38:四月二十七日その①~前哨戦~
あれから数日。
どれからだよ、って話になりそうだから言っておくとあのファミレスでうるさいのがギャーギャー喚いて、というあれだ。
あの日以降、あいつらは代わる代わる俺の元へと来ていたが、それ以外特に代わり映えすることもなく日々を過ごし、約束の日は訪れた。
「……別に時間も場所も指定はしてなかったけどよ、何でこの時間のこの場所なのよ」
「広いところの方がいいかと思ってな。それに暗闇ではお前も目を合わせるのに苦労するだろうからな。彼女たちの勝率も上がるってものだ」
よく考えたものだとは思う。
もちろん能力なしでやりあっても、そうそう負ける気はしないが……あいつらを鍛えたのは何しろ先輩なのだ。
そしてあいつらが抱えているバカでかいカバンも気になる。
今は夜の十時近く。
夜の闇が辺りを支配していて、本来ならば点灯しているであろうライトも何故か消灯している。
ここが俺たちの通う学校で、その校庭に当たる場所でもあることから、先輩が権限使って何かしたんだろう、という推測は立つ。
「まぁ、それはいいでしょ。で、何で池野さんまで?」
「特別ゲストだ。彼女の能力……なのかはわからないが、予測の素晴らしさはお前も身をもって味わっただろう?」
「…………」
確かにあの人の予測は、正直常軌を逸している。
俺が逃げきれないなんてこと……まぁあの時のあのコンディションじゃ仕方ないという言い訳もできなくはないが、万全と言っていい今であっても尚、あの人を欺ききれるかと言われればやや自信はない。
「安心しろ、池野さんはアドバイザーとして参加するに留まっているからお前を攻撃したりはしない」
「そうですか、そりゃどうも」
「それから、私もラスボスとして参加するからな。まずは彼女たちに勝てるかどうか、という話になる」
先輩は攻撃に参加しない、ということは露木、戸越、立川、富岡の四人のみでまずは襲撃してくるわけだ。
とはいえ油断は出来ない。
どんな攻撃を仕掛けてくるかがわからない上に、こいつらを倒したとしてその後に先輩が控えているのだ。
こいつらに無駄な体力を使うわけにはいかない。
「他に質問はあるか? なければぼちぼち始めようじゃないか」
俺の返事を待たず、四人はそれぞれ散開してカバンを漁り始める。
そして池野さんは立川の傍についている様だ。
なるほど、一番戦力的に劣りそうな立川のアドバイザーとして立ち回るということか。
「じゃあ、露木さん、戸越さん。手筈通りに」
「了解しました」
名前を呼ばれた二人を見ると……右手には警棒? の様なものが握られている。
そして左手には小さな拳銃の様なものが……。
「おいおいおい……何てもん持ってんだ、お前ら」
「安心しなさいよ。当たっても死ぬことはないから」
「火薬の量は調整してあるからな、首なんかに当たらなければまず死ぬことはない。さ、始めようか」
先輩の掛け声と共に、露木と戸越が態勢を整えて俺に銃を向けてくる。
そして後方に控える立川と富岡が、何やら長身の武器を取り出して構えるのが見えた。
「マジかよ……マシンガンとか!!」
先手必勝、なんて思って突っ込もうとしていた俺は、一瞬でその作戦を切り替えざるを得なくなる。
四人から放たれる銃弾は、まさしく俺目掛けて飛んでくる。
「うっおおおおおぉぉぉぉ!?」
あんな近くで撃っているのに、同士討ちにならないのは訓練の賜物なのか……いずれにしてもまずはマシンガンが弾切れになるのを待つほかない。
よって今は逃げの一手に徹するほかなかった。
「すばしっこいわね、ゴキブリみたい」
「害虫にたとえるとか、それだとお前ら害虫フェチみたいな位置づけになるけどいいのかよ!!」
秒間何十発撃てるのか知らないが、マガジンが空になれば入れ直しをする手間が出来る。
そこを狙うしかないわけだが、まだあのカバンのふくらみが大きいままなのが、俺としては気になる。
