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76:六月六日その⑥

「頑張りましたね、要くん」

「…………」

「まぁ、何だ……年上も悪くはないだろう?」

「……元々二人くらい、年上いましたよね」

「要くんの中では私たちはおばさん、とかそういう認識だったのかな?」

「…………」


 自虐にしてもさすがに池野さんのは笑えない。

 全然、というか二つ程度しか離れてないのにおばさんなら、俺たちだっておじさんおばさんでおかしくないんだから。

 つっても十離れてるという高嶋にしても、全然離れて見えないのはどうしたことだろうか。


 世間知らずだからなのか?


「あの、私本当にここにいてもいいんでしょうか」

「がっつりやっといて何言ってるの? 大体もう、町中がそう見てるんだからどうしようもないでしょ」


 戸越お前……余計なことを。

 見ろよ、あの恋する乙女みたいな目……いい歳こいた大人が見せる目じゃねぇだろ、どう考えても。

 

「そう……ですよね。優木くん、責任とってくれますよね?」

「責任ってあんた……自分からやっといて、それってどうなの?」

「どっちにしても要くんからやる予定だったんですよね? なら別にどっちからでもいいじゃないですか」

「それ考えた張本人がそれ言うのか……」

「でも多分、優木くんがこれ以上女増やすことはないと思うよ」

「立川、それはどういう……もしかしてお前」


 能力が発動した、そう直感して立川を見ると静かに頷く。

 

「優木くんもみんなもちょっと大人びた未来だったけど……今いるメンバーだけっぽいし、一人も欠けてないよ」

「えっと……どういうことですか? 未来?」

「あー、めんどくせぇけど一から説明しねぇとだよな」

「何ですか、めんどくさいって。私そんなにめんどくさい女ですか?」


 結局俺が何言っても、文句はやっぱり出るんじゃないか。

 だったら俺、黙ってた方がいい気がしてくる。


「それより……要、お前おばあさんへの連絡はしたのか?」

「……ああ、忘れてた」

「あんな風に言ってくるくらいなんだから、結構重要な話だったりしない?」

「知らねぇけど……めんどくせぇな、誰か代わりにやってくんね?」


 俺がそう言うと、全員揃ってじっとりした視線を向けてくる。

 わかったよ、俺が悪かったな。


「わかったわかった……だから全員揃ってそんな目を向けてくるの、やめてくれ」


 仕方ない、と立ち上がって携帯を取り出し、ババァの連絡先を探し出す。

 すると高嶋が何やら物欲しそうな顔で俺を見ていた。


「……何?」

「えっと……」

「ああ、そういう。高嶋さん、慌てなくても大丈夫ですよ」


 池野さんが高嶋の顔を見て一言。

 便利な能力だこと……まぁ俺も目が合って、何考えてるかわかっちゃったんだけど。


「池野さんの言う通り、終わったら連絡先くらい交換してやるから、お預けな。ちゃんとお座りして待ってろ」

「何ですかその言い方!! 私に犬になれと!?」

「キレんなよ、いい大人がそんくらいで……冗談だろ。とにかく電話先に済ませるから」


 追いすがる様な視線を振り切り、とりあえずベランダに出る。

 日差しがきついな……。


『やっとかけてきたか。年寄りをあんまり待たせるもんじゃないよ』

「んなこたどうでもいいだろが。どうせ殺したって死なねぇくせによ。それより何の用事だったんだ?」


 口を開けば悪口合戦。

 そうだ、俺とババァの関係はこれでいい。


『明日か明後日、どっちか空けられるか? いや、というか空けろ。私からささやかな退院祝いをくれてやる』

「いや、明後日って確か……」

『そうだったね、丁度いい。明後日親族一同が集まる、その時に全員連れてくるんだ』


 元々法事はその日程だったはずで、俺の元にもお知らせ的なものは来ていたし、入院中に手続きは粗方済ませてある。

 そこでババァが何かをするつもりでいるらしい。


「あいつらも、って……今日一人増えたばっかなんだが」

『随分と元気な様で何よりだよ。まぁ死因が腹上死なんてことにならなければいいと思うが。名誉の戦死、とかぬかすバカな男は多いみたいだが、女からしたら迷惑以外の何物でもないからね』


 俺だってそんなカッコ悪い死に方はごめんだ。

 しかしあいつら加減がおかしいからな……。

 ババァの言う通りガチで殺されたりしないか、それだけは悩みの種ではある。


「とりあえず明後日だな? 時間は……」


 ひとまず、連絡してこいと偉そうに宣ったババァへの用事はこれで終わった。

 そう思って部屋に戻ると、異様な光景が目に入った。


「…………」

「…………」

「わかったから、そんな目で見るなっての。それより夜勤明けじゃねぇのかよ、あんた」

「交換、してくれないんですか?」

「……ほら、これ登録していいから」


 そう言って携帯を渡す。

 とてつもなく嬉しそうな顔で登録していく高嶋。


「私、男の人の連絡先とかお父さん以外では初めてです」

「……マジかよ」

「何でそんな引いた顔するんですか、別にいいじゃないですか。寧ろ初めてが俺なんて、嬉しいなくらい言ってあげたらいいのに」

「俺がそう言うこと言うキャラに見えるのか、お前……」


 そうは言ったが、年甲斐もなく嬉しそうな顔してるのを見ると、俺としても何となく毒気を抜かれた様な気になってくる。

 なんて考えたところで、結局そのうち飽きて……なんてことになったら。

 まぁ、高確率で刺されるな。


 っと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。


「そうそう、そんな場合じゃないんだった。悪いんだけど、明後日空けといてくれよ。ババァがお前らにも用事あんだとさ」

「ババァって……いい加減おばあちゃんとか呼んであげたらいいじゃないですか」

「ババァでも余るわ、あの干物」

「その干物になる原因ってあんたが力持ってったから、とかじゃなくて?」

「…………」


 多分そうなんだろう。

 あのババァ、昔はもう少し歳の割に張りみたいなものがあった様に見えたし。

 とは言っても昔の話だし、俺の記憶とかあてにならないんだけど。


 というか戸越も干物は否定しないのか、こっそりチクってやろうかこいつ。


「法事、だったよね? 私たちも出ていいの?」

「まぁ、悪いってことはないからババァも来いって言ってるんだと思うんで。それに……」

「それに?」

「……何でもない。とにかく高嶋さん、あんたは夜勤明けにはしゃいでると倒れるぞ。だからとっとと帰ってだな……」

「ここで寝たらダメですか? ついでにお風呂も借りたいんですけど」


 図々しいなこいつ。

 優しいパパとママが待ってるんだろうから、とっとと帰って飯でも作ってもらったらいいのに。

 何はともあれ、高嶋は……仕事抜けられないって言うから仕方ないとして他は全員来られるという。


 社会人だし、そのくらいは仕方ないと思ってくれるババァであることを祈るばかりだ。

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