14:四月十三日その③
「その方法って、もしかして……」
「ああ、記憶の交換と行こうじゃないか、ってことだな。手っ取り早いだろ。別にお前らの恥ずかしい秘密まで渡す気はねぇし、悪い話じゃないと思うんだが」
「……だけど……」
「もう授業も始まってるし、さすがにあんま悩んでる時間ないし、こっからまたこいつ説得してって、さすがに厳しいんじゃねぇの?」
俺としては最善の一手だと思っての提案だったが、やはり記憶を渡されるというのにはいささか抵抗があるらしい。
まぁ、これが普通の反応ではあるよな、確かに。
ちょっと釣り目気味で勝気な感じの、ポニーテール女子の戸越。
同じくポニーテールだが髪質がややくせっ毛なのか、尻尾がくしゃくしゃの茶髪な多岐。
ツインテールにリボンとかつけてる、自分を可愛く見せたいらしい都筑。
そしてお団子頭が可愛らしい、小動物っぽい感じの立川沙紀。
こいつらそれぞれが、まだ女子高生。
女の子なんだし、怖くても仕方ないと思う。
立川はわかってないから怖がらないだけなんだろう。
「こいつって言わないで。沙紀には立川沙紀って名前があるの」
「……ああ、悪かったな。で、どうするんだ?」
どうでもいいとこ拘るんだな、こいつ。
ニックネームとかで呼ばれた経験だってあるみたいだし、たまにこいつ、とか言われるくらい気にするなよ、なんて思うのは俺がおかしいんだろうか。
「私は、いいよ」
「そうか、じゃあ多岐は決まり。もちろんちゃんと厳選するから安心しろ」
「不安しかないけど……信じるよ」
「私も、いいよ。相手の心境知ってもらう方が早いってのは一理あるし」
「賢明だな、都筑。で、戸越は? 嫌ならいいけど、お前のが一番伝わりやすそうではあるんだが」
「…………」
「美理亜、どうするの?」
戸越だけは、何となく気が進まなそうな顔をしている。
俺が信用できないとか、そういう風にも見えないが。
「……わかった。やりなさいよ。そしたら……立川さんもちゃんと考えてくれるよね?」
「どうだか。それは立川次第なんじゃねぇの? それでダメなら仕方ないと、俺は思うぞ」
「……そうよね」
「んじゃ……立川、一瞬びっくりするかもしれないけど、これがこいつらの意志だ」
意識を集中して、立川にこいつらの記憶を流し込む。
受け取った立川は一瞬、目の焦点がおかしいことになったがすぐに元に戻り、俺を見た。
「……何だよ」
「優木くんだっけ、モテるんだね」
「は?」
「うん、でもちゃんとわかった。ママたちからも少しずつでいいから直しなさいって言われてたし……直すの付き合ってくれる?」
余計な記憶まで渡しちまったか?