「私たちが足止めするから、マガジン替えて!」
戸越が叫び、小銃を捨てると警棒を手に突っ込んでくる。
気づけば掃射は止んでいて、一瞬の静けさが訪れていた。
「俺に肉弾戦で挑んで、勝てると思ってんのかよ!」
武器があるとは言え、相手は女子高生。
筋力やらも一週間程度でそこまで飛躍的に向上させるなんてことは出来ないはずだ。
しかし、先輩もこいつらも、決してバカではなかった、ということを俺は思い知ることになる。
「ぬおっ!?」
戸越と露木が振りかぶったその警棒からバチバチバチ!! という音と共に眩い光が発せられて、俺はその警棒の正体を悟った。
「スタンバトン……だと? どっからそんなもん……」
「私は金持ちだからな、あらゆるコネを遣わせてもらった」
「……クソが、容赦ねぇなマジで!」
二人が振り回すスタンバトンをギリギリでかわし、俺は再び駆ける。
一発でも食らえば意識が刈り取られることは間違いない。
これはもう、こいつらの相手を後回しにしなければ俺に勝機はないかもしれない。
「そらよ!!」
戸越の攻撃をかわすと同時に俺は戸越の足を払い、尻もちをつかせる。
どうやら追撃用の遠距離武器は携帯していない様だ。
「まずはお前だ!!」
そして俺は富岡の方へと走り、マガジン交換に手間取っていたそのマシンガンを蹴り飛ばす。
「あっ……」
「おっと、動くなよ? 動いたらこいつの首をへし折る」
背後に回り込み、チョークスリーパーの格好で富岡の首に腕を回すと、全員がその手、足を止めた。
池野さんがアドバイスをしてマガジン交換が終わりかけていた立川も、残念そうな顔をしている。
「悪いな、お前には寝ててもらうわ」
「えっ……」
女の子相手に暴力とか、なんて今は言っていられない。
だから俺は、最低限の被害で済む方法を取ることにした。
そう、このまま締め落とす。
「亜沙美ちゃん!!」
「無駄だ。数時間は目が覚めねぇよ。さて、次は厄介そうなお前だな、立川。どう料理してほしい?」
マガジン交換が終わってるんだからとっとと撃てばいいものを、何故か立川は躊躇っている。
しかし池野さんは特にまずいとも思っている様子はなかった。
「何企んでんだ? あの二人が一斉に襲ってきたからって、お前が助かるわけじゃねぇぞ?」
もちろん取って食おうとか、この場で殺害するとか、そんなことは考えていない。
しかし、立川は諦めた様子ではない。
そして池野さんが一瞬、何かを立川に向かって呟くのが見えた瞬間……立川が背後のカバンに手を伸ばした。
俺の第六感とでも言うのだろうか、これは少しやばい。
そう感じて、俺は一歩飛び下がって片目を閉じる。
何故なら、立川も池野さんも、目を閉じていたから。
そして俺の予感が正しいなら……。
「……っ!!」
立川がカバンから取り出し、投げたもの。
それは閃光弾だった。
露木も戸越も俺に背を向けている。
それにしても、何てもん用意してやがんだ、あの化け物おっぱいめ。
ここで隙だらけの露木たちを叩くか……それともマガジン装填が終わっている立川から叩くか。
どちらにしても片目を閉じていたおかげで、俺も視界を全部潰されることはなく動くことが出来る。
「すみませんね。ちょっと寝ててもらいますよ」
「……そうきたか」
立川でも露木でも戸越でもなく……俺は池野さんの背後に回り込んだ。
立川もこれなら発砲できないだろうと踏んでのことだ。
そして締め落としてからゆっくりと、残りを始末したらいい。
「おっと……なかなか狂暴ですね、さすがドS」
「不意打ちも効かないなんて、やっぱり本気の優木くんは違うみたいだね」
回り込んだ刹那に繰り出された肘打ちを受け止め、そのままひねり上げて空いた手で頸動脈を絞めにかかると、一瞬苦悶の表情を浮かべて池野さんも意識を手放した。
これで残るは雑魚三匹。




