いない。


 俺は閉じていた瞼を開けた。そこには俺の顔を覗き込む白石の顔がすぐそばにあった。


「しらいし?」


「うん」


「助かったのか……?」


「うん」


 見れば白石の首には自分で引っ掻いた傷痕はあるが黒い手はない。黒い影もいない。


「……た」


「ん?」


「無事でよかった」


 俺はよほど切羽詰まっていたのだろう、安堵した瞬間、不覚にも涙が溢れてしまった。


「明人君……」


 月明かりで照らされた石像の顔も穏やかになっているように見えた。


 地主神。ふと、そんな気がしてきた。


 俺たちはもう一度その石像に向かって、二人で手を合わせて拝んだ。


 ――――

 ――


 帰り道、すでに辺りは真っ暗だった。流石に暗い夜道を女子高生一人で歩かせるわけには行かず、俺は途中まで送ることした。と言っても必死だった行きと違って俺は白石の数歩後ろを歩いている。


 人通りも多く、見慣れた場所まで戻ってきたのでそろそろ別れを告げようとしていたところで、不意に白石が俺の方へ振り返った。


「明人君」


「ん?」


「ありがとう。明人君いなかったら……私ここに居なかったと思う」


「……そんなことはない。俺も、白石も運が良かっただけだよ」


 ――そうだ。今回はたまたまま運が良かった。俺は無力だった。


 思わず拳に力が入った。


「ううん。それでもやっぱり明人君のおかげだよ」


 逆行で白石の顔はよく見えないが笑みを浮かべいるのかな? そう思っているとふと、白石が少し悲しげな顔をして俯いた。


「……?」


 何か言いたそうだけど、なかなか口を開かないようだ。だが、時間も時間だしそろそろ帰らないとまずいとも思う。


「白石、それじゃあ……」


「ま、待って……明人君」


「ん? 何」


 俺がそう返すと白石は頭を深く下げた。頭を戻した白石の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「……その……ごめんなさい。ずっと謝りたかった」


「……」


「今日ね、苦しくて苦しくて、もうダメだと思った時に、明人君の声が聞こえたの」


「……」


「白石を連れて行くなって……」


 ――おうふ。なんと……恥ずい、恥ずかし過ぎる。


「……」


「そうしたら私も、まだ明人君に謝ってないって思い出して、謝りたいって何度も何度も思った」


「……」


「気がついたら明人君が隣にいた。ずっと私のために……拝んでくれていた」


「……」


 ――帰りたい。


 思わず俺は顔を背けた。恥ずかしい。


 顔が燃えるよう熱くなった。


 穴があったら入りたい。どこでもいい。膝抱えて隠れていたい。


「うれしかった」


 白石がどんな顔しているかなんて知らない。今の俺には心の余裕なんてない。


「……そう」


 そう。素っ気なく返すだけでいっぱいいっぱいだった。


「すぐには許してもらえないかもしれないけど、私、諦めないから」


 白石は見惚れるほどの笑顔を見せると俺の両手を取って握手し、少し慌てたように走って行った。


「諦めないから……ね……」


 胸にあったもやもやが少し晴れた気がした。


 俺はこの日を境に、影で視えていた存在が、その顔まではっきりくっきり見えるようになってしまい、人との区別がつきにくなり苦労するんだけど、それはまた別の話。


 ちなみに、あの日、拝むように伝えてきた不思議な存在は俺のご先祖様兼守護霊だった。


 俺の守護霊はなにかあればすぐに『修行が足りん』と訴えてくる。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもテンポ良く読めて良かったです。 設定を気にせずに続けそうですので、また、気の向いた時にでも書いてください。 ありがとうございました。
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