たまに調整間違えることあんだけど……まぁ黙っておこう。
「大丈夫、すぐに慣れるって。これから、仲良くしてくれる?」
「うん、さき……私の方こそ、よろしくお願いします」
うん、一件落着って感じだな。
さて、これで俺も心おきなく授業をさぼれる。
「ま、これで解決って感じだろ? じゃ、俺はこれで」
「待ちなさいよ」
「…………」
教室を出ようとしたところで、戸越に腕を掴まれる。
まだ何かあんのか、と思い振り返ると戸越はやたらと赤い顔をしていて、その顔色はリンゴかトマトか、ってくらいだった。
「あんた、見ないフリするんだ?」
「……何のことだよ」
「卑怯ね、あんた」
「……それはお互い様じゃないか? それにそういうのは、本人から言って然るべきことだろ。ずっとそう思ってたんだったら、尚更な」
「……?」
戸越と俺の会話の意味がわからないらしい都筑と多岐だったが、記憶を受け取った立川だけは理解している様だ。
面倒なことになりそうな、そんな予感。
「まぁ、言いたくなったら来いよ。待ってるから」
「え……」
「俺、別に否定はしてねぇだろ。さっきの臭そうとかはたとえだって言ったはずだし」
「ま、まだあんたそんなこと……」
「とりあえず俺は行くから。んじゃ末永く仲良くな」
また喚きそうな戸越を振り切り、俺は教室を出る。
俺に見られて尚あそこまで堂々とされると、俺の中でも若干の意識の変化を感じざるを得ない。
戸越は、俺のことをこの一年、好いていてくれたらしい。
きっかけは大したことではなかった様だが、それでもあいつにとって大きな出来事だった。
しかしその想いがぶち壊される様な出来事が、今朝の全校集会だ。
ショックでもあったが、ならば仲間を集めて強く生きようと決意し、立川を再度説得しようと試みた結果がさっきだったのだ。
「どいつもこいつも、趣味悪いとしか言えねぇぞ……」
屋上まできて、一人呟く。
一体どうなっちまったんだ、これは。
俺は今まで腫物か疫病神くらいの扱いしかされてこなかったし、家族以外では先輩くらいしかまともに接してくれてなんかなかったはずなのに。
まぁ、先輩に関してはそうなってもおかしくないくらいには親しくしていたから、納得できないこともないけど……露木もまぁ……。
戸越のはさすがに火つくの早すぎるだろ。
しかも鎮火してないってどういうことだよ。
健気にも一年の間、思い続けるなんて。
まぁ、ああ言っておけば言ってくることもないんじゃないかと思うが。
今朝のことで割と心折れた感じビンビンだったし。
俺たちくらいの年齢で、女子何人かと一緒にお付き合いしたい、なんて異常なこと考えるやつの方が少数派だろうし、今朝の先輩の募集発言を鵜呑みにすることもあるまい。
「優木、ちょっとこっちきて」
「え……」
そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。
放課後、俺の返事を待たず、腕をとってぐいぐいと進んでいく戸越。
そしてその脇には立川の姿もある。
「お、おい」
「いいから来なさいよ。ごめんなさいね、露木さん。優木借りてくから」
「え、えっと」
「ちょ、お前何黙って見てんだよ、助けろ!」
「い、行ってらっしゃい……?」
「裏切者ー!!」
必死にドアを掴んで抵抗したつもりだったが、その抵抗もむなしく、女子と言えど二人分の力には抗いきれなかった俺はそのままずるずると連行されていく。
「おい……どこまで行く気だよ。周りの視線が痛いんだが」
「黙ってついてきなさいよ。あんたが待ってるって言ったんでしょ」
「……!」
まさかこんな早く来るなんて、想像してなかったんだけど。
ていうか何で立川まで?
こいつ関係ないだろ。
「ま、この辺でいいでしょ」
「……何なんだよ一体」
校舎裏とか、正直リンチされる展開しか想像できないんだけど。
そしてこいつがさっき言ったことが本当なら、俺はこれから……。
「逃げんじゃないわよ。自分で言ったんだから」
「そんなことするかよ。だけど、立川は?立会人か?」
「……沙紀は同じ用件よ。理由は本人から聞きなさい」
「はぁ……?」
そう言われて立川を見ると、立川はやや顔を赤らめて俺から目を逸らす。
同じ用件ってことは、そういうことなのか?
でも俺と立川って、さっきの一件以外で接点ないんだけど。
にしても、さっきの今で随分仲良くなったなこいつら。
「で、どっちからくるんだ? 校舎裏だからって、二人で俺を血祭に上げようなんて用事じゃないんだろ?」
「バカじゃないの? 何でそんなことしないといけないわけ? 黙って聞きなさいよ全く」
ちょっと緊張してそうだったから、和やかにしてやろうかと思ったのに。
バカって……。
「まぁ、いいけど。じゃあどっちからでもいいから、どうぞ」
「何よそれ……じゃあ私からでいい?」
「う、うん」
何だって立川は、こんなことしようとしてんだろうな。
さっきより顔真っ赤になってるし。
あの一件くらいしか心当たりないけど、あれがきっかけだったんだとしたら……さすがにお安すぎませんかね。